特集:新昆虫目はどこまでわかったか?―発見から3年,カカトアルキの生物学―
●巻頭言:批判の是と非(浅見崇比呂) ……1
●町田龍一郎:特集にあたって……2
2002年,カカトアルキ目(踵行目)Mantophasmatodeaが新たな昆虫類の目として記載された.このたいへんセンセーショナルなニュースは驚きとともに世界中の研究者の興味を惹きつけた.「この新昆虫は既知の昆虫類の体系の中でどのように位置づけられるのだろうか?」,「どのような昆虫なのだろうか?」,そして,この分布の限られた新奇の昆虫を理解しようとの国際的なプロジェクトが立ちあがり,世界中の研究者がさまざまなアプローチにより研究を開始したのである.カカトアルキ目誕生から2年,2004年夏にオーストラリア・ブリスベンで開催された第22回国際昆虫学会議で,カカトアルキ目に関してのシンポジウムが企画され,それまでに得られた知見が紹介,議論されたのである.今回の特集はこのシンポジウムでの発表を中心にして,これまで展開されてきたカカトアルキ研究の成果を総括するものである.
キーワード:新昆虫目,カカトアルキ,研究プロジェクト
●K.-D. Klass:昆虫の新目・カカトアルキ目(昆虫綱:新翅類)……6
2002年に新たな昆虫目として記載された「カカトアルキ目」に関し,新目設立以降にあきらかとなった形質もふくめ,形態形質を中心に概説する.複数の固有派生形質により,カカトアルキ目の単系統性,独立した昆虫群であることが支持されるとともに,この目に属すべき琥珀化石の存在もみつかっている.
キーワード:新昆虫目,形態,系統,分布,琥珀化石
●M. D. Picker:南アフリカに現生するカカトアルキ目……9
カカトアルキ目の新設は博物館の標本にもとづくものであったが,すぐさま,アフリカ大陸南西端・ナマカランドとよばれる砂漠地域から,生きたカカトアルキが発見された.この発見を機に,カカトアルキの謎に迫る,さまざまな研究が展開されることとなるが,その発見までをふりかえってみた.
キーワード:現生のカカトアルキ,発見,南アフリカ,ナマカランド,砂漠
●東城幸治ほか:カカトアルキ目の生物学……11
生きたカカトアルキの発見により,この昆虫におけるさまざまな研究が可能となった.カカトアルキ類の分布,分類を概説するとともに,ユニークな生態についても,とくに,繁殖に関わる行動を中心にのべる.
キーワード:分布,分類,生態,繁殖
●R. Dallaiほか:カカトアルキ目の精子構造と系統……17
カカトアルキ目プロジェクトの一環として行なわれた精子構造についての初期の検討はカマキリ目との類縁を示唆した(Dallai et
al. 2003a).しかし,今回,それまで不確かであったガロアムシ目の精子構造を詳細に検討し,結合帯の存在および付属微小管原繊維数が明らかになったことにより,カカトアルキ目はガロアムシ目・カマキリ目・バッタ目とともに多新翅類の中で最も派生的な一つのクレードにまとめられるとの新たな考えが導かれた.
キーワード:精子,カカトアルキ目,ガロアムシ目,多新翅類,系統
●塘忠顕ほか:カカトアルキ目の卵巣構造・卵形成と系統……23
カカトアルキ目の卵巣構造や卵形成過程は,多新翅類のそれらと多くの点で一致し,有翅昆虫類の原型的な特徴をしめす.卵膜の微細構造には,カカトアルキが生息する乾燥地帯への適応と思われる特徴のほかに,カカトアルキ目とガロアムシ目との類縁性を示唆する特徴がある.
キーワード:カカトアルキ目,多新翅類,卵巣構造,卵形成,卵膜
●町田龍一郎ほか:カカトアルキ目の胚発生と系統……29
新目カカトアルキ目の発生学的特徴は他の多新翅類のそれに多くの点で一致する.この中で,胚運動,卵殻の特徴はガロアムシ目と本目の類縁を示唆するものであった.また,カカトアルキの卵や発生過程には独特な特徴も見出された.これらは特殊な環境に適応してきたカカトアルキの姿である.
キーワード:カカトアルキ目,多新翅類,比較発生学,胚発生,卵構造
●内舩俊樹・町田龍一郎:カカトアルキ目との類縁が示唆されるガロアムシ目……35
ガロアムシ類はアジアや北米地域の冷涼な地域に生息する昆虫類であり,有翅昆虫類の中でも最も長い歴史をもつグループの一つである.近年,生息域の離れたカカトアルキ類とガロアムシ類との類縁性を示唆するデータが,発生学や分子系統学などにおいて次々と提出されている.
キーワード:ガロアムシ目,カカトアルキ目,分布,化石,比較発生学
●J. Damgaard & K.-D. Klass:カカトアルキ目の分子系統解析統……40
新昆虫・カカトアルキ目が系統分類学的にどのように位置づけられるのか? 学名がしめすようにカマキリ目やナナフシ目とは近縁なのだろうか? あるいは,この両グループ以外のいずれかの昆虫類と近縁であるのか? これはとても興味深く,かつたいへん難しい課題である.もともと,カマキリ類やナナフシ類がふくまれる多新翅類の高次系統そのものが混沌としているのであるから.しかし,多新翅類昆虫の特徴をモザイク的にあわせもつカカトアルキ類の発見は,多新翅類はもちろん,昆虫類の高次系統に一石を投じる存在となりえるかもしれない.このような背景のもと,形態形質はもとより遺伝子情報も用いて総合的な系統学的解析を進めてきた.目レベルでの系統についてを詳しくのべるには時期尚早と考えているが,カカトアルキ目内の類縁性に関しては,ある程度の結果が得られている.ここでは,とくに遺伝子情報にもとづくカカトアルキ目内の類縁性を中心に考察したい.
キーワード:分子系統,ミトコンドリア遺伝子,COI, 16S rRNA
●倉西良一:自然誌博物館におけるカカトアルキ目の展示……45
2003年春,マントファスマ(カカトアルキ目昆虫)の雌雄の標本を本邦初公開した.日本とは遥かに離れたアフリカに生息する小さく地味な昆虫ではあったが,展示会は想像以上の反響があった.昆虫学関係者にとどまらず,マスコミ等を含めた一般市民からも多くの声が届いた.ここではカカトアルキの展示を通し,新しい昆虫がどう市民に受け入れられたかを振り返ってみたい.
キーワード:カカトアルキ,博物館,展示,新種,新目
●石井弘明:樹高成長の限界はどこまでか?……49
樹高成長の限界を規定する要因として梢への吸水の限界による水力学的制限説が有力視されている.樹高が100mを越える北米のセコイアメスギでは,樹冠内の高さにともない針葉とシュートの形態が大きく変化するが,樹冠の最上部では光環境が大きく変化するにも関わらず,形態とクロロフィル量はほとんど変化しなかった.これは水ストレスなどの内的要因が光に対する形態的・生理的順化反応を制限していることを示唆している.
キーワード:形態的可塑性,水力学的制限説,生理的可塑性,光順化,水ストレス
●書評―『日本の植物園』『キナバル山』『パンダの死体はよみがえる』『死と老化の生物学』『川に生きるイルカたち』『メジロの眼』『鳥たちの森』『日本産水生昆虫
』
●三中信宏:“みなか”の書評ワールド
Special feature:The Biology of the Mantophasmatodea - Advances
in three years from its discovery-
Machida, R.:Preface to the feature:Recent advances in biology of
Mantophasmatodea(2)
Klass, K. - D.:The new insect order Mantophasmatodea (Insecta :
Neoptera):Ordinal status and phylogenetical position(6)
Picker, M.D.:Mantophasmatodea now in South Africa―the dramatic discovery
of extant representations of the new insect order―(9)
Tojo, K, Machida, R., Picker, M.D. & Klass, K.-D.:Biology of
Mantophasmatodea, with special reference to distribution, taxonomy
and reproductive biology(11)
Dallai, R., Machida, R., Uchifune, T., Lupetti, P. & Frati,
F.:The sperm structure of Mantophasmatodea and their phylogeny(17)
Tsutsumi, T., Tojo, K., Uchifune, T. & Machida, R.:Ovarian structure
and oogenesis of Mantophasmatodea and their proposed phylogeny(23)
Machida, R., Tojo, K., Tsutsumi, T. & Uchifune, T.:Embryonic
development of Mantophasmatodea and their proposed phylogeny(29)
Uchifune, T. & Machida, R. : Grylloblattodea:A proposed affinity
between Grylloblattodea and Mantophasmatodea(35)
Damgaard, J. & Klass, K.-D.: Molecular phylogeny in Mantophasmatodea(40)
Kuranishi, R. B.:An exhibition of the order Mantophasmatodea in
natural history museum (45)
Machida, R. :Present and future in a “Mantophasmatodea Research
Project” (47)
Ishii H. : Where is the limit to height growth of tree?― Canopy
research in a 100m ― tall redwood tree― (49)
Book reviews (54)
Book reviews by Minaka (62)
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