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生物科学
Volume 63,No.1 2011

Sep.

目次

特集:共生と共進化

東樹宏和:「共進化する世界」でつながる生命……2
 生物は,生態系のなかでつねにせめぎあい,「共進化」によって変化しつづけている.生物の世界は決して「静的」ではなく,お互いの動向を背景としながら動きつづけているのである.本論では,植物の種子を食べる昆虫の「武器」と植物側の「防衛」の「軍拡競争」の事例を紹介しながら,共進化が自然界でどのように進行しているのか考察する.今後の生態学では,共進化する生物種の「ネットワーク」に目を向けることが,生態系の動態を適切に理解するうえで必要となってくるであろう.
キーワード:共進化,生態系,自然選択,ネットワーク

圡田努:昆虫の色や天敵からの逃れやすさが,細菌感染で変わる……8
 生物の体色は,自然界において多彩な機能を担うきわめて重要な性質である.アブラムシ自然集団にはしばしば異なる体色の個体が共存し,それぞれの捕食者や寄生者からの逃れやすさが異なることが知られてきた.筆者らは,エンドウヒゲナガアブラムシの自然集団から,赤色のアブラムシを緑色に変えるRickettsiella属の新規な共生細菌を発見した.細菌による体色変化の影響は,単に感染個体のみにとどまらず,生態系におけるアブラムシの捕食―被食関係をも変化させるものと考えられる.
キーワード:体色,共生微生物,アブラムシ,捕食?被食関係,色素

細川貴弘:吸血性昆虫トコジラミの菌細胞内に存在する相利共生型ボルバキアの発見……17
 トコジラミは,血液という栄養分の偏った餌のみで生活し,体内に菌細胞を保持することが知られている.菌細胞内の共生細菌を分子生物学的に同定したところ,ボルバキアの一種であることが判明した.トコジラミからこのボルバキアを除去するとほとんど成長・繁殖できなくなったが,餌にビタミンB類を添加するとボルバキアを保持しない個体も正常に成長・繁殖した.これらの結果から,多くの昆虫で寄生者になっているボルバキアが,トコジラミでは宿主に必須栄養分を供給する相利共生者になっていると考えられた.
キーワード:トコジラミ,ボルバキア,細胞内共生細菌,菌細胞塊,ビタミンB類

菊池義智:ヒル類における細胞内,膀胱内,腸内共生細菌の多様性……24
 吸血性ヒル類はその体内に共生細菌を持ち,緊密な相互作用をおこなっている.ヒル類における細菌との共生様式は多様で,腸内に共生細菌を持つものや細胞内に共生細菌を保持するもの,さらには膀胱の内腔中に共生細菌を保持するものなどが知られている.本稿では,これら吸血性ヒル類にみられる多様な共生系についてその生態と進化を概説するとともに,ヒル―共生細菌間相互作用の分子機構について最近の研究成果を紹介する.
キーワード:ヒル,共生細菌,共生の分子機構,多様性

矢野幸司・川口正代司:根粒を舞台にしたマメ科植物と根粒菌の共生……33
 マメ科植物と根粒菌による共生窒素固定は,農業上の有用形質として古くから利用されてきた.この共生は,植物の根に形成された根粒と呼ばれる器官で成立している.近年,マメ科モデル植物を用いた研究の進展によって,根粒器官の形成と維持に関わる植物側の因子が分子レベルで明らかになりつつある.本稿では,マメ科モデル植物として知られるミヤコグサの研究から明らかになった,根粒共生の分子メカニズムについて解説する.
キーワード:ミヤコグサ,根粒菌,アーバスキュラー菌根菌,共生

小林哲:モクズガニ類の侵略の生物学?T.モクズガニ属の分類学:侵略的外来種チュウゴクモクズガニと日本の在来種モクズガニ……42
 特定外来生物を含むモクズガニ属(広義)は東アジア原産で6種あり(チュウゴクモクズガニ,モクズガニ,ヘプエンシス,オガサワラモクズガニ,ミナミモクズガニ,ヒメモクズガニ),ヒメモクズガニを除き降河型の通し回遊を行う.チュウゴクモクズガニ,モクズガニ,ヘプエンシスは非常に近縁で種か亜種かの問題で分類学的な混乱が続いた.チュウゴクモクズガニは大河川の河口に発達するエスチュアリーに分布し,侵略的外来種であるとともに中国文化圏の代表的食材である.
キーワード:モクズガニ属,モクズガニ,チュウゴクモクズガニ,系統分類学,地理的分布

大塚淳:証拠と推論の哲学:E. Sober, Evidence and Evolution 書評
[原著] Elliott Sober 2008. Evidence and Evolution. xx+392 pp. Cambridge Univ. Press, Cambridge.
……55
 限られた証拠から,いかにして過去の選択圧や系統関係を推論・復元するか.種々の統計的推論はどのような思想に支えられており,またそれらは何を前提とするのか.本書評では,生物学の哲学の第一人者であるエリオット・ソーバーの近刊書,『進化と証拠』の内容を紹介しつつ,進化論における証拠と推論の関係性と,そのもとに控える生物学的・統計学的・哲学的な問題群について考察する.
キーワード:生物学の哲学,推論,統計的手法,進化仮説,系統推定

岡敏弘:放射線リスクへの対処を間違えないために……61

書評?『生命の起源を探る?宇宙からよみとく生物進化』


English_conents

Futahashi Ryo & Yumoto Takakazu : Introduction(1)
Special Feature : Symbiosis and co-evolution
Toju Hirokazu:Evolving in the Red Queen world(2)
Tsuchida Tsutomu : Symbiotic bacteriummodifies insect’s body color and susceptibility to predators(8)
Hosokawa Takahiro: Discovery of bacteriocyte-associated mutualistic Wolbachia in the bedbug Cimex lectularius(17)
Kikuchi Yoshitomo:Diversity of intracellular-, intravesical-, and gut-symbiotic bacteria in leeches(24)
Yano Koji & Kawaguchi Masayoshi:Symbiotic nitrogen fixation between legumes and rhizobia(33)
Kobayashi, Satoshi : Invasive biology of the mitten crab Eriocheir spp. -I. Classification of Eriocheir : invasive alien species E. sinensis (Chinese mitten crab) and Japanese native species E. japonica (Japa-nese mitten crab)(42)
Otsuka Jun : Philosophy of Evidence and Inference: Review of Elliott Sober’s Evidence and Evolution(55)
Oka Toshihiro:Do not make a mistake in your behaviour to radioactivity(61)
Book Review(64)

表紙写真の撮影者名が間違っておりました。
  誤)坂口博信 → 正)東樹宏和

撮影者並びに読者の皆様にお詫び申し上げます。


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