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生物科学
Volume 61,No.3 2010

May.

目次

特集:生物がつくる構造物:延長された表現型

●巻頭言:学術系インターネット:ML・ブログ・ツイッターの私的体験から(三中信宏)……129

●上田恵介:“表現型”はどこまで延長されるのか……130

●松本忠夫:シロアリ類の巧妙な巣造りの進化……131
 植物枯死体の分解者であるシロアリ類は地球における陸上の熱帯圏で最も現存量が大きい動物である.また,多くの捕食動物からの捕食圧に対抗して高度な真社会性が進化し,きわめて強固な巣を構築する種類が多い.シロアリ類が造る巣はまさしく厳しい生存競争に打ち勝つための拡張された表現型であり,どのような遺伝プログラムによって発現されるものであるのか興味深いが,現状では巣造りの初期段階における自己組織化やスティグマジーの様相しか分かっていない.今後,ワーカーたちが環境応答する際の分子生物学的および生理学的基盤に関する研究の進展が望まれる.
キーワード:社会性昆虫,超個体,営巣様式,巣の機能,自己組織化,スティグマジー,フェロモン,環境応答

●遠藤千尋:穴は掘るもの―小さなケラの巣穴周辺をめぐる諸問題……141
 動物が構築する構造物の形態の精巧さや多様さ(Frisch 1974, Hansell 2005)には,素直に驚嘆し魅了されてしまう.この素晴らしい構造物を「延長された表現型」(Dawkins 1982)としてとらえることは,遺伝的基盤をもった行動の積み重ねとして,さまざまな材料を用いて構築される構造物に,自然選択や性選択が働くことを認識させる画期的なアプローチであった(Hansell 2007).またDawkinsの意図とは少し異なるが,動物のつくる構造物が環境に与えるインパクト(Hansell 1993),ビーバーのダムのように構造物が環境を改変する作用ecosystem engineering(Jones et al.1994, 1997),そしてニッチ構築(Odling-Smee et al.2003)という流れとなって,動物が構造物をつくって環境を変えることが,遺伝的なフィードバックとなって受け継がれ,新たなニッチをつくりだし,生物群集を形成する重要なプロセスであるという概念にまで展開されつつある.複数の機能をもつケラの巣穴について,これまでわかってきたことをまとめ,今後どのような切り口でアプローチすることができるのかを考えてみる.
キーワード:音声シグナル,コミュニケーション,フィードバック,環境改変

●中田兼介:クモの網―糸と形が織りなす機能―……147
 クモの網は餌捕獲のためのトラップであると同時に体外に拡がる感覚系でもある.網は,餌を衝突させ,その動きを止め,餌の存在をクモに伝え,クモがやって来るまで餌を逃がさない,という4つの働きをしなくてはならない.各段階における網の性能は,材料である糸の性質とその配置方法によって決まる.円網は定期的に張り替えられ,クモはその度に糸の性質や網の形を外的・内的条件に応じて可塑的に変えている.
キーワード:円網,捕食,知覚,建築物,可塑性

●三木(川原)玲香:トゲウオの巣作り:その多様性と進化……156
 春になるとイトヨのオスは赤い婚姻色を示して巣作りをし,ダンスでメスを誘って産卵を促す.そして巣に産みつけられた卵を孵化まで世話する.巣は,メスにとって卵の生存率を左右する重要な構造物であり,交配するオスを選ぶ際の判断材料としても利用していると考えられる.一方オスにとっても,卵を保護するためだけでなく,メスへアピールするための機能があると考えられる.本稿ではまず,イトヨをはじめとしたトゲウオ亜目魚類の複雑で多様な繁殖様式について,とくに巣作りに注目しながら,その機能や役割について紹介したい.次に,巣作りがトゲウオ類においてどのように進化してきたのか,分子系統学的解析から得られた系統樹をもとに考察する.そして,営巣の際巣材の接着に用いられる糊状物質スピギンをコードする遺伝子の起源と進化についての研究を紹介し,営巣と糊状物質の進化の関わりについて考えたい.
キーワード:トゲウオ,イトヨ,巣作り,糊状物質,遺伝子重複

●江口和洋:ニワシドリ類の多要素ディスプレイ……166
 ニワシドリ類はオスがあずまやと呼ばれる構造物を地上に作り,ディスプレイを行う.あずまやの形状や周辺に置かれる装飾物の量がオスの交尾成功に関与しており,「延長された表現型」の典型的な例と言える.しかし,単にあずまやだけでなく,行動ディスプレイ,音声模倣などをも含めて,ニワシドリ類のオスは多くのディスプレイ形質を組み合わせた複雑なディスプレイシステムを用いて交尾成功を高めていることが最近の研究で明らかになっている.本論文ではニワシドリ類のあずまや建築行動の進化に関する最近の研究をレビューする.
キーワード:あずまや,あずまや壊し,多要素ディスプレイ,ニワシドリ,認知能力

●書評―『変わる植物学広がる植物学 モデル植物の誕生』/『階層構造の科学―宇宙・地球・生命をつなぐ新しい視点』/『擬態の進化―ダーウィンも誤解した150年の謎を解く』/『日本の希少鳥類を守る』/『生物間相互作用と害虫管理』/『ニカメイガ 日本の応用昆虫学』/『南極昭和基地に氷の海の生き物を見る』/『動物分類学』/『ザリガニ―ニホン・アメリカ・ウチダ』(岩波科学ライブラリー162)/『土壌動物学への招待』/『新しい地球学』/『昆虫の保全生態学』


English_conents

Minaka Nobuhiro:Academic uses of the Internet : Personal experiences of mailing lists, blogs, and twitters.(129)
Ueda Keisuke:Introduction(130)
Special feature:Animal construction as extended phenotype
Matsumoto Tadao:Evolution of sophisticated nesting behavior in termites(131)
Endo Chihiro:The burrowing is to live - issues around the small burrow of mole crickets(141)
Nakata Kensuke:Spider orb-web - thread property, web morphology and function(147)
Kawahara-Miki Ryouka:Nest-building of sticklebacks-diversity & evolution(156)
Eguchi Kazuhiro:Multiple display signals in bowerbirds.(166)
Book reviews(180)


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