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生物科学
Volume 57,No.2 2006

Jan

目次

特集:自然体験から生物学教育へ

●巻頭言:読書の秋に思う(上田恵介) ……65
●吉岡秀樹:3世代(中学生とその父母,祖父母)の子ども時代の自然とのふれあい比較……66
  比較的自然が豊かだと思われている千葉県北部の農村地域においても,カエルやザリガニなど、かつて子どもなら誰でも興味をもっていたような生物が、現在の中学生にはほとんどなじみがないという事態が進行している.そこで,中学校の生徒,その父母,および祖父母にアンケートを実施することにより,自然と接する度合いについて調べてみた.その結果,全体的に祖父母世代よりも父母世代,さらに中学生世代と,世代が下がるにつれて生物とのふれあい経験は大幅に少なくなることがわかった.また小動物に対しての子供たちの忌避感は,親世代や祖父母世代とくらべての自然体験不足が背景にあるように思えた.今後,子どもたちにどのような質・量の自然や自然体験をさせてやればよいのか.早急に明らかにする必要がある.
キーワード:自然とのふれあい,子ども時代,三世代,自然体験,中学生
●初宿成彦:生物学教育と自然史博物館〜地域生物相の解明を担う市民活動〜……72
 博物館は一般に,展示部分のみが活動の中心と見られがちであるが,実際には友の会などを通じ,地域市民とさまざまな活動を日常的に行っている.本稿 では市民が博物館での活動を通じ,採集して標本にすることの積み重ねによって,種数の膨大な地域昆虫相が明らかにされていることを紹介する.また,それらを基にした博物館の資料収集活動,普及教育活動,また生物学教育における役割についても述べる.
キーワード:生物学教育,自然史博物館,地域生物相,昆虫採集,新種,同定
●石渡政志:検定外「新しい科学の教科書」における生物多様性の教育
……77
 学習指導要領の問題点を克服し,子どもたちに「ゆたかな生物世界観」を形成するために,検定外「新しい科学の教科書」では生物多様性と進化を軸にした動物学習を提案した。具体的な種の生態,環境への適応,各分類群の代表的な動物を意図的に取り上げ,生物世界の視野を広げたいと考えた。授業後の生徒の自由記述からは, 多様性や進化,そしてヒトの特殊性などを深く考え,それに対する驚きや感動そして興味を持ったことが読み取れた。
キーワード:生物多様性,教育,進化,検定外教科書,ゆたかな生物観,動物学習
●朝倉彰:『現代人のための中学理科―新しい科学の教科書―』(第2版)に寄せて……84
 環境問題を考える上で,“コモンズの悲劇”は避けて通ることのできない問題である.
 “悲劇”を抑える方法は基本的には監視と罰則による規制であるが,近年,心の進化的特性に基づいた解決の方向も模索されている.本稿では,このような動きも概観した上で,「自然体験→野生生物の擬人化→自然環境保全の意識」という,“悲劇”を改善する可能性をもつ新たな認知構図を提示,検討した.「自然体験と擬人化思考との関係」,「擬人化の進化適応的意味」,「擬人化と野生生物保護の意識との関係」についての欧米の研究や,筆者自身による日本での調査結果を交えて議論した.
キーワード:自然体験,コモンズの悲劇,擬人化,環境問題,認知的流動
●鈴木邦雄:『ケイン 生物学』を読んで 資料:「若者の理科離れを考える」(自然史学会連合意見書)……89
 『ケイン 生物学』を読み,その内容の概要を紹介するとともに,筆者の所属する富山大学理学部生物学科における初等教育用の統一的な教科書選定計画の動きについて,その契機や問題点などを簡単に紹介した.
キーワード:生物学教科書,大学教育,初等教育,カリキュラム
●小林朋道:自然体験と擬人化思考:コモンズの悲劇から環境問題を考える……94

 環境問題を考える上で,“コモンズの悲劇”は避けて通ることのできない問題である.
 “悲劇”を抑える方法は基本的には監視と罰則による規制であるが,近年,心の進化的特性に基づいた解決の方向も模索されている.本稿では,このような動きも概観した上で,「自然体験→野生生物の擬人化→自然環境保全の意識」という,“悲劇”を改善する可能性をもつ新たな認知構図を提示,検討した.「自然体験と擬人化思考との関係」,「擬人化の進化適応的意味」,「擬人化と野生生物保護の意識との関係」についての欧米の研究や,筆者自身による日本での調査結果を交えて議論した.
キーワード:自然体験,コモンズの悲劇,擬人化,環境問題,認知的流動

●工藤慎一:保全とは何か?―松田氏の批判に反論する……101  
 「保全」は「我々の振る舞い方の一つ」であり,いかに振舞う「べき」かに科学の規範内部で解答しようとすれば,それを意思決定の理論枠で考えざるを得ない.しかし保全生物(生態)学は,その必要条件を満たしていない.にも関わらず,日本生態学会は要望書の形で保全の必要性を公に主張している.自然科学で扱えないことを,自然科学の学会が公に主張することは,もともと科学の帰結でないものに「科学的」という「鎧」を与える行為なのではないか?「自然科学の規範内部にあるか否かを厳しく問う」,この姿勢を守ることこそが,自然科学の学会の,そして自然科学者の社会的な責任なのではないか?
キーワード:保全,意志決定,科学,科学者,学会

●川井唯史:ニホンザリガニと人間の関係……107
 ニホンザリガニと天皇および皇室との関わりついて調べた.宮内庁の一次資料を調査した結果,大正天皇の御大典にニホンザリガニを材料とした料理(ポタージュ)が出されたことが裏付けられた.このポタージュには北海道支笏湖産のニホンザリガニが用いられたことも明らかになった.国立科学博物館筑波研究資料センターの昭和天皇の標本類コレクションでは,ニホンザリガニが見つかった.またアメリカ国立スミソニアン自然史博物館では,1906年に北海道函館市の市場で販売されていたニホンザリガニの標本があった.これは1〜2個体が1本の串に貫かれていた.以上のことからニホンザリガニが人間に食品等として利用されていたことが確かめられた.
キーワード:ニホンザリガニ,Cambaroides japonicus,皇族,アメリカ国立スミソニアン自然史博物館,食用

●網谷祐一:哲学者による種問題ガイド:D. Stamos“The Species Problem”書評……110

●書評―『生態学入門』『予防原則』『保全生物学』『アニマル・ウエルフェア』『昆虫―大きくなれない擬態者たち』『生命 最初の30億年』
●三中信宏:“みなか”の書評ワールド

English_conents

Special feature:Nature experience to education for biology

Yoshioka Hideki : Comparison of nature experience in their childhood among three age classes(66)
Shiyake Shigehiko : Education of biology and natural history museum : a citizens’movement for making a list of local fauna(72)
Ishiwatari Masashi : An education of biodiversity in a school text of science,“Atarashii Kagaku no Kyokasyo”(77)
Asakura Akira : On“New Text Book of Science for Junior High School Students,”unauthorized by the Ministry of Education, Science and Culture(84)
Suzuki Kunio : Personal impressions of Cain’s‘Discover Biology’,with special reference to a recent trend for selecting introductory biology textbooks in the biology department of Toyama University(89)
Chinzei Kiyotaka : An opinion on the education of naturae history(92)

Kobayashi Tomomichi : Nature experience, anthropomorphic thinking, and tragedy of the commons(94)
Kudo Shin - ichi : What is conservation?(101)

Kawai Tadashi : Relationships between human and the Japanese crayfish, Cambaroides japonicus(107)

Amitani Yuichi : The philosopher’s guide to the species problem : David N. Stamos“The Species Problem”(110)

Book reviews (113)

Book reviews by Minaka (119)


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