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生物科学
Volume 61,No.1 2009

Dec.

目次

特集:においの生物学

●巻頭言:科学における対立仮説とどう向き合うか
―地球温暖化問題をめぐる「懐疑論」のこと―(鈴木邦雄)
……1

●橋口康之:嗅覚研究の面白さと難しさ……2

●大瀧丈二:嗅覚研究の生物学的意義……4
 嗅覚生物学は近年最も進歩の著しい生物学分野の一つと言ってよい.嗅覚生物学を広い意味で解釈すると単なる匂い物質の受容にとどまらず,細胞が外界の化学物質を受け取る過程(細胞レベルの化学受容)も含まれる.さらに化学受容という範囲を超えて,神経生物学,発生生物学,遺伝子発現,動物の行動や進化までを包含する一大パラダイムであると考えることができる.方法論的にも,嗅覚生物学は単なる分子生物学を超えて,広範囲の生物学分野と密接な関連を持つ.本論文では,嗅覚生物学が提示する重要な問題に触れながら,その生物学的意義について,さまざまな視点から多面的に論じる.
キーワード:嗅覚生物学,生物学的意義,化学受容,G蛋白質共役受容体,神経回路

●野澤昌文・根井正利:嗅覚受容体遺伝子ファミリーの進化:遺伝子数進化を中心に……15
 嗅覚受容体(olfactory receptor, OR)は自然界に存在する多種多様な匂い物質に結合し,その情報を脳に伝達する.そのため,この受容体をコードするOR遺伝子ファミリーは動物ゲノムにおける最大の遺伝子ファミリーの1つである.最近の大規模なゲノム解析により,様々な生物においてOR遺伝子の数が決定され,その数は種によってかなり異なっていることがわかってきた.OR遺伝子の数は進化過程でおもに種の生息環境に応じて変化してきたが,ゲノム浮動や遺伝子発現機構なども遺伝子数の変動に多大な影響を与えてきたと考えられる.
キーワード:遺伝子数多型,嗅覚受容体遺伝子,ゲノム浮動,出生死亡過程,多重遺伝子ファミリー

●松尾隆嗣:ショウジョウバエの食性進化と化学感覚受容……24
 昆虫の食性決定において,化学感覚受容の果たす役割は大きい.遺伝学のモデル生物であるキイロショウジョウバエに最も近縁でありながら異なる食性を示すセイシェルショウジョウバエの研究から,匂い物質結合蛋白質(odorant-binding protein : OBP)をコードする二つの遺伝子が産卵場所の選択に関与していることがわかった.末梢神経系で機能する遺伝子がいかにして食性の転換をひきおこすのかを考える.
キーワード:セイシェルショウジョウバエ,ヤエヤマアオキ,匂い物質結合蛋白質,OBP

●山家秀信:サクラマスで発見された性フェロモン「L-キヌレニン」……32
 日本人にとって馴染み深い生物の1つであるサケ科魚類の性フェロモンは,長い間その実体が不明であったが,最近になりサクラマスOncorhynchus masouにおいて排卵メス尿に含まれるL-トリプトファン代謝物のL-キヌレニンが,成熟オスを誘引するフェロモン主成分であることがわかってきた.トリプトファンは生理活性物質へと変換されるアミノ酸として最も重要であると言っても良いだろう.その代謝物は,生物界において種を超越したケミカルシグナルとして我々の想像以上に広く利用されているかもしれない.
キーワード:性フェロモン,尿,トリプトファン代謝物,繁殖,魚類

●泰中啓一・吉村仁:イースト菌における少子化パラドックス……40
 出芽酵母の増殖について,「少子化パラドックス」という現象があることが分かった.これは集団全体の増殖率が低下し,子供が産まれなくなると,子供の比率が増えるという逆理である.しかもこのパラドックスには二種類もあって,その原因は質的にまったく異なるものであった.格子気体モデルを使うと,イースト菌の不思議な世界が見えてくる.
キーワード:出芽酵母,指数増殖,密度効果,親と子の比率,少子化パラドックス

●八尾泉:アブラムシ―アリ共生関係の生態と進化……50
 アブラムシ―アリ共生関係は古くから研究の対象となってきたが,アリと共生するアブラムシの種数は実際には少ない.アブラムシがアリとの共生関係を築くためには,いくつかのハードルを乗り越えなければならないからである.アブラムシとアリの共生関係の接点となる甘露は,とくに重要な役割をはたしており,その生産にはコストがかかる.また,寄主植物も共生関係成立のための大きな要因となっている.
キーワード:アブラムシ─アリ共生関係,甘露,メレジトース,寄主植物

●書評―『森の芽生えの生態学』/『ブナ林再生の応用生態学』/『干潟を考える 干潟を遊ぶ』/『奇妙でセクシーな海の生きものたち』/『発生遺伝学 脊椎動物のからだと器官のなりたち』/『ウニ学』


English_conents

Suzuki Kunio:Opposite hypotheses in science(1)
Special feature : The biology of olfaction
Hashiguchi Yasuyuki:Introduction(2)
Otaki Joji M. : Biological significance of olfactory research(4)
Nozawa Masafumi & Nei Masatoshi:Evolution of olfactory receptor gene family : mechanisms of copy number evolution(15)
Matsuo Takashi:Evolution of host-plant selection and chemosensory system in Drosophila(24)
Yambe Hidenobu:A sex pheromone“L-Kynurenine”found in masu salmon(32)
Tainaka Keiichi & Yoshimura Jin : Paradox of declining birthrate in budding yeast(40)
Yao Izumi:Ecology and evolution of aphid-ant mutualisms(50)
Book reviews(59)


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