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生物科学
Volume 57,No.4 2006

May

目次

特集:種内系統地理学の新展開

巻頭言:「種内系統地理」特集にあたって(向井貴彦)……193
富永篤:ブチサンショウウオの分化……194
 ブチサンショウウオは,流水産卵性の小型種で,西日本の山地に広く分布し,形態的・遺伝的な地理的変異を示す.本種のアロザイム変異,形態変異,ミトコンドリアDNAの塩基配列に基づく系統関係を解析し,その進化史を推定した結果,本種は2つの主要なグループに分けられた.それらの分化と現在の分布範囲は,中新世末期から鮮新世の地殻変動の影響と,同所的または側所的に生息する近縁種との競合関係の影響を強く受けていることが示唆された.
キーワード:生物地理学,アロザイム,ミトコンドリアDNA,種間競争,サンショウウオ属
●林文男:核DNAとミトコンドリアDNAで異なるトンボ類の分子系統樹:近縁種との交雑が集団遺伝構造に及ぼす影響……203
 ミトコンドリアDNAは,一般的に塩基配列の解読が容易で,かつ変異率が高いため,近縁種間の系統関係や種内の系統地理学的解析に用いられる.しかし,それは,核DNAとは異なり,母性遺伝をする.トンボ類に関して,核とミトコンドリア両方のDNAを用いて解析を行うと,しばしば相反する結果が得られた.両者の違いは,交雑を介したミトコンドリアDNAの種間浸透に起因すると考えられた.トンボ類で浸透的交雑が起こりやすい背景を,異種間交配の頻度,交雑個体の妊性,浸透遺伝子の拡散と固定の3段階に分けて考察する.
キーワード:種分化,交雑,遺伝子浸透
前川清人:アジア産ラゲイクチキゴキブリ(網翅目,オオゴキブリ科)の分子生物地理学的研究……211
 クチキゴキブリ属中,例外的に広域分布を示すラゲイクチキゴキブリについて,分子生物地理学的な解析を行った.分布域のほぼ東西をカバーする,ネパールから台湾までのアジア各地から採集された16個体のミトコンドリアCOII遺伝子を解析した結果,本種は現在の分布域の西側に起源を持つことが示唆された.個体群間の分岐年代を推定した結果,本種の分布パターンは,山脈や河川などの地理的な障壁だけでなく,熱帯雨林帯の広がりや森林植生などに大きく影響を受けてきたと考えられた.
キーワード:網翅目,オオゴキブリ科,ラゲイクチキゴキブリ,分子生物地理,ミトコンドリアCOII遺伝子
●星野幸弓:イソカイメン類の分子系統地理学……217
 系統地理学は,現存の個体群における遺伝子の地理的分布とその系統情報をもとに,個体群の歴史を明らかにすることを目的としている.この目的を達成するために様々な方法が開発されており,多くの生物でその歴史が明らかにされつつある.しかし,海綿動物においては,あらゆる水域に生息する非常に多様な分類群であるにも関わらず,現在まで系統地理学的研究はほとんど行われておらず,その遺伝的構造や分布と地史との関連は明らかにされていない.ここでは,これまでに行われた海綿動物の遺伝的研究の背景と分子系統地理的研究の結果を紹介し,著者らが行った系統地理的解析と集団遺伝学的解析の結果を例としてその問題点についてもふれる.
キーワード:海綿動物,遺伝的分化,分子系統地理,NCPA
●加納光樹ほか:諸外国で輸入が禁止されている侵略的外来魚……223
 2005年6月1日から外来生物法が施行された.この法令に基づいて,魚類ではオオクチバスなど13種が特定外来生物に指定され,原則的に輸入が禁止されている.一方,諸外国ではすでに多くの魚類が侵略種として扱われ,法令により輸入が禁じられているが,そのような情報は集約されていないのが実状である.そこで今回,我が国に気候条件が類似するイギリスやニュージーランドなど6カ国で輸入が禁止されている侵略的外来魚について比較検討したところ,合計14目25科89属の1100種以上の魚類について輸入が禁止されていることがわかった.これら6カ国の輸入禁止種リストには,次のような種が含まれていた:1)捕食,競合・駆逐,交雑による遺伝的攪乱,生息環境の改変,疾病の伝播などにより在来生物に被害をもたらすおそれのあるもの;2)釣りや食用のための放流,放流種苗への混入,飼養施設からの逸出,観賞魚の遺棄などで導入されるおそれがあるもの;3)淡水域で生活史の一定期間を過ごすもの;4)温帯性のもの.これらの情報を参考にしながら,我が国においても,適切な輸入禁止種リストを作成することが望まれる.
キーワード:侵略的外来魚,海外法令,輸入禁止種,普及啓発
●島田泰夫:風力発電とバードストライク……233
 風力発電の技術開発が進むにつれ,国内の施設も大型化・大規模化しつつある.これに伴い,風力発電施設への鳥類の衝突事故(バードストライク)が報告されるようになってきた.アメリカのアルタモント地域では年間数千個体の鳥類が風力発電施設に衝突死すると推定されており,衝突の回避・低減のため,科学的な調査結果に基づく様々な措置が提言されはじめた.日本国内では,衝突数の調査研究はほとんどないことから,不安や憶測の議論に終始している.地球温暖化抑制の有力な手段のひとつとして風力発電を選択するのであれば,より実証的で定量的な議論へ脱皮する必要がある.その第一歩として鳥類事故調査を実施し,衝突の実態を明らかにすることが求められる.
キーワード:風力発電,鳥類,イヌワシ,バードストライク,アルタモント
●小野山敬一:Ahl & Allen著『階層理論:見方,語彙,および認識論』を読んで……243
●書評―『ナメクジウオ 頭索動物の生物学』
●三中信宏:“みなか”の書評ワールド

English_conents

Special feature : The progress in intra-specific phylogeographyi

Special feature : The progress in intra-specific phylogeography(193)
Tominaga Atsushi:Differentiation of Hynobius naevius(194)
Hayashi Fumio: Different molecular phylogenies of Odonata between nuclear and mitochondrial DNA:effects of interspecific hybridization on population genetic structure(203)
Maekawa Kiyoto:Molecular phylogeography of the Asian wood-feeding cockroach Salganea raggei Roth (Dictyoptera: Blaberidae) (211)
Hoshino Sayumi:Phylogeography of the littoral sponge(217)
Kanou Kouki, Yoshida Tsuyoshi, Inoue Takashi, Senou Hiroshi, Hosoya Kazumi & Taki Yasuhiko: Import-prohibited invasive alien fishes in various nations(223)
Shimada Yasuo:Bird collisions to wind power facilities (233)
Onoyama Keiichi : A review of“Hierarchy theory : a vision, vocabulary, and epistemology”(243)
Book reviews(249)
Book reviews by Minaka(251)

 

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