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生物科学
Volume 54,No.1 2002

Jul.

目次

特集:霊長類研究と人間研究の橋渡し

小林洋美:「見る目」から「見せる目」へ―ヒトの目の外部形態の進化―……1
 ヒトの目の外部形態がもつ特徴を,他の霊長類との比較研究からあきらかにした.ヒトの目は,霊長類中もっとも横長の輪郭をもち,霊長類中唯一,色素着色のない白い強膜がひろく露出していた.横長の輪郭と広く露出した強膜とは,体サイズの大型化と地上生活への適応的形態であることが示唆された.白い強膜は,顔面での目の位置や視線方向を検出しやすいものにしており,ヒトのコミュニケーションにおける「他者に見せる目」としての機能を反映していると考えられる.
キーワード:霊長類,視線,コミュニケーション,強膜色,眼球運動

松本晶子:におい信号における性的コミュニケーション:チンパンジーとヒトを中心に……12
 霊長類は一般的にコミュニケーションの際に嗅覚にはあまり頼っていないと考えられていた.しかしながら,霊長類もまたにおい信号によってさまざまな情報を伝えているのではないかということが明らかになりつつある.においのような化学信号には発し手の生理状態がかなり正確に反映されるため,その進化には性淘汰が大きく作用していると考えられる.チンパンジーとヒトを中心に霊長類におけるにおい信号と性の関係について概観し,におい信号を手がかりに,ヒト上科における社会構造と繁殖システムの進化について考察した.
キーワード:におい信号,性淘汰,フェロモン,ヒト上科,社会進化

●平田 聡:チンパンジーにおける母子のコミュニケーションと社会的知性の役割……21
 チンパンジー母子3組の観察から,社会的知性が母子のあいだで果たす役割について考察した.チンパンジーの母親が子どもを運搬して移動する場面において,動作を介したコミュニケーションが見られる.また,子どものおかれた状況を母親は的確に理解して対処している.霊長類の中でも,類人猿やヒトは,子どもがゆっくり育ち,母親は手をかけて養育する特徴をもつ.こうした母子のあいだで,他者とのやりとりを可能にしたり,他者のおかれた状況を理解したりするための社会的知性が,重要な役割を果たしていると考えられる.
キーワード:チンパンジー,子どもの運搬,社会的知性,育児,大型類人猿

●沓掛展之:動物における葛藤解決行動と人間研究への応用可能性……31
 1970年代後半に始まった動物の葛藤解決行動研究は,主に霊長類を対象として,社会交渉時における行動戦略や意志決定,認知能力に関して興味深い知見を提供してきた.そして,その影響は霊長類以外の哺乳類や人間の幼児の研究など,多様な方面に刺激を与えている.本稿では,主に霊長類の仲直り行動に焦点を当て,現在までに明らかにされている知見を紹介し,人間研究への応用可能性について紹介したい.
キーワード:葛藤解決行動,仲直り行動,「慰め行動」,霊長類,人間の幼児

●溝口 元:臨海実験所と発生学―蜜月から乖離,そして新たな模索へ―……40
 ナポリ臨海実験所(SZN : 1872年設立)やウッズホール臨海実験所(MBL : 1888年設立)は,とくに19世紀末から1920年代の間,海産無脊椎動物を使った実験発生学的研究が行われた場所として知られる.臨海実験所といえば,発生学的研究の拠点というイメージはこの2つの実験所の活動に負う所が大きいと感じられる.また,日本の西欧近代生物学も発生学的研究から本格的に開始したと捉えることができる.日本からもSZNやMBLに設立ほどない頃から赴き,知識や研究手法の修得,人脈を築いてきた.しかし,1970年代を機に,米国では臨海実験所の閉鎖が始まり,日本でも機構改革や改組が進んだ.また,発生学も遺伝子操作を研究手法に導入した発生遺伝学に関心を寄せる研究者が増えた.それに伴い,材料も従来の海産動物からショウジョウバエやネズミ,線虫,培養細胞などに変わってきた.SZNもMBLも海産動植物の入手困難な内陸の研究機関に材料を提供することが使命の一つであった.しかし,皮肉なことに19世紀後半の臨海実験所を必須としていた発生学から,それを必ずしも必要としなくなったのが今日の姿とも思える.
キーワード:臨海実験所,発生学,ホイットマン,ドールン,団勝磨

●遠藤秀紀:談話室―インパールを嘲えぬ“学術”のいま……51
 談話室

●書評―
『自然はともだち 南沢博物誌』/『里山の環境学』/『稚魚の自然史―千変万化の魚類学―』/『動物の「食」に学ぶ』/『ダニの生物学』/『オサムシの春夏秋冬―生活史の進化と種多様性―』

English_conents

Special feature : A bridge between studies of primates and human beings.

Kobayashi Hiromi:From eyes that see to eyes that signal : - morphological evolution of the human eye(1)

Matsumoto Akiko - Oda:Sexual communication using olfactory signals - focusing on chimpanzees and humans(12)

Hirata Satoshi:Communication in chimpanzeemo-ther - infant pairs and the role of social intelligence(21)

Kutsukake Nobuyuki:Animals reconcile : conflict resolution andmanagement in humans and other animals(31)

Mizoguchi Hazime : Marine biological laboratory and embryology : past, present and future
(40)

Endo Hideki:Logistics of Science in Japan is not different from that of“Imphal.”(51)

Book reviews(54)

Guidance of contribution(61)

Back issues(64)


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