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生物科学
Volume 53,No.4 ☆品切・重版未定 2002

Mar.

目次

特集:生物多様性をめぐって

●松田裕之:再燃する「生物多様性」論争……193

●近藤倫生:生物多様性パターンはどのようにして生み出されるのか?
 ―中規模撹乱仮説と生産性仮説を統合する―……195
 撹乱強度,生産性といった環境の変化(環境傾斜environmental gradient)に伴って,生物の種数が一定の規則で変化すること(生物多様性パターン)が理論的に予測されている.しかし,実際に観察される生物多様性パターンは,状況に応じて変化し,決して一定ではない.生物多様性パターンはどのようにして決まるのだろうか.シンプルな数理モデルを使った理論的研究によって,「種間相互作用」,「生息地内部での分散」,「種のソース」という異なる空間スケールで働く三つの因子の間の相互作用を考慮することで,多様な生物多様性パターンが創出される一つのメカニズムが示された.
キーワード:生物多様性,多種共

●伊藤嘉昭・佐藤一憲:種の多様性比較のための指数の問題点
 ―不適当な指数の使用例も多い―
……204
 生物多様性のなかの重要な局面である種多様度(species diversity)を示す指数としては,多くの種多様度指数が提案されている.そのなかで特に広く使われてきたのはShannon - Wiener指数である.しかし群集間の種多様度の比較にはこの指数は欠点があることが1996年Landeと森下により指摘され,これと前後して各種の指数の長所・欠点の論議も行われているのに,日本ではいまだにこれらの論議を参照しないで群集間の比較にShannon - Wiener指数を使用した論文が多い.本論文では各種の多様度指数とその長所・欠点を紹介し,実例を用いていくつかの指数を比較したのち,使用にあたっては(1)Peet(1974)のType I, Type IIの両方の指数を併用すること,(2)Lande(1996)のすすめた1 - D(Landeの1 - λ)のほか,森下(1996)の提案した修正Shannon - Wiener指数H*, Sato et al.(準備中)の提案するlog(1/D)および公平度J’を使うことをすすめた.また多様度指数があらわすのは群集の生物的豊かさの一面に過ぎず,他の側面も考慮すべき事も実例で示した.
キーワード:生物多様性,種多様度指数,群集比較,Simpson多様度,Shannon - Wiener指数,log(1/D)

●畠山正統:昆虫の精細胞に授精能はあるか?……2
 カブラハバチでは,昆虫で唯一,卵細胞質内精子注入(intracytoplasmic sperm injection, ICSI)法で体外人工授精が可能である.この特長を利用して,精子になる前の未成熟な雄性配偶子に授精能があるかどうか検証した.その結果,雄性配偶子は成熟段階によって,胚発生への関与のしかたが異なることが明らかになった.他の動物でこれまでに得られている結果と対比し,その普遍性と特殊性について論じる.
キーワード:精細胞,体外人工授精,卵細胞質内精子注入法,キメラ,ゲノム刷り込み

●大滝哲也・大滝倫子:疥癬
 ―とくに老人医療の問題を巡って―
……228
 1970年代からわが国で,ヒゼンダニが皮膚角質層にはいり込んでおこす皮膚病―疥癬―が流行し始め,現在に至ってなおその流行は衰えていない.それどころか,むしろ老人病院や老人福祉施設(養護老人ホームなど)では最も患者数の多い感染症になっていて,それら施設では大変な問題になっている.ここではヒゼンダニの生態がどのように感染に関わっているかを解説し,このような感染症が医療が進んでいるはずの日本でなぜ沈静化しないかを考察した.疥癬流行の遷延化の原因は多々あるが,医療行政,医学教育,薬業界など諸機関の複合的な問題としてとらえていくべきであろう.この稿では主な読者の専攻を考えて,疥癬の診断と治療は詳細な説明を避けたが,必要な方は文献を挙げたので参考にして頂きたい.
キーワード:疥癬,角化型疥癬,ヒゼンダニ,老人病院,老人福祉施設

●中内光昭:“生命”は細胞により演じられる
 ―「細胞」の再認識―
……233
 従来,細胞は生物体の構造的,機能的な「単位」とされてきた.しかし,最近の生物学の革命的進歩は,細胞こそが生命を演じる「主体」であり,多細胞個体は細胞によって構築された高次の構造体と見なされるべであることを示している.ただ,このように細胞の個体に対する立場が,「単位」から「主体」へと,いわば「コペルニクス的」に逆転したことについての,研究者自身の自覚は十分ではないと思われる.細胞のもつ意味を再認識する必要性と,その認識がもつ意義を指摘する.
キーワード:細胞,生命,遺伝子,生物教育

●書評―
『農学の野外科学的研究―「役に立つ」研究とはなにか―』/『生態系と農薬』/『森の記憶』/『森の自然史【複雑系の生態学】』/『クモの生物学』/『ダニの生物学』/ 『アブラムシの生物学』/『カメムシはなぜ群れる?』/ 『ユスリカの世界』/『群体の生物学』/『ネイチャーガイド 海の甲殻類』/『魚名文化圏:イワナ編』ほか2編/『日本コウモリ研究誌:翼手類の自然』/『虹の解体:いかにして科学は驚異への扉を開いたか』/『栽培植物の進化:自然と人間がつくる生物多様性

English_conents

Special feature : Problems on biodiversity

Matsuda Hiroyuki : Revival of biodiversity controversy(193)

ondoh Michio : What determines the biodiversity pattern : unifying‘intermediate disturba-nce hypothesis’and‘productivity hypothesis’(195)

It? Yosiaki & Sato Kazunori : Problems around the indices of species diversity for comparison of different communities(204)

Hatakeyama Masatsugui : Do insect spermatids have potential to fertilize eggs?(221)

Ohtaki Tetuya & Ohtaki Noriko : Epidemic of scabies on the geriatric hospitals and nursing homes
(228)

Nakauchi Mitsuaki : The“life”is played by the cells- There - perception of the status of the cells -(233)

Book reviews(239)

Back issues(254)

 今回の特集は生物多様性です.松田編集委員の序言にもありましたが,この特集は最初から意図したものではなく,たまたま近藤倫生さんと伊藤嘉昭・佐藤一憲さんの2つの論文が投稿されてきたことから,編集者が“渡りに船”と小特集に組んだものです.松田さんが指摘するように,科学的裏付けのないまま,“生物多様性”が一人歩きをする危険性も存在します。科学と社会の橋渡しの役割をその発行のポリシーのひとつにしている『生物科学』は,こうしたことにも警鐘を鳴らしたいと思っています.
 今号には書評が15編も載っています.1号と3号にページの関係で書評を載せられなかったからです.科学離れ,書籍離れと言われる昨今,編集方針として書評を重視している『生物科学』はそれなりの存在意義を持っています.論文には原稿料は出していませんが,書評には1篇1万円の稿料をお出ししていますので,もし書評してみたい本がありましたら,遠慮なくご連絡下さい.
 草創期からながらく編集委員をつとめられた沼田真さんが亡くなられました.謹んで哀悼の意を表します.また今年度一杯で鈴木信彦,可知直毅,林良博の3編集委員が退任され,新たに山口陽子,徳永幸彦,長嶋寿恵の3人を編集委員としてお迎えしました.女性研究者や植物分野の編集委員を充実させていきたいと思っております.この巻では編集委員以外のレフェリーとして,渡辺守さん,小山幸子さんのご協力を得ました.記して御礼申し上げます.(U)

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