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生物科学
Volume 58,No.2 2007

Mar.

目次

特集:人類社会と社会性の進化

●巻頭言:人間の本性(ダーウィンの雨季)(上田恵介) ……65
●小田亮:「人類社会と社会性の進化」特集にあたって……66
●井原泰雄:雄による子の世話と配偶システムの進化……68
 雄と雌の関係は動物社会の構造を規定する重要な要素である.ヒトは,その婚姻形態に文化的多様性をもつものの,おおむねつがいを作る傾向のある動物だと言えるだろう.ヒトのこの性質は進化の過程でいかにして獲得されたのか.本稿では,雄による子の世話が子の生存に与える影響に注目し,まず,ヒト以外の動物を対象に発展してきた配偶システムの進化理論を概観する.次に,これに基づいてヒトの配偶システムの進化について考察する.
キーワード:一夫一妻,親による子への投資,数理モデル,つがい外交尾,雌の多重交配
●小田亮:社会的知能の構造を探る
……77
 適応的観点から,ヒトの知能は領域特異的なモジュールの集まりであるという説が唱えられている.また知能は社会的な淘汰圧への適応として進化してきたという説もあり,それらから考えられるのは,個別の社会的な淘汰圧へ適応したモジュールの集合体としての知能の構造である.このような社会的知能の構造を明らかにする方法のひとつとして,Wason選択課題(4枚カード問題)を用いた研究がある.同一被験者に複数のWason選択課題について回答してもらい,選択パターン間の連関を調べることで,モジュール間の関係とその働きについて考察した.
キーワード:社会的知能,モジュール,Wason選択課題,利他主義,裏切り者検知,感情
●松本晶子:メスの繁殖戦略からみたチンパンジーの社会―発情の時間的な分布―……87
 社会を生物学的にとらえるときには,繁殖という観点が重要である.動物の集団は食物の発見や捕食者に対して形成される(たとえば,Alexander 1974)と同時に,繁殖集団でもある.もし,発情している一方の性の個体が空間的に集まっている場合,他方の性が囲い込むことによって繁殖成功度が高まるなら,集団が形成される.集団構成(たとえば,オスの数とメスの数,繁殖可能な個体の性比),配偶システム,そして繁殖戦略は種特有の性的特徴と関連して変化してきた.ヒト固有の性的特徴としては,長期的な性的二者間関係,共同育児,他の性的カップルとの近接,内密のセックス,排卵の隠蔽,女性の性的受容期の延長,楽しむためのセックス,女性の閉経があげられてきた(Diamond 1997).ヒトに系統的・遺伝的に最も近縁なチンパンジーPan troglodytesでは,その性的特徴として頻繁な交尾,オスの大きな睾丸,メスの性皮腫脹(図1),必要以上に長い発情期間をあげることができるだろう.本稿の目的は,チンパンジーの集団構成,配偶システム,そして繁殖戦略を明らかにし,どのような進化的淘汰圧が働いた結果,チンパンジーに固有の性的特徴が進化したのかを検討することである.
キーワード:資源の時間・空間的な分布,発情の避けあい,性的な強制,軍拡競争,父系の起源
●松木武彦:ヒトの社会性と人工物の進化……96
 人工物の進化は,ディヴェロップメント(機能的発達)とエラボレーション(認知的誘引性付加)という2要素からなり,それぞれの人工物は両者をさまざまな比率で体現する.エラボレーションは,社会的交換のなかで行われるシグナリングの一種(material signalling)として発現したと考えられ,社会性の産物といえる.エラボレーションは,約60万年前のホモ・エレクトゥス後半期の精製握斧に初めて認められ,約10〜7.5万年前以降のホモ・サピエンス後半期には飛躍的に発展する.
キーワード:人工物,認知進化,社会性,進化考古学,Costly signalling theory
●青木健一:学習の意義と進化……103

 個体学習と社会学習の能力が進化する条件を,環境変動との関係において理論的に検討する.後期旧石器時代以降,ヒトが蓄積的な技術発展を遂げることができたのは,両方の能力に長けていたからであろう.一方,近縁のネアンデルタールは,個体学習の能力において劣っていたように思われる.ヒトのみが経験したアウト・オブ・アフリカと呼ばれる急速な分布拡大こそ,ヒトに特徴的な混合学習戦略を進化させた要因であると議論する.
キーワード: キーワード:個体学習,社会学習,環境変動,アウト・オブ・アフリカ,ネアンデルタール

●杉浦真治:島の植物に被食防御は必要か?―海洋島での花外蜜腺の消失と移入アリによる影響……111
 多くの植物では,花以外の器官にも蜜腺(花外蜜腺)をもち,これによってアリを誘因して植食性昆虫による食害を減らすことが知られている.一度も大陸とつながったことのない海洋島であるハワイ諸島では,花外蜜腺を持つ植物はほとんど見られない.これは在来のアリが分布しないハワイでは多くの植物が種分化する過程で花外蜜腺を失ったためと考えられている.同じ海洋島である小笠原諸島においても,固有植物で花外蜜腺の消失が見られ,この島特有の植物と昆虫の相互関係があることがわかってきた.しかし,近年,新たに移入されたアリの増加によって,そうした関係が微妙に変化しつつある.
キーワード:移入種,海洋島,植食性昆虫

●川井唯史・中田和義・大高明史:日本のザリガニ類の生物地理と将来……115
 日本国内には在来種のニホンザリガニ,外来種のウチダザリガニ・アメリカザリガニが分布する.これらの分布域の形成に関して検討した.ニホンザリガニの分布域と類似した分布を示す,一生を淡水で過ごす生物は見当たらない.そのため本種の分布域は,稀有な例である.ニホンザリガニの分布域の形成には,少なくとも水温と地史が影響していると考えられた.外来種の2種は,国内に持ち込まれた後,分布域が急激に拡大し,これには人間による放流が深く関与している.また外来種が密放流により新しく分布域を形成した場合,その由来となった個体群の推定には,ザリガニ類の寄生生物であるヒルミミズ類の種組成が参考になる例が示された.ウチダザリガニは今後分布域を拡大する可能性があり,これに伴い在来の生態系に悪影響が生じる可能性が高い.今後は法規制の徹底が必要であり,合わせてザリガニ類に対しての一層の理解が望まれる.
キーワード:ザリガニ,水温,ヒルミミズ,分布,保全

●書評― 『系統樹思考の世界:すべてはツリーとともに』『ゴリラ』
―お詫びと報告―
●(再録)嶋田正和・大村大輔・高橋亮:遺伝子組換え作物から近縁野生植物への遺伝子浸透―許認可体制と交雑性をめぐる問題―


English_conents

Special feature : Evolution of human society and sociality

Ueda Keisuke: On human nature (65)
Oda Ryo:Introduction (66)
Ihara Yasuo : Paternal care and evolution of mating systems (68)
Oda Ryo:Searching for the structure of social intelligence (77)
Matsumoto-Oda Akiko:Temporal distribution of estrous days and mating strategies in female chimpanzees (87)
Matsugi Takehiko : Human sociality and the evolution of artefacts (96)
Aoki Kenichi : Significance and evolution of learning (103)
Sugiura Shinji : Are anti - herbivore defences of island plants significant? : Loss of extrafloral nectaries of oceanic island plants and impacts of introduced ants (111)
Kawai Tadashi, Nakata Kazuyoshi & Ohtaka Akifumi:Zoogeography of crayfishes in Japan and expected changes in future distribution (115)
Book Reviews (124)
Apology for the error in the previous issue (127)
Shimada Masakazu, Ohmura Daisuke & Takahashi Ryo : Introgression from genetically modified plants into wild relatives: problems in permission systems and hybridization (corrected version re-published)

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