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生物科学
Volume 58,No.4 2007

July.

目次

特集:外来種の生物地理学

巻頭言:生物の和名をめぐって(鈴木邦雄)……191

向井貴彦:DNAから見た外来種研究:どこまで“犯人”を追えるのか?……192

三浦収:太平洋を渡った巻貝,ホソウミニナの移入経路の特定……202
 外来種の増加は環境破壊の大きな原因の一つになっている.その外来種がどこから,そして,どのような経路をたどって運ばれて来たのかを特定することは,外来種の侵入を防ぎ,生態系の保全を行う観点からも重要な課題である.本稿では,アメリカで大発生しているホソウミニナの移入経路を特定した例を中心に,最近発展の目覚しい分子遺伝学的手法の有用性について紹介する。
キーワード:ホソウミニナ,分子遺伝学的手法,移入経路

山崎いづみ・渡邊精一:海の向こうの“在来種”:モクズガニの地理的多様性の危機……207
 近年,外来種が在来生物群集に及ぼす影響についての危機感が広がり,様々な輸入動植物の流通や飼育などが法律で規制されるようになった.しかし,在来生物群集に影響を与えるのは,限られた外来種だけではない.現在のところ,日本産と“同種”であれば規制は無いものの,遺伝的にも形態的にも明確に異なる地理的グループが海外に分布するならば,同様な問題が生じる可能性がある.本稿では,日本の在来種であり,なおかつ極東アジアの諸外国にも分布するモクズガニの種内変異についての研究を紹介しながら,この問題について考えてみたい。
キーワード:モクズガニ,地理的変異,種内分化

土田陽介・佐藤千夏・向井貴彦:岐阜県周辺地域におけるオオクチバスの侵入と分布拡大パターン……213
 岐阜県は豊かな水環境に恵まれ,濃尾平野固有の希少淡水魚の生息する地域であるが,オオクチバスの移入と分布拡大によって希少淡水魚の地域的絶滅などの悪影響を受けている.そこで,岐阜県周辺地域におけるオオクチバスの分布拡大要因を明確にするためにmtDNAハプロタイプの地理的分布を調査した.7県35地点で採集したオオクチバス281個体のmtDNA調節領域前半部の塩基配列を決定した結果,多くの場所で同一の塩基配列(ハプロタイプh)が分布していた.ハプロタイプhは1925年に日本に持ち込まれたオオクチバスに由来すると推測されており,岐阜県周辺には1970年代の第一次バス釣りブームの時期に持ち込まれたと考えられる.しかし,異なる塩基配列(ハプロタイプc, gなど)が局所的に分布する地域もあったため,それらの場所では由来の異なる系統が追加放流された可能性がある.さらに,これまで近畿地方以外で確認されていなかったフロリダ半島産亜種のハプロタイプが野尻湖と揖斐川河口で発見された.これらの遺伝的証拠は,複数系統のオオクチバスが岐阜県周辺地域に放流されてきたことを示している。
キーワード:ブラックバス,ミトコンドリアDNA,ハプロタイプ,外来生物法

天野一葉:外来鳥類の定着に影響する要因とソウシチョウの現状……221
 外来種の影響は,生物多様性の保全上,長期的に見た場合に,生息地の消失よりも大きく,最大の脅威になると認識されている.生息地の消失による種の絶滅と異なり,外来種は,遺伝的撹乱,病気の運搬,生態系の撹乱などを通じて長期的に在来生物群集に影響を及ぼし,地域固有の生物多様性を脅かす.本稿ではソウシチョウをとりあげ,外来種が新天地に侵入する際に定着に影響する要因について考察した.ソウシチョウは,原産地に似た日本の環境に適応し,在来鳥類群集とは営巣場所や採餌空間のマイクロハビタットが異なるために定着に成功したと考えられているが,ウグイスへの間接的な影響が危惧されている.外来鳥類の駆除・管理は,それ自体が生態系へ影響を与えうるので,生態学的な情報を元に慎重に行われるべきである.
キーワード:外来鳥類,侵略的外来種,ソウシチョウ

押田龍夫:日本に持ち込まれた外来リス類の分子系統学的研究……229
通常系統進化を議論するために用いられる分子系統学的手法は,外来リス類を調べる際にも応用することができる.これまでにリス類の分布が見られなかった狭山丘陵で近年発見されたリス個体は,ミトコンドリアDNAチトクロムb遺伝子塩基配列を用いた解析から,日本の固有種ニホンリスではなく,外観が類似した外来のキタリスであることがわかった.また,ミトコンドリアDNAコントロール領域塩基配列を用いた解析から,これまで台湾からのみ移入されたと考えられていた外来種クリハラリスは,台湾を含め少なくとも二つの異なった移入起源を持つことが示唆された.
キーワード:外来種,クリハラリス,キタリス,分子系統

二橋亮 :アゲハ幼虫の紋様形成とホルモンによる制御……233
 昆虫の紋様の多様性は,古くから多くの人々の興味を引いてきたが,紋様形成に関わる分子機構には不明な点が多い.アゲハの幼虫は,4齢までは鳥の糞に擬態しているが,5齢になると全身が緑色に変化する.これら2つの齢期の紋様を比較することで,各齢期における紋様形成に関わる多数の遺伝子が同定された.脱皮・変態に関わるエクジソンと幼若ホルモンがそれらの遺伝子を制御していることも明らかになった.アゲハ幼虫の紋様形成を制御する機構について,遺伝子レベルで考察する.
キーワード:アゲハ,幼虫紋様形成,擬態,エクジソン(20E),幼若ホルモン(JH)

尾崎研一・遠藤孝一・工藤琢磨・河原孝行:環境影響評価によるオオタカ保全の限界とそれに代わる個体群保全プラン……243
 希少種であるオオタカの保全は,主に事業段階で行われる環境影響評価の中で行われている.しかし,環境影響評価という制度は本来オオタカの保全を目的とはしていないため,@オオタカの保全に重要な空間スケールに対応していない,A保全が開発計画の後追いになる,B事業の影響を定量的に予測していないという問題がある.これらの問題点を克服しオオタカ個体群の存続を保証するためには,環境影響評価による個体を対象とした保全から個体群を対象とした保全への転換が必要である.ここではオオタカ個体群を保全するためのマスタープランを提案する.そこでは,まずオオタカの生息数や分布,遺伝的多様性を把握する.そして,それらの結果をもとに個体群存続性分析を行い,個体群が存続可能な面積の保護区を設定する.保護区内では順応的管理にもとづく生息地保全とモニタリングを行う.このような個体群保全策によりオオタカと人間が共存するためには,そのための保護制度の整備が必要である.
キーワード:オオタカ,猛禽類,環境影響評価,個体群存続性分析,保護区

書評―『南の島の自然誌―沖縄と小笠原の海洋生物研究のフィールドから』


English_conents

Special feature : Biogeography of alien species

Mukai Takahiko : DNA analyses on biological invasions : case studies of freshwater fishes in Japan (192)
Miura Osamu : The invasion pathway of the intertidal gastropod, Batillaria attramentaria (202)
Yamasaki Izumi & Watanabe Seiichi : The‘native’species come from over the sea : geographical diversity crisis of Japanese mitten crab (207)
Tsuchida Yosuke, Sato Chika, Mukai Takahiko : Invasion process of largemouth bass inferred from distribution of mtDNA haplotypes in and around Gifu Prefecture, Japan (213)
Amano E. Hitoha:The factors affecting establishment of alien birds and the status of the Red - billed Leiothrix (221)
Oshida Tatsuo:Molecular phylogenetic studies on alien squirrels introduced in Japan (229)
Futahashi Ryo : Hormonal regulation of larval pattern formation in the swallowtail butterfly, Papilio xuthus(233)
Ozaki Kenichi, Endo Koichi, Kudo Takuma & Kawahara Takayuki : Limitations in Northern Goshawk conservation based on environmental impact assesments and a conservation plan to maintain viable populations of Northern Goshawks (243)
Book review (253)


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