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生物科学
Volume.68,No.1 2016

Oct.

目次

特集:サンゴの生物学 下

巻頭言:人工知能に対する期待と懸念(梅木 清)……1

守田昌哉:受精 ミドリイシ属サンゴにおける生殖隔離そして種の多様性維持への関与……2
  同時的雌雄同体のミドリイシ属サンゴでは,多くの種の産卵日および産卵時刻が重なることもあり,産卵後,海中には多くの種から放出された卵と精子が混在していると考えられる.したがって,海中での受精相手の選択がミドリイシ属の生殖隔離に必要不可欠であると考えられる.また,受精相手の選択には配偶子認識(種認識および自己/非自己認識)が関わっていると考えられ,精子には種認識に関わるタンパク質が存在しているようである.
キーワード:ミドリイシ属サンゴ,受精,配偶子認識,生殖隔離

大久保奈弥:発生 多様なサンゴの発生観察からようやく見えてきた共通性……11
  受精後,刺胞動物に特徴的なハートの形から,サンゴの卵割は始まる.桑実胚の後,扁平胚を経て丸型胚となるが,その過程もしくはその後に原腸形成が起こり,二胚葉が形成される.そして,遊泳プラヌラ幼生となり,適当な基質を見つけて着底・変態し,ポリプとなる.これらイシサンゴ目の発生様式は,胞胚腔の有無により大きく2つに分かれ,原腸形成に関わる遺伝子の発現時期も2つの様式で異なることがわかってきた.また,イシサンゴ目の亜目に相当する2つのクレードの分類形質としても使えることが明らかとなってきた.
キーワード:サンゴ、発生、原腸形成、背腹軸、石灰化

高橋俊一:共生 サンゴと褐虫藻の共生関係の成立から破綻まで……24
  サンゴを含む刺胞動物の中には褐虫藻(共生能力を有する渦鞭毛藻の総称)を細胞内共生させているものがいる.共生者の褐虫藻は光合成で生産したエネルギー(糖)を宿主の動物に提供する.一方,宿主は,代謝の過程で出た老廃物(無機窒素化合物や無機リン酸など)を褐虫藻に提供する.この共生関係により,両者は貧栄養な環境に適応している.サンゴに共生する褐虫藻はサンゴ礁生態系の主な生産者であり,その生態系に棲む生物の生存に必要なエネルギーを支えている.しかし,近年,海水温の上昇に伴いサンゴ礁の減少が進んでいる.その主な原因の一つは,サンゴの白化(サンゴと褐虫藻の共生関係の破綻)である.本稿では,サンゴと褐虫藻の共生関係がどのように開始し,それが高温ストレス時にどのように破綻するのかについて紹介する.
キーワード:サンゴ,共生,白化

佐藤唯:感染症 サンゴ病理学の現状とブラックバンド病を例にした包括的な研究アプローチの重要性について……30
  造礁サンゴにおける感染症は,現在,世界的なサンゴ礁の減少をさらに加速させている大きな一因として取りざたされている.今までに多くの種類の感染症が報告されてきたが,その詳しい病態,感染源,病原体,感染が確認された地理的分布の拡大の原因,そして有効な防疫に関する研究は,まだ発達段階に位置している.サンゴの感染症を正しく理解するには,サンゴを取り囲む環境,宿主であるサンゴ,感染症を引き起こす病原体,そしてそれぞれの複雑な関わり合いを包括的に検討する研究アプローチが重要である.研究の歴史がもっとも長いブラックバンド病の例においては,野外でのモニタリング観察に加え,微生物生態学的な観察,病巣内における微細スケールの化学的分布の検査,DNAを用いた病原菌類の解析などが進み,それらが包括的に検討されることで感染症の知識の向上に繋がってきた.
キーワード:サンゴ礁,サンゴの感染症,ブラックバンド病,微生物生態学


大沼あゆみ・柘植隆宏:生態系サービスへの支払(PES)によるサンゴ礁保全の可能性……41
  本稿では,その消失が最も懸念されている生態系の1つであるサンゴ礁生態系(サンゴ礁)について,「生態系サービスへの支払」による保全の可能性を検討する.サンゴ礁の生態系サービスやその所有権の特徴を整理し,サンゴ礁の保全には直接支払型よりも税・課徴金型および市場取引型の生態系サービスへの支払の方がより有望であることを示す.そして,税・課徴金型および市場取引型の生態系サービスへの支払によるサンゴ礁保全を実現するために重要となるサンゴ礁の価値評価について,その手法や課題を解説する.
キーワード:サンゴ礁保全,生態系サービスへの支払,生態系サービス,経済評価

嶋田敬介・前川清人:シロアリの生殖虫における内在性セルラーゼ遺伝子の発現と腸内原生生物との共生関係……50
  シロアリは,社会性・共生・木材消化などの生物学的に興味深い現象がみられる昆虫である.その社会はカーストの分業によって成り立っており,女王と王(生殖虫)は繁殖を主な役目とするが,コロニーの創設初期はワーカーがいないため,育児や給餌も行う必要がある.その後,コロニーが発達してワーカーが増えると,生殖虫は育児や給餌から解放され,繁殖に専念できるようになる.コロニーの発達の過程で,生殖虫にどのような変化が起こるのかを調べると,「内在性セルラーゼ遺伝子の発現低下」と「腸内共生原生生物の消失」が起こっていることが明らかになった.これらの現象を通して,シロアリの社会性の維持機構と進化要因について考察する.
キーワード:シロアリ,生殖虫,コロニー発達,セルラーゼ,腸内共生微生物

書評―『草原生態学 ―生物多様性と生態系機能―』『鳥の行動生態学』

浅川満彦:“アサ”の書評ワールド


English_conents

Umeki Kiyoshi : Hopes and fears about artificial intelligence (1)
Special feature : Coral biology partII
Morita Masaya : Fertilization in the coral Acroporidae -its implication in reproductive isolation and species diversity- (2)
Okubo Nami : Coral development-commonalities amongst diversity (11)
Takahashi Shunichi : Symbiotic relationship between corals and algae : from association to disassociation (24)
Sato Yui:Infectious diseases in corals : Importance of holistic approaches to understanding coral disease aetiologies using black band disease as a case study (30)
Onuma Ayumi & Tsuge Takahiro : Possibility of coral reef conservation by payments for ecosystem services (41)
Shimada Keisuke & Maekawa Kiyoto : Endogenous cellulase gene expressions and symbiotic association with gut protists in termite reproductives (50)

Book review (60)
Asa’s world of book review (62)


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