特集:次世代シーケンサーで何ができるか?
●巻頭言:次世代シーケンサーで何ができるか?(川原玲香)……129
●用語解説……130
●橋口康之・熊澤慶伯:脊椎動物嗅覚受容体遺伝子ファミリーの進化研究における次世代シーケンサーの活用……131
匂い物質のセンサーである嗅覚受容体は,嗅覚系の進化を考える上で重要である.しかし嗅覚受容体遺伝子は巨大な多重遺伝子ファミリーであるため,それらの進化を網羅的に調べることは容易ではない.本稿では,次世代シーケンサーを用いた嗅覚受容体遺伝子の網羅的な配列決定についての筆者らの研究を紹介しつつ,今後の嗅覚の進化研究における次世代シーケンサーの活用法について考察を行った.
キーワード:嗅覚受容体遺伝子,脊椎動物,爬虫類,進化,遺伝子発現
●小北智之:エコゲノミクスにおける網羅的遺伝子発現解析―魚類での研究例から―……141
近年の進化生態学における大きな進展として,自然集団の適応進化や生殖隔離をもたらす遺伝的背景へのアプローチが挙げられる.とくに,近年の次世代シーケンサーの普及は,これまでのモデル生物に加え,広義のゲノムリソースという基盤がなかった非モデル生物のエコゲノミクス研究を革新的に変化させつつある.本稿では,エコゲノミクスで用いられる代表的なアプローチのうち,集団間や近縁種間における比較トランスクリプトーム解析に焦点をあて,魚類での研究例を紹介するとともに,今後の展望を述べる.
キーワード:適応的分化,集団トランスクリプトミクス,遺伝子発現,マイクロアレイ,RNA-seq
●松村英生・寺内良平:次世代シーケンサーを利用したタグによる発現解析……151
次世代DNAシーケンサーを利用して各mRNA(cDNA)の特定部位から抽出した短い断片(タグ)の配列を大量解析することで,タグの出現頻度により数万遺伝子の定量的なデジタル遺伝子発現データを得ることができる.またIndexを用いた複数試料の解析やRNA増幅を用いた微小組織の発現解析の利用によりさまざまな生物種での研究ツールとしての汎用性も高くなっている.さらにタグ配列はゲノム配列とのデータ互換性が高いため各種生命現象を解明する足がかりとなる遺伝子等を見出す上で有用である.
キーワード:次世代シーケンサー,遺伝子発現,トランスクリプトーム,ハイスループットSuperSAGE
●伊藤英之・Christopher Adenyo・吉川夏彦・村山美穂:野生生物のマイクロサテライトマーカーの大量同定と保全への応用……159
マイクロサテライトマーカーは,普遍性,中立性および共優性などの特徴によりさまざまな分野に用いられ,とくに集団遺伝学の分野においては最も一般的な遺伝マーカーの一つである.近年,次世代シークエンサーの進歩・普及により,従来は多くの労力・時間・コストを必要としたマイクロサテライトマーカーの開発が容易になり,さまざまな種において開発が行われている.本稿では,当研究室での例を中心に,次世代シークエンサーによる利点を紹介する.
キーワード:マイクロサテライト,次世代シークエンサー,集団遺伝学,絶滅危惧種
●柿岡諒:生態・進化ゲノミクスのためのRADシーケンシング……168
次世代シーケンサーの普及によって,生物の適応の遺伝的基盤や集団の歴史をゲノムレベルで調べて明らかにすることが可能になってきた.非モデル生物でも次世代シーケンサーを利用して容易にゲノムワイドSNPマーカーを大量に作成し,遺伝子型判定することのできる手法に,RADシーケンシングがある.RADシーケンシングの実験・解析手法を概観するとともに,進化や生態に関する研究への代表的な適用例を紹介する.
キーワード:次世代シーケンサー,SNPマーカー,制限酵素,Restriction-site associated DNA
●藤原晴彦:次世代シーケンサーの現状を考える……177
DNAシーケンサー機能の急速な進展には目を見張るが,生物学の分野では必ずしも有効に使われていない.欧米のみならず中国などの新興国でも,次世代(もしくはそれ以降)シーケンサーに対する大規模な投資と利用が拡充しているのに比べると,日本の状況はかなり心許ないとの印象をもつ.大量DNA配列の取り扱いに関しては素人の筆者が最近体験したことなどから,次世代シーケンサーを取り巻く日本の現状と近未来を考えてみた.
キーワード:次世代シーケンサー,ゲノム,配列解析
●八尾泉:アリ共生によって制限されたアブラムシの移動・分散……180
アブラムシはアリと共生することにより,捕食者からの保護という利益を受ける一方,体サイズや胚子数の減少等のコストも伴っている.Tuberculatus属アブラムシの成虫は翅を有しているが,アリ共生により移動・分散が制限され,アブラムシの体型や集団遺伝構造も影響を受けていた.アリ共生は,アブラムシの飛翔器官の発達を抑制していた.
キーワード:アブラムシ―アリ共生関係,Tuberculatus属,wing loading,翅,飛翔筋
●書評―『生態進化発生学 エコ—エボ—デボの夜明け』/『ケイン 基礎生物学(原著第4版)』/『生態学入門(第2版)』
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Kawahara Reika : What can we do using by next generation sequencer?(129)
Special feature : Next generation sequencer
Glossary(130)
Hashiguchi Yasuyuki & Kumazawa Yoshinori : Application of the next-generation DNA sequencing for evolutionary studies of vertebrate olfactory receptor gene family(131)
Kokita Tomoyuki : Ecological genomics based on comprehensive gene expression analyses : the examples of fishes(141)
Matsumura Hideo & Terauchi Ryohei : Tag-based gene expression analysis using next generation sequencing technology(151)
Ito Hideyuki, Christopher Adenyo, Yoshikawa Natsuhiko, & Murayama Miho : Large scale development of microsatellite markers for wildlife and its application to conservation(159)
Kakioka Ryo : Applications of RAD sequencing to ecological and evolutionary genomics(168)
Fujiwara Haruhiko:Current state of next generation sequencer in Japan(177)
Yao Izumi : Aphid migration and dispersal limited by ant attendance(180)
Book review(189)
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