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生物科学
Volume.70,No.2 2019

Feb.

目次

特集:カイヤドリウミグモ:大発生からの研究の動向

巻頭言:日本語総説誌の教育的役割は今でも大きいはずだ(佐倉統)……65

宮崎勝己・山田勝雅:カイヤドリウミグモ研究の軌跡……66
ウミグモ類は「海に住むクモ」ではなく「海に住むクモに似た生き物」であり、分類学的には節足動物門鋏角亜門ウミグモ綱に位置する。人の生活にとくに関わりなく、日常的にみかける機会のないこの分類群は、これまで積極的な研究対象ではなかった。しかし2007年に、カイヤドリウミグモがアサリの大量斃死を引き起こすという漁業被害を引き起こして以降、さまざまな分野の研究者達によって本種の生物学的知見が急速に蓄積しつつある。本稿はまずウミグモ綱の生物学的基礎情報について解説し、続いてカイヤドリウミグモの生物学について研究史も含めて概観する。そして最後に、本特集の各コンテンツの内容を簡単に紹介する。
キーワード:鋏角亜門、寄生、水産被害、アサリ

玉置雅紀・宮崎勝己・張成年:カイヤドリウミグモの系統と分類……73
近年の分子系統学的解析により、かつてイソウミグモ科に組み込まれたトックリウミグモ科が再び独立した科として扱われると共に、カイヤドリウミグモが本科に属することが示された。一方、カイヤドリウミグモ属内の種分類については、形態的特徴の再精査によっても明確な結論は得られていない。本稿では、カイヤドリウミグモの系統と分類的位置について、その変遷と現状とを概観したうえで、残る問題点について提示する。
キーワード:カイヤドリウミグモ、分子系統、分類

鳥羽光晴・小林豊・石井亮・岡本隆・村内嘉樹・岡本俊治・山本直生・黒田伸郎・冨山毅・涌井邦浩・岩崎高資・張成年・山本敏博・良永知義:カイヤドリウミグモによる漁業被害とその対策……78
2007-2009年に東京湾、三河湾、松川浦で発生した大規模なカイヤドリウミグモのアサリに対する寄生の発生は、それぞれの海域のアサリ資源に影響を与え、貝類漁業に大きな混乱をもたらした(図1)。本稿では各海域での寄生発生の経過と漁業被害の実態、およびその後の研究によって判明したカイヤドリウミグモのアサリに対する寄生動態の特徴と、防除あるいは被害軽減のために展開された現場手法とその効果について紹介する。なお、本稿において、とくに引用がない場合の記載は著者らの観察かあるいは千葉県水産総合研究センターほか(2012, 2013)によっている。
キーワード:カイヤドリウミグモ、アサリ、漁業被害、現場対策

冨山毅・山田勝雅・恩地啓実:カイヤドリウミグモとアサリの寄生―宿主関係……89
2007年に発生した東京湾での二枚貝の大量死は、瀕死のアサリからカイヤドリウミグモが多く見つかったことによって、カイヤドリウミグモによるものとして新聞等で大きく報道された。しかし、カイヤドリウミグモの寄生がどのように二枚貝の斃死につながるか不明であった。室内実験や野外観察により、カイヤドリウミグモの寄生数が多くなると二枚貝が弱って痩せていき、底土から出て表面に転がり、死に至ることがわかってきた。
キーワード:寄生数、宿主操作、潜砂行動

宮崎勝己・良永知義・山下桂司・中木舞・神谷享子・恩地啓実・山田勝雅・望月佑一・玉置雅紀:技法の開発:カイヤドリウミグモの早期発見と基礎生態……95
2007年にカイヤドリウミグモの大発生が問題視されて以降、本種の生物学をより充実させるために開発が進められた技術がいくつかある。本稿では、その技法の中でもとくに重要性が高いと思われる、早期発見に関わる「蛍光染色法」「モノクローナル抗体法」、生態や行動観察に関わる「室内飼育法」、各地方個体群の移入経路解明に関わる「マイクロサテライトマーカー開発法」の4項目をピックアップし、それぞれの技法の概要とそれによる成果や応用の概略を示す。
キーワード:蛍光染色、モノクローナル抗体、室内飼育、マイクロサテライトマーカー

山田勝雅・張成年・鳥羽光晴・良永知義・冨山毅・望月佑一・宮崎勝己:カイヤドリウミグモ研究のゆくえ……103
カイヤドリウミグモの2007年における大発生の由来と、その後の分布拡大の原因はいまだ議論の最中にある。しかし、いくつかの状況証拠を基にし、その原因の推定と今後の対策を考慮できる。本稿は、本種の侵入・分布拡大に関する現在の情報を整理しながら議論を加え、現状で考えられる対策方法を考察する。さらに、今回のカイヤドリウミグモの大発生という現象から、我々が何を学び取るべきかを考えたい。
キーワード:外来種、侵入種、水産業、アサリの移出入、風評被害

岩崎貴也・奥山雄大:DNAシーケンス「革命」がもたらす日本列島における植物系統地理・系統進化研究の新展開……112
本論文では、日本列島を舞台とした植物系統地理・系統進化研究を整理・概説するとともに、ここ10年ほどの間に一気に普及した超並列DNAシーケンサー(いわゆる次世代シーケンサー)によって可能となったゲノム系統地理学、ゲノム系統学にとくに焦点を当て、この分野における超並列DNAシーケンサーの利用の状況や注意点、今後について議論する。最後には、地質学分野との連携において鍵となる、近縁種間や集団間の分岐年代情報について現状をまとめ、この分野の将来について議論する。
キーワード:植物系統地理、超並列DNAシーケンサー、ゲノム系統地理学、ゲノム系統学、分岐年代

浅川満彦:獣医大新設騒ぎに想う……124

書評―『オランウータン―森の哲人は子育ての達人』『プランクトンハンドブック淡水編』


English_conents

Sakura Osamu : The continued importance of scientific review journals in Japanese (65)
Special feature : Nymphonella tapetis: Trend of researches from the large-scale outbreak in 2007
Miyazaki Katsumi & Yamada Katsumasa : The history of study on Nymphonella tapetis in Japan (66)
Tamaoki Masanori, Miyazaki Katsumi & Chow Seinen : A Review of taxonomy and phylogeny in
Nymphonella tapetis (73)
Toba Mitsuharu, Kobayashi Yutaka, Ishii Ryo, Okamoto Ryu, Murauchi Yoshiki, Okamoto Shunji, Yamamoto Naoki, Kuroda Noburo, Tomiyama Takeshi, Wakui Kunihiro, Iwasaki Takashi, Chow
Seinen, Yamamoto Toshihiro & Yoshinaga Tomoyoshi : Fisheries impact of outbreaks of sea spider infection to natural asari clam and followed countermeasures in three bay areas in Japan (78)
Tomiyama Takeshi, Yamada Katsumasa & Onchi Hiromitsu : Host-parasite relationships between
parasitic sea spider and the Manila clam (89)
Miyazaki Katsumi, Yoshinaga Tomoyoshi, Yamashita Keiji, Nakagi Mai, Kamiya Kyoko, Onchi Hiromitsu, Yamada Katsumasa, Mochizuki Yuichi & Tamaoki Masanori : Technical development for early detection and basic ecology of Nymphonella tapetis (95)
Yamada Katsumasa, Chow Seinen, Toba Mitsuharu, Yoshinaga Tomoyoshi, Tomiyama Takeshi, Mochizuki Yuichi & Miyazaki Katsumi : Future direction of research on Nymphonella tapetis (103)

Iwasaki Takaya & Okuyama Yudai : The revolution in DNA sequencing provides novel insights into phytogeography and phylogeny of plants in the Japanese archipelago (112)
Asakawa Mitsuhiko : A new veterinary school and some issues related to that (124)
Book review (126)



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