主張
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農文協トップ主張 1997年3月号
千客万来情報革命で
所得倍増の村をめざす

「ルーラル電子図書館」で開く農村と都市の結合

 「増刊現代農業」の2月号「インターネットで自然な暮らし」が、大反響を呼んでいる。本誌月刊「現代農業」の1月号の復刊600号を記念して、大判カラー雑誌(A4判変形224ページ、900円)として発行した。大判だから、あるいはカラーが多いからという反響ではない。「現代農業」の最近号までのすべての記事などを検索できる「ルーラル電子図書館」で自分の知りたいことを調べると、全国の農家の知恵を探り当て思わぬ世界が広がることへの驚きであり、また、都会の読者だと、初めて「現代農業」で日本の農業技術のおもしろさ・農村の暮らしの奥深さを知っての新鮮な共感なのである。
 「ルーラル電子図書館」では「現代農業データベース」(1985年以降最近刊まで)、「日本の食生活全集データベース」(全50巻)、「農業技術大系データベース」(全45巻)、「書籍・ビデオデータベース」(7000作品)、「ガーデニング」のデータベースが検索できる。

◆「インターネットで自然な暮らし」の読者ハガキ

 読者ハガキからいくつかの感想をご紹介する。
 「現代農業ははじめて読みました。羊を飼って毛織りの生活、アトピーが結ぶ食と農、農家の知恵から天然酵母パンなど大変楽しく読ませてもらいました。これからもよろしく」(兵庫・男性・34歳・会社員)
 「タイトルに興味があって買った。炭と土着菌、アイガモ・コイ・フナ、ダムのゴミから堆肥作りなど面白い記事が多かった。現代農業の名前ははじめて知った。それにも興味があるので、どんな内容なのか資料を送ってほしい」(大阪・男性・年齢職業不明)
 「農業に興味があるのでパソコン雑誌売場ですぐに見つけました。菜園は店舗の屋根の上で、風害が大変ですが何とかやっています。私のアブラムシ手帳、その他の記事も全部楽しく読ませていただきました。この本のおかげでインターネットがますます充実していろいろと役に立っています」(福岡・男性・38歳・自営業)
 「自然に学ぶ関係の記事が面白かった。各記事を通じて、インターネットにぶらさがるのではなく、手段として有効に活用している姿に大変教えられました」(福島・男性・66歳・職業不明)
 「ボカシ肥で小力農業をめざす82歳の記事が面白かった」(徳島・男性・42歳・農漁業)
 「自分の興味ある内容ではじめてインターネットに関心を持ちました」(神奈川・女性・23歳・会社員)
 「インターネット、パソコンの知識はなかったが興味づけられ、将来ほしいなと思った。インターネットの部分を除いても楽しめた」(埼玉・女性・40歳・主婦)
 「ますます面白くなりつつあります。農の時代です!」(神奈川・男性・61歳・充電中)
 「あっちこっちの話のデータベース紹介が面白かった」(高知・男性・36歳・農漁業)
 「今、見直される炭と土着菌の記事」(新潟・男性・34歳・農漁業)
 「大変面白かった。今後もホントに役立つ情報を編集して欲しい。花作りをしているが、日常の農作業に役立つようなインターネットのホームページの出現を期待しています」(岡山・男性・62歳・農漁業)
 「はっきりいって農業関係ではあまりインターネットは普及しないと思っていたが、本誌を見て考えをあらためさせられた」(男性・42歳・農漁業)
 「大変興味深く読ませていただきました。ルーラル電子図書館で広がる世界は面白かった」(長野・男性・55歳・農漁業)
 等々、多くの記事にわたって都会人も農家も楽しみながら大きな共感を寄せられたのである。この他にも「ルーラル電子図書館で広がる世界」のコーナーが面白かったという感想は農家、都会を問わず群を抜いていた。

◆情報検索で売上げ倍増の経営を作る

 「暮らしを変えたい豊かにしたい ルーラル電子図書館で広がる世界」のコーナーは、全体224ページのうちの100ページほどをあてて、主として「現代農業」の過去12年間の記事データが、さまざまな立場や願いのある人々にとってどう使えるのか特集したものである。まだお読みでない読者もあろうから、いくつかの記事をご紹介する。

◎自分専用のファイル、チラシ作りができる

 一つは「現代農業」の長期連載「あっちの話こっちの話」の検索例の記事がある。今月号の43ページにもある「あっちの話こっちの話」は農文協の職員が村でお聞きしたさまざまな話をまとめたものだ。「ルーラル電子図書館」には現在900件近い話が入っている。記事ではこの中からモグラ対策、アブラムシ対策、身近な野草で健康を守るの3つのことがらで調べた結果を紹介している。モグラやアブラムシ対策なら文字通り「モグラ」や「アブラムシ」という言葉で検索すればよい。それぞれ36件、120件と見つかる。たとえばモグラ対策では、畦にサバの頭を埋める、ウネの両端にニンニクを1本ずつ植える、風車を使う、フクロウに捕まえてもらうなど、見つかった14例のエッセンスを紹介。野草で健康守ろうとしたら、自分が治したい症状が腰痛であるのか、脳卒中やボケ予防であるのかで違ってくるし、身近で利用したい野草もさまざまだからそれぞれの言葉を入れて検索するとよいと案内したあと、シソのお茶でぜんそくが治る、スギナふろは体が温まるなど8例をのせている。
 こうして検索した結果を、プリンターで自分用に印刷すれば、自分専用の防除のファイル、健康対策のファイルができあがるわけである。新聞の切抜きファイルを作るよりずっと簡単に自分専用のファイルができる。
 産直をやっている人なら、チラシを作るときに自分のお客さんに喜ばれる情報提供に使ってもいい。お客さんに貧血の娘さんが多ければ、「ルーラル電子図書館」で調べた貧血治しの方法をちょっと貼り付けておくと喜ばれるだろう。熊本の後藤清人さんは自分の米をお客さんに配達するとき、ヨモギの天恵緑汁が貧血によいなど豊富な話をして、大変に喜ばれているという。

◎「現代農業」も「食全集」も「農業技術大系」も調べて奥行きの深い説得力をつける

 「キラリと光るおばちゃんのわざ」という記事では、都会の主婦が、「梅干しを漬けるときなぜ土用干しをやるのだろう」と「ルーラル電子図書館」の中の「食生活全集データベース」を調べたときのことが出ている。すると、「三日三晩干して夜露あてをくり返すとウメの色がよく、やわらかくなる」という香川県・瀬戸内沿岸のおばあちゃんの知恵にぶつかったり、「肉ばなれがよくなるし、味もよくなる」と石川県・加賀平野のおばあちゃんが語っているデータが見つかったという。
 「今、見直される炭と土着菌」の記事ではVA菌根菌について書いてある。VA菌根菌は植物の根に共生して菌糸を土の中に伸ばし、リン酸やミネラルなど吸収しにくい養分を根に渡してくれる微生物であり、炭によく住み着く。「現代農業データベース」でも7件ほど見つかるが、「農業技術大系データベース」を「VA菌根菌」で調べると33件のデータがヒットしたと紹介されている。そのデータを見てみると、牧草や山菜などさまざまな作目での実験結果や菌の形態・生態ついての研究を知ることができる。
 このように「ルーラル電子図書館」は「現代農業」「農業技術大系」「日本の食生活全集」という3つの大きなデータベースが利用できるので、自分専用のファイル作りはきわめて奥行きの深いものになる。「土着菌の培養法の工夫ファイル」「朝市向け品種ファイル」「プール育苗ファイル」「千客万来経営事例ファイル」等々、あなたがやりたいことだけのファイルができる。奥行きの深い文化に裏付けられた農法、農産物、村からの発信こそ、販売するときに都市への説得力を増す最大の武器である。

◎歳とったらパソコンに記憶力の仕事をさせる

 「ボカシ肥で小力農業をめざす82歳」の記事は、「現代農業」の数十年来の読者で、最近「ルーラル電子図書館」の会員になった岡山県の82歳の乗金清さんのルポである。乗金さんは微生物を利用して田んぼの除草などの手間を減らす農業に興味がある。しかし、「この歳になるともの忘れが激しくて、役立ちそうな記事があってもどの号に出ているのかすぐに見つからない」。これまでは片端からページをめくって調べたり、12月号の巻末に出ている年間総目次を調べていたが、目的の記事を探し出すのは容易でなかったという。そこで「ルーラル電子図書館」の会員になったのである。歳をとると創造力は増すのだが、記憶力の減退は否めない。そこでパソコンを記憶力がわりの道具にし、「現代農業」の記事を検索して切抜きファイルを作る道具として使うようにしたわけである。今では、必要な記事が簡単に見つかるようになったそうだ。
 「米もモモもシイタケ、ナスも作っとるがインターネットで検索すると、病害虫の駆除のことやせん定の仕方とかがわかって便利やな」

◆農業こそインターネットを使うのに向いている

 「現代農業」では農家の具体的な現場での技術、暮らしの技を重視している。1人1人田畑の条件、気象条件は違うのである。1人1人年齢、体力も違うのである。1人1人やりたいことが違うのである。同じ気象条件にあっても、どう対策するのがいいのかが違う。同じように病害虫が発生していても打ちたい手だては違うのである。普遍的な技術、普遍的な対策というものがないのが農業なのである。農業技術はいつも自分の個性とともにある。
 ふつう雑誌は、そのときの関心によって拾い読みされる。忙しすぎて読めなかった号も出る。肝心の面白かった号は誰かが持っていってしまってすでにない、なんてことも起こる。また、歳をとれば、自分にとっての必要な事柄も変わる。やりたいことが変わる。昔なら俵の1〜2俵もかつげたのに、今では3〜4キロの苗箱が重い。苗箱も野菜のポットもどう軽くするかは大きな関心になる。
 毎月届く雑誌の中から「これだ!この関係の記事を読みたい」と思ったとき、昔は関心がなくて読み飛ばしていた中にその関係の記事があることも起こる。しかし、それを膨大な記事の中から探し出すのは不可能だ。だから、「検索」なのである。この12年間という間に、「現代農業」では2万件を超す記事が積み上がってきた。どれも、具体的な田畑や体力、販売の目的などの個別的な事情を前提にした技術、暮らし作りの記事である。そういう性質の雑誌であるからこそ、その中から、自分というやはり個性的な条件に生きる人間が必要とする記事が見つかるのである。
 農業とかわが家の暮らし作りとか、またクラス毎に様子が違う教育などもきわめて個別的、個性的な事柄なのである。こうすれば良いという画1的な真理はない。工業なら、北海道に通じる真理は、鹿児島でも通じる真理であろう。画1、普遍こそが工業の基本である。しかし、農業や暮らし作り、教育は自分にとって参考になるかどうかが問題なのである。そういう意味で、インターネットは農業とか暮らし作りのための検索にこそ向いている媒体なのである。

◆農村の高齢者パワーと女性パワー

 この12年間は、村にとって特筆すべき12年間であった。それは農家が65歳、70歳になっても、農業を続けるぞという気持ちを固めたことである。また、それを可能にする農法に転換し始めていることである。また、村の農業の中心を担ってきた農家のお母さんたちが、朝市や直売所などで新しい地元流通を開いてきたことである。作って出荷するだけの立場から脱して、地元の消費者に自分たちの食べている食べ物を販売するようになったことである。
 歳をとるということは、目は薄くなる、腰も足も痛い、体力はない、農薬に弱い、記憶力は弱くなる、など体に根本的な変化が起こることである。しかし、まだ若い者は勤めが中心であり、このまま放っておけば村は荒れてしまう、自分がやらなくて誰がやる、となったとき高齢の農家は創造力を発揮したのである。小力技術、すなわち微生物やミネラルや寒さなどの自然力を生かして作業を小力にする技術を創造してきたのである。これは、農業の中心を担う女性からの欲求でもあった。体に優しい技術は同時に作物や環境に優しく、おいしく、増収する技術でもある。
 さらに高齢者にも女性にも共通しているのは、家族や孫、知り合いなど食べる人に喜ばれる健康な食べ物作りをしたいという気持ちであり、これは経営の性格も変えていく。おいしく健康なものをお客さんに届けるという、販売を大切にする経営である。今月号の巻頭特集の中にあるアスパラの記事も、それを選んだ理由は、アスパラギン酸など抗癌物質を含むアスパラは自分たちも食べ、そして自信をもって売れる作目だというので選ばれたわけである。
 こういうことが絡まって、村から都会に発する農産物・加工品の魅力は増した。そして国産の食べ物を求める声も高まったのである。

◆千客万来情報革命とライフスタイル情報革命で農村と都市の新たな結合が生まれる

 村に大きな変革が起こってきた一方で都市にも新しい運動が起こっている。その一つが今年大きな展開を迎えるであろう新しい高齢者運動である。今月の巻頭特集で「シニア市民ネットワーク仙台」の庄子さんは農家に呼びかける。
 「生きがいとはいつまでも社会から必要とされる人間として存在することである。いま私たちは農耕班の活動に取り組みたいと考えている。農村部の高齢者は都市近郊であれば、農耕班の指導者として十分に珍重されるはずだし、農村部の高齢者が耕作した産物を、都市部の高齢者とのネットワークを構成して販売し、交流を進めることも可能であろう。これぞ、インターネットを活用した情報交流で、注文・配送も産直ネットを構築して、生産・販売網を整備する。都市部の高齢者団体、ボランティア団体と、農村部の高齢者団体が直結する名実ともに産直方式をネットワークで結ぶことが可能であると思っている」
 農村との新しいネットワークを結ぼうという提案である。庄子さんは言う。「リタイア後の高齢者、子育てを終わった主婦層らは、社会的使命を終えた産業廃棄物ではない」。この世代は経験も知恵もある社会の資源であって断じてお荷物なのではない、と。しかもこの世代は、縦社会の企業戦士とは違って、お互いを尊重しあいながら社会のために仕事をする横社会を作ろうとする世代なのだ、と。つまり、金だけが目的ではない、横社会を作るための新しい産直ネットワークの提案なのである。朝市等の地元産直だけでなく、距離は離れていてもお互いを尊重しあう新しい産直、世代連帯産直の提案なのである。

 農村に情報革命を起こそう。情報を上から受け取るのではなく、自分専用のファイルを編集できる情報ネットワークを利用しよう。こうして村の技術・経営・流通の総合構想を磨き、自信を倍増して都市に販売するとき、所得も倍増する。村の魅力に惹かれて都市の人々が村に出向いてくる。千客万来農業は情報革命で盛んになる。
 一方、農家が生み出したデータベースを都市の人々も利用するとき、都市の農村に対する見方は根本的に変わるだろう。農家のデータベースを都市の人々も共有財産にして農村と都市が真に結合する情報革命で、新しいライフスタイル、すなわち農業のあるライフスタイルが作られる。
 千客万来情報革命とライフスタイル情報革命……この2重の情報革命によって、21世紀は農村と都市が互いを支えあう新しいネットワーク社会になる。村の所得は倍増する。
(農文協論説委員会)


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