主張
ルーラルネットへ ルーラル電子図書館 食農ネット 田舎の本屋さん
農文協トップ主張 1986年03月

総合商社に課税できるよう税制を改めよ
財政再建の決め手はこれだ

目次

◆巨大商社7社が「法人税ゼロ」?
◆「税金は外国に払っている!」外国税額控除制度
◆海外でもうけるほど国内法人税が減る
◆法人税が減るから国民への増税が強まる
◆輸出・海外進出を減らせば財政再建はなる

 税金申告の季節。その税金をめぐって、なんとも不可思議なことがある。

 いま、農家には収入金課税の導入など厳しい増税攻勢がかけられている。ある老人農家は、わずか四九〇万円の売上げ(所得ではない)だったのに、収入金課税になって三五万円もの所得税をかけられた。大きい農家ばかりか小さい農家からも税金を取れるだけ取り立てようという酷税路線が進行中である。

 ところが、そのいっぽうで、わが国の巨大商社の代表・三菱商事は、六十年度の総売上げ一六兆四〇〇〇億円、経常利益が五一七億円もありながら、国に法人税をまったく払っていない。「法人税ゼロ」である。

 これは一体どうしたことか?

巨大商社七社が「法人税ゼロ」!?

 三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠、丸紅、日商岩井、トーメン、兼松江商、ニチメン。世界に名だたる「ソーゴーショウシャ」である。これら総合商社のうち、昭和五十八年度に国内で法人税を納めたのは住友とニチメンの二社だけで、あとの七社は「法人税ゼロ」。この年の大手九商社の年間総売上げは八三兆円を超え、国の予算の約一・五倍にも達する額である。そして、申告所得額は二四〇〇億円余もありながら、納付した法人税額は、住友商事一一一億円とニチメン四億円の合わせて一一五億円のみである。

 五〇〇万円の売上げで三五万円もの所得税をとられる農家がいる同じときに、八三兆円の売上げ、申告所得二四〇〇億円で一一五億円しか納めていないのである。この年、最大手の三菱商事は、売上げ一四兆八八五四億円、申告所得六八四億円で、「納付すべき法人税」はゼロ。

 このことは一昨年正月ころから、新聞紙上で、さらには国会でも問題となり、大蔵省、国税当局もこの問題解消のための税制の改正を進めることとした。

 しかし、その結果はどうなったか。数社に問い合わせてみると、三菱商事は六十年度総売上げ一六兆四〇〇〇億円、経常利益五一七億円、納めるべき法人税はゼロだという。三井物産も六十年度分ゼロ。伊藤忠は、広報担当者が「住友さん以外は納めていないのでは……ニチメンさんもちがうようだが」というくらいだから、やはりゼロ。日商岩井は「納めているかどうかは誤解をまねくから電話ではいえない」という。

 要するに、大手商社の「法人税ゼロ」は、いっこうに改められてはいないのである。

 そもそも、税収をもとでとする国家予算は、大商社を含めた大資本の企業活動に最大の恩恵を与えるように使われているのである。道路網の整備、空港建設、都市再開発などのための公共事業費も、海外経済協力費も、予算編成上優遇されるものは、企業活動にこそ最大の利益をもたらすものだ。国民が納める税金の最大の恩恵にあずかる大商社、しかも莫大な利益をあげている大商社が「法人税ゼロ」。

 いっぽうで、年々食糧管理費などの農林予算を減らされて経済的に困難をきわめる農家には、厳しく税金を取り立ててくる。増税に苦しむ国民にとって、何とも不可思議な現象はなぜ起こるのか。

「税金は外国に払っている!」外国税額控除制度

 大商社の「法人税ゼロ」について、当の大商社は、むしろ当然のことだという口ぶりである。逆に、「『法人税ゼロ』というのはまちがいだ」という。

 「『法人税の国内納付額はゼロ』というのが正しい表現だ。税金は、入ってくる所得に対して払うもの。所得には国内所得と国外所得とがあるが、外国で得た所得には、外国で税金がとられる。その所得に対してさらに日本で課税されると二重にとられることになる。その二重課税を防ぐために設けられているのが『外国税額控除』の制度だ」

 外国で払った税金分を、国内の法人税から控除することによって、結果的に国内で納める法人税は少なくなる。そしてさらに「現在の貿易商社は、一般に外国で得る所得が多く、いっぽう国内での事業は競争が激しくて利益があがらない。だから、外国税額を控除すると、国内の法人税は払う分がなくなる」のだという。

 「法人税ゼロ」正しくは「法人税の国内納付額ゼロ」というのは、外国税額控除という制度にもとづくあくまで合法的な対応の結果だというわけである。しかしこの外国税額控除は、海外進出する商社・企業を最大限優遇する制度であり、さらにはこの制度をフルに活用して、国内法人税減らしのさまざまな手口が行なわれることは見逃せない。

 例えば外国税額控除についてみると、国内法人税から控除できる外国税額には、各企業各年度の限度額(全世界所得に対する法人税額×国外所得金額÷全世界所得金額)が設けられるが、実際に納めた外国税額が限度額より多い場合、控除しきれない超過分を、今度は地方税(都道府県民税と市町村民税)の限度額の範囲で控除できることになっている。

 また、それでもなお控除限度額を超過した分は、後五年間繰り越して、それぞれの年の限度額の範囲で控除できる。いっぽう、控除限度額よりも控除額が少なかった場合にも、その余裕額を五年間は繰り越して、各年度の限度額をふやすことができる。このようなしくみがあるから、継続的に「法人税の国内納付ゼロ」の状態をつくりやすいともいえるのである。例えば、過去において三菱商事で税金のがれの申告もれが発覚し、多額の法人税を追徴されたときにも、それを上まわる外国税の支払いがあったからということで、追徴を実質的に免れてしまっているのだ。

海外でもうけるほど国内法人税が減る

 この制度が海外進出の企業を優遇するというのはそればかりではない。外国で税金を払っていないのに払ったものとして控除される場合が多いのだ。その一つは、「外国の子会社からの配当については、その源泉徴収税ばかりでなく、子会社が外国に納めた法人税も、国内商社が支払ったものとみなして控除されるので、外税控除額は一段と大きくなる」(「読売新聞」五十九年一月一日)。いわゆる「間接控除」といわれるものである。これは、実際に国内商社が支払った外国税よりも、外国税額控除をふやすことにつながる。

 さらには、「みなし外国税額控除」がある。外国では、進出した企業に対して税金を免除したり、税率を軽くしたりする場合が少なくない。これは発展途上国などが自国の経済開発を促すために、先進国の企業進出や投資に特別の租税減免をするものだが、その場合、進出企業は減免された分も払ったものとみなして外国税額控除をすることができるようになっている。この「みなし控除」も、実質的には外国税を払わずして、国内の法人税納付額を減らす有力な武器になっているのである。

 そして、これら間接控除やみなし控除などの制度は、海外進出大企業の外国税額の「水増し」、国内法人税減らしに悪用される、脱税の温床ともなりうる。例えば、租税減免をおこなう外国に子会社をつくる企業はふえるいっぽうで、さらには子会社を利用しての所得隠しなどが発覚している。

 こうして、「大手商社をはじめ資本金三〇〇億円以上の卸売企業の場合、実際に外国に払った税金は二八〇億円なのに、七四〇億円払ったことに大水増しして国内で払う税金を負けてもらった」(「赤旗」六十年一月二四日)。

 「法人税ゼロ」というのは、商社・企業にとって、「外国での営業活動の方が利益が多く、国内の営業活動は利益が少ないから」というばかりではないのである。海外活動には税金をどこにも払わなくて済む場面が多くあり、海外でもうければもうけるほど、国内で払う税金は少なくなるしくみがあるということだ。わが国の法人税収は、過去の約十年間で三倍くらいにしかふえていないのに、外国税額控除は、四十七年の四七九億円から五十八年には四五八〇億円へと、一〇倍近くになっているという事実は、そのことをはっきり物語っている。

法人税が減るから国民への増税が強まる

 さて、現在の農家や中小企業者、勤労者への増税攻撃は、右のことと無関係ではない。

 収入金課税になって、果樹・花で五〇〇万円の売上げしかない老人経営に、三五万円もの所得税が課せられる。これに地方税や国保税などを合わせると税金は一〇〇万円を越す。実質経費が半分として、税引後自由に使える所得は、一五〇万円しか残らない。

 そもそも、売上げ五〇〇万円から半分の経費を引いた二五〇万円の所得ではとても食べていけない。そこで奥さんはパートに出ざるをえない。パート収入は一般に源泉徴収されるし、九〇万円を越すと、配偶者控除も農業所得から差し引けなくなる。こんな状態のところへ、収入金課税は襲いかかり、三五万円もの所得税(全体一〇〇万円もの税金)を吸い上げていくのである。

 それでは、農業の規模が大きい専業農家の場合はどうか。青色申告をすれば、それ相当の専従者給与が認められ、そのうえで一定の農業所得があった場合に課税されることになる。ところが、実際に青色申告で農業所得ありとして所得税を納めている経営の、専従者給与の平均は一〇〇万五〇〇〇円(五十九年)だという。これについて国税当局は、「それ以上払ったら農業主の所得がなくなり不自然では……」と説明する。農家が家族に給料を払おうとしても、パート並みかそれ以下の給料しか払えないということである。

 ある大商社の四〇歳の男子の年間給与はおよそ六〇〇万円だという。大商社は一万人前後の社員に六〇〇万円もの給与を払い、なお多額の利益がありながら「法人税ゼロ」。青色申告農家は、わずか一〇〇万円の専従者給与しか払えないのに所得税を納めさせられている。六〇〇万円といわぬまでも、労働に応じてそれ相当の給料を出せば赤字になってしまう。それが、多くの専業農家の実態なのである。

 そういう状態のところへ、税金の取りたては年ごとに厳しくなっているのだ。だから国民は、当面はなんとしても、今月号の「税金実用百科」にかかげたような方法を駆使して、税金のとられすぎから身を守らねばならない。

 さらに先を考えるならば、こうした弱き者への酷税は、大商社の「法人税ゼロ」が物語る法人税収の伸びなやみと裏腹の関係なのである。法人税収が少ないから国民からとりたてる。大商社・企業が海外進出と輸出でかせぐことばかりに終始しているから、払うべき税金は海外に落ち、かつ、実際には海外にも払っていない分も含めて、国内の法人税収が落ち込む。その分を国民からの厳しい取りたて、福祉の切り捨て、公共料金値上げ、さらには大型間接税の導入でまかなうという関係が強められている。

 そして、とくにいま国家財政の破綻をつげる赤字国債。国債残高は、六十一年度末には、一四三兆円にもなる見込みで、さらに年々ふえ続ける。この国の巨額な借金は誰が後始末するのか。財政再建が叫ばれるのをはために、海外で利益をあげて、国の歳入に貢献しない大商社・大企業の実態をそのままにして、国民への重負担で切りぬけようとするのは、まさに本末転倒としかいいようがない。なぜか。

 もともと、国債の濫発は、大資本の要請にもとづくものであった。第一次石油ショックからの急速な立ち直りは、国債発行による大型公共事業への投資など大企業保護によってもたらされたものだ。第二次石油ショックのときにも、第一次以上に国債を増発し、土木事業や補助金などで大企業に活力を与えた。その結果、日本の企業は生産性を飛躍的に高め利益を大幅にため込むと同時に、貿易の大幅黒字と海外進出の足がためができたのである。だから、たまりにたまった国の借金の後始末は、それによって国内で、海外で、莫大な利益を得るに至った大資本が行なうのが本筋であろう。営業活動を海外へ海外へと向け、国内の法人税減らしをしていていいはずはないのである。

輸出・海外進出を減らせば財政再建はなる

 急を要する財政再建を確実に軌道に乗せていくには、大商社・大企業の税金が海外に落ちるような実情を根本的に改めなければならない。大商社・大企業の払う税金が国内に入ってくるように変えていかねばならない。

 要するに、輸出優先、海外進出優先の経済のあり方を改めることである。急増した日本の工業製品輸出、資本輸出は、世界のあらゆるところで摩擦を生んでいる。いま、国際社会で日本が生き残れるかどうかの焦眉の問題=貿易摩擦も、高度成長以来一貫して続いてきた輸出優先・海外進出優先の経済体質を変えない限り解決はできない。

 さらには、貿易摩擦という当面の目に見える大問題以上に重要なのは、工業製品輸出と見返り輸入、資本輸出は、とくに発展途上国の自然を破壊し、そこの土地に根ざした生活・生産様式を踏みにじり、人類にとってかけがえのない財産を破壊していることである。

 こうした自然と人間に対する破壊活動から身を引くことは、長期的にみて、また人間のモラルの問題として今厳しく求められていることである。

 こうして、貿易摩擦と経済進出、他国の自然破壊、生活破壊がなくなっていけば、当然のことながら武力衝突に巻き込まれる危険は減る。マイナス予算のなかで突出を続ける防衛費は、その必要性が減ることになる。多額の予算を国民生活の充実に向けて使うことができる。

 経済は、国民生活をうるおす方向での内需拡大に向かうはずである。そして商業は、国内で利益をあげられるだけの営業活動ベースができることになる。法人税は国内に入る。

 内需拡大といっても、従来の民間設備投資とか公共事業投資中心に進める内需拡大ではない。それでは、ますます輸出型、海外進出型の性格を強めてしまうことになる。

 そうではなく、国民生活にもっとも必要な産業、教育・福祉部門等の充実である。産業面からいえば、食料生産という人間にとってもっとも基本的である分野を土台にすえ、そのうえに必要な産業がバランスよく配置された産業構造に変えることである。

 工業製品輸出最優先政策のもと、工業的な発想ですすめられた近代化農業のなかで、化学資材によって土は荒れ、作物・家畜は弱体化した。自給率は低下し、またそれによって危険な輸入食品が押しよせ、また食物とはいいがたい加工食品が食卓にあふれている。こうした農と食の狂いをまともなものにつくりかえていくことを基本に、他の産業活動が営まれる方向が目指されねばならない。

 いま、地域地域で、そうしたまともな農と食の取りもどしの運動が起こりつつある。まとな自然と人間のあり方、経済のあり方への動きが始まりつつある。こうした動きのなかに本来の内需拡大がある。本来の内需拡大に貢献する工業であり、商業であって初めて工業や商業の本道を極められるのだ。

(農文協論説委員会)

前月の主張を読む 次月の主張を読む