主張
ルーラルネットへ ルーラル電子図書館 食農ネット 田舎の本屋さん
農文協トップ主張 1988年07月

孫子の代までも誉められる米価政策を

目次

◆悪い雰囲気にめげず確かなコメ政策を
◆政府米の魅力アップで農水省の威信回復
◆農協も政府米重視に
◆消費者、生産者ともに益する道
◆地域ブレンド米、地域内消費の提案
◆政府は減農薬奨励金を

悪い雰囲気にめげず確かなコメ政策を

 米価の季節――といっても、どうも、「やるぞ!!」という意気込みが感じられず、梅雨空のようなうっとうしささえ漂う六月がやってきた。農協は、はなから現状維持要求、あるいは要求なし(算定方式の改善を要求)のどちらかに決めてしまっていて、元気がない。

 米価値上げを口にすれば、「そんなこというなら、安い外国のコメを輸入だ」と、自由化論議に火をそそぐのがこわい。「あげたらまたまた過剰だ、財政負担だ。そんなことだったら食管をやめてしまえ」という、これまたコメの国内自由化論がわきあがるのもこわい。組合員の気持ちはいたいほどわかっていても、「米価をあげろ」の一声が出すに出せない。

 これは農水省も同じ状況だ。全国イナ作農家の経営が年々悪くなってきていることは手にとるようにわかる。米価もその他の農産物価格も、上げないまでもせめて、何とか現状維持くらいは守りたいはずだ。

 ところが、自由化論が重くのしかかって、その慈悲心を実行に移せない。「わかってください」と頭を下げるか、「これもコメの自給を守るため、国際化社会に対処するため」と居直ってしまうか、いずれにしても、ジメッとした梅雨空に変わりはない。

 ネジリハチマキの大運動を組織できないのはまだいい、農家に頭を下げるのもまあいい。しかし、一番悪いのは、「政策」がないことだ。仮にも、GNP世界第二位、やがてはアメリカを抜くかとまでいわれる経済大国の、農協であり、農水省である。内・外の自由化論を恐れて、それへの対応のみにズルズルとひきずられるかっこうで米価値下げの道を一気に認めてしまうのでは、「政策」ナシのもっとも悪いパターンで、農家のみならず国民の子々孫々まで禍根を残すことになる。ここは一つ、末代まで生産者にも消費者にも「よくやった」とたたえられるような政策=米価政策=食糧政策をたずさえて、コトに臨んでもらいたいものだ。

 どうせ何をいってもやっても、マスコミからよくいわれないのが農協、農水省の今日だ。ならば、この際、梅雨空がカラッと晴れるような政策、今日明日の近視眼的なことばかり騒ぎたてるマスコミの意表をつくような、しかし国民には「ナルホド」と理解できる政策を打ちあげたいものだ。

政府米の魅力アップで農水省の威信回復

 そんな具合のいい政策がどこにあるのか。それがあるのである。

「政府米」の魅力を高めることだ。

 これまで、コメの魅力といえば、コシヒカリ・ササニシキ、最近ではアキタコマチに代表される銘柄米、自主流通米にこそあるもので、政府米の魅力は年ごとに薄らいできた。生産者にとっては利が薄く、消費者にとっては味がわるく、農水省・食糧庁にとっては始末に手をやく、お荷物になってしまっている。

 この政府米((政))の魅力の向上、名誉・実力のばん回を、いまこそはかっていただきたい。このことは、生産者にとっても、消費者にとっても歓迎すべきことだし、第一政府自身にとって、コメ政策で指導力、威信を保てて、そのうえ財政負担減らしにもつながるという、大きなメリットがある。

 いま、政府のコメ=(政)は大いにきらわれている。自主流通米制度の中で、銘柄米、おいしい(といわれる)コメは自主流通米((自))に流れる。(自)と(政)のどちらにもいくような「中流」の銘柄米は、常に(自)に入るべく努力が払われる。同じ県内でも良質米地域といわれる所のものが(自)に入れられ、また選別を厳しくしたものが(自)に入れられる。

 こうして、(政)には「おいしくない」「品質の悪い」コメが集まって、不人気になる。当然、古米がたまる。政府にとって頭のいたいのは、この(政)古米の処理である。

 そこで、新米を売り出すに当たり古米を抱き合わせで売ったり、(自)の流通量をふやさないように規制したりと、あの手この手の(政)古米の処理の手を打たねばならない。ところが、これがさらに(政)不人気をつのらせてしまう。

 いま、コメ市場でコシ・ササなど銘柄米が不足し、値段が急騰している。古米を売らんがために、(自)の流通を抑えている結果だ。

「政府のコソクなコメ商法が、消費者の購入価格をつりあげ、また違法な自由米業者をもうけさせている」などど、一部マスコミから攻撃されることになるのである。「だから、政府によるコメの全面管理をやめて、部分管理へいくべき時期だ」といった短絡思考的な提言が飛び出す始末だ。

 かような政府のコメ政策に関しての指導力、威信の低下――これを回復させるには、(政)の魅力向上をはかるしかない。(政)の魅力が増し、あとで述ペるような(政)地域内消費重点の方向に動けば、コメの管理経費のうちで、三〇〇億円をこえるまでに急増した運賃部分を、大幅に圧縮できることにもなる。指導力を強めて、食管経費が減る。

農協も政府米重視に

 さて次に、わが農協にとっても、(政)の魅力アップに向かったほうが、結果的に得になる。いまは、(自)指向が強く、さらに全国的にコシヒカリ指向が高まっている。端境期のコシ不足に向けて、暖地では早場米コシの作付急増の指導もされているが、当面の農家の稼ぎを高めるためということであれば、これも悪いとはいえない。

 しかし、それを「自由化時代」に向けての競争力強化のため……などど位置づけて取り組んだとしたら、これは大きな錯覚。(政)対(自)、六対四の現状から、四対六へ、その延長線上で全面管理をやめて部分管理へ、といったコースが、農協マンの脳裏にもしみついているかも知れない。だから何がなんでも銘柄米、(自)の確保を!! では、地域の農業は危うくなる。

 (自)、銘柄米の生産者にとっての魅力は、そういつまでも続くものではない。(自)六割という段階になると、(政)との境目にある(自)は、常に(政)との価格競争にさらされる。(政)の魅力がさらに低下して(政)の値下げに拍車がかかれば、それに近い(自)も値下げを余儀なくされる。特別自主流通米のように、身銭を切っての消費拡大をせざるをえない(自)がさらにふやされてもいこう。

 高値を維持できるのは、ごく一部の超銘柄だけという事態が、(自)拡大、あるいは部分管理の時代になったら必ず発生する(また、アメリカではいま“限りなくコシヒカリに近いコメ”の育種、実用化を着々すすめている。これとの競争にも発展しよう)。

 やはり、農協にとっても、(政)の魅力アップこそ優先すべき課題である。(政)の価格が安定していれば、(自)価格が落ちこむことはない。

消費者・生産者ともに益する道

 消費者にとっても事情は同じである。先頃、一〇kg一万円のコメが飛ぶように売れたとのニュースが流れた。品種はコシヒカリ、産地は新潟県、この超銘柄性に自然乾燥・有機質・無農薬米という新たな付加価値が加わってのことだ。

 その新潟・有機コシヒカリ、小売店が卸から仕入れた値段は、三万八〇〇〇円くらいだという。卸までの流通ルートは定かでないが、生産者はいくら受けとったのだろうか。仮に三万三〇〇〇円だとすれば、一〇kg五五〇〇円。消費者小売価格との差、つまり流通段階のとり分は実に四五〇〇円で、消費者が払うコメ代の半分近くを占めることになる。政府米を原料とする標準価格米の流通マージンは一三%だから、これは大差だ。

 コメの流通自由化とは、まさにこのような方向をたどることになる。生産者にとって一部銘柄米は高値になっても、圧倒的部分は値引き競争にさらされる。いっぽう、消費者にとっては、超高値のコメに誘導されて多くのコメは高いものになる。生産者と消費者の間に介在する流通資本のとり分が、異常に肥大していくことになってしまう。

 そして、このようなコースは、(自)重視、銘柄米優先の「食管運営」の中で、すでにつくられてしまっている。流通資本は、自由化の方向で大きく稼ぐあの手この手を、すでに身につけているからだ。

 アメリカのマスコミ・農業関係者は、日本の消費者が日本のコメを守ろうとする熱意の強いことに、大きな驚きを示した。非常にうらやましく思ったとも述べている。そのような世界でもめずらしい消費者にとって、生産者の益にもならず、消費者の益にもならない、(自)拡大→自由化は、とんでもないことである。やはり、(政)の魅力アップこそ、いま必要なのだ。

地域ブレンド米・地域内消費の提案

 さてそれでは、政府米の魅力アップはどうしたらやれるか。それは、さしてむずかしいことではない。ポイントは三つある。

 (1)政府米を地元(生産県)消費優先とし、自主流通米の地元消費の強化とともに、コメの地域内流通を活発にする。

 (2)政府米の産地・品種を明らかにして、自主流通米も含めて、地域米ブレンド(混米)をすすめる。

 (3)いま各地に広がる減農薬運動を、政府米の魅力アップに結びつける。減農薬運動に、政府の補助金(推進資金)を出す。

 ひとことでいえば、「身元確かな・減農薬・政府米の地域内消費運動」をくり広げようという提案である。これが国民の「ナットク」のいく、コメ政策の方向である。そのような動きは、いま、国民の間にジワジワとわき起こってきているからだ。

 たとえば(1)(2)の「(政)(自)の地域内消費・地域ブレンド」について。今月の特集で紹介している、大消費地愛知県の経済連と名勤生協をお読みいただきたい(五八頁)。名勤生協の独自ブレンドとして売り出されている“愛知の米”は、自主流通米七〇%と政府米三〇%の混米。この“愛知の米”の販売が始まってまだ一年だが、大いに人気をよび、名勤生協のコメの全取扱量五〇〇〇t弱の二六%をも占めるに至っている。

 その秘密は何か。それは、混米される(自)も(政)もすべて愛知県産のコメであることだ。まず(自)についてみると、愛知県では、コシヒカリもつくられてはいるが、それ以外に、県内各地域の気象・土壌条件にあった「おいしい」コメがある。海部郡などの初星のように県内で最初にとれておいしいものから、木曽川流域のハツシモのようにいちばんおそくとれる良質米などなど、それぞれ個性豊かなコメがある。

 くわしくは、記事をご覧いただきたいが、名勤生協の“愛知の米”は、その個性を生かして、秋口には初星を使い、次の十一〜一月にはコシヒカリの親にあたるおいしいコメ・ミネアサヒ、次に冬春にハツシモ、それから米質も食欲も落ち気味の夏場にはコシヒカリ、というように、年中おいしく食べられるように、つないでいく。

 そして、これら個性的な県産自主流通米と組み合わされて混米をつくるのが、やはり県産の政府米・日本晴だ。日本晴は、県内で公はんに栽培され、味もほどほどの品種である。

 名勤生協は、数年来「うまくて安くて安全なコメ」を食べたいと、その具体的な方法を学習を重ねながら煮つめてきたが、その結論が、自県産の(自)と(政)を組み合わせて混米(ブレンド)するという“愛知の米”への取り組みだった。“愛知の米”の値段は年間通じて、五kg二二三〇円。

 いま、一〇kg五六〇〇円のコメを買う消費者がいちばん多かったという調査がある(主婦連)。これに比べ“愛知の米”は、年間おいしく食べられるものでありながら、一〇kgにして四四六〇円。その差一一四〇円、実に二〇%の「消費者米価値下げ」である。

 現在、(政)は一、二類以外は産地・品種が明らかにされない形で流通している。しかし、三類でも五類でも、優れたおいしいコメ、あるいは混米して「うまくて安くて安全」を実現するのにふさわしいコメはいっぱいある。そうしたコメの価値が認められ、地域ブレンドの中身に確信がもてるようにすることが、いまきわめて重要だ。混米(ブレンド)とは、格上げ混米だけがあるのではない。年間おいしく、安く、安全に食べつないでいくためには、混米技術が欠かせない。流通資本のもうけをますための混米から、生産者も消費者も利益を得る混米=地域ブレンドに、いまがその転換期だ。(政)はその方向の中で、再び社会的存在意義が高まり、光り輝くことになる。

政府は減農薬奨励金を

 さて次に(3)の「政府米を減農薬で」の提案である。ムダな農薬はふらない、そのために農薬に頼らなくてもいい栽培法を追求する、という農家から始まった減農薬稲作は、

いま全国に広がっている。消費者からは、減農薬米が強く求められている。

 この減農薬稲作、一般的にいって、うまいコメといわれる銘柄米よりも、その地域に適した品種の方が取り組みやすい。地域の適品種を適期につくれば、自ずと減農薬の方向に向かう。だから、(政)こそ減農薬で魅力アップが可能であり、その(政)が地域ブレンドに使われていけば、消費者の求める「おいしくて安くて安全」の願いに応えるためのいちばんの近道だ。

 減農薬米だからといって、生産者はべらぼうな高値の販売を求めているのではない。ただ、農薬を減らすために害虫の挙動を見つめ、あるいは堆肥の生産に取り組むには、より多くの農家が、田んぼとのつき合いを深め、生活していかなければならない。そのために、(政)生産者価格の値上げとともに、減農薬への政府の援助、奨励が必要だ。銘柄米傾斜の奨励金から、減農薬稲作への奨励金へ。これが、国民の「ナットク」のいく、コメ政策・食糧政策への転換の重要な柱になるのである。

 この奨励金は、コメ補助金であってコメ補助金でない。国内外から厳しく追及される「農業保護」ではない。むしろ、地域の人びとの健康を守る健康活動推進資金であり、子々孫々まで健全な農地と自然を守りつづけるための自然保全資金である。減農薬稲作なら体の弱い高齢者も取り組める。その意味では、高齢者対策事業資金でもある。そんな金のつかい方があることをしかと認識してほしい。

 ◇

 昨六十二年、生産者米価は平均五・九五%引き下げられた。これに連動する消費者米価(六十二年産)の引下げは、自主流通米二・二%、政府米二・五%。ムリヤリに生産者米価を下げても、消費者米価の下げ幅は、その半分である。一〇%下げても五%。

 この数字は、名勤生協のおいしい“愛知の米”による消費者米価引下げ効果=二〇%の足もとにも及ばない。

 いま、米価引下げを断行することよりも、「政府米の魅力を高めながらの地域ブレンド・地域消費」を援助していくことのほうが、国民にとってのメリットは、はるかに大きい。減農薬という要素が加わればなおさらだ。

 援助の奨励金の財源には、コメの地域内流通の促進で浮く運搬費もあてられよう。「(政)減農薬米の地域ブレンド・地域内消費」への奨励金は、必ず国民(生産者・消費者)の暮らしを充実させる。そればかりではない。子々孫々の健康増進や自然の保全といった、きわめて長期的な、健全な国民生活のベースを形成するものだ。

 農水省も農協も風当たりはきつい。しかし、コメ政策にとどまらない右のようなコメ政策をぜひリードしていただきたい。農業・食糧における指導力を強めながら、この経済大国の行く末を明るくしていく。そんなコメ政策・農業政策がありうるのである。 

(農文協論説委員会)

前月の主張を読む 次月の主張を読む