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1997年11月号
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朝市はむらの暮らしの展示場 目次 ◆朝市に「嵌った」うどん屋さん ◆行政も朝市マップや朝市サミットで応援 ◆朝市には、忘れられていた 「農村固有の暮らし」がある ◆より根源的な女性の地域生活資源認識 ◆道も、ドライバーも、通信手段、 宅配便も変わった ◆朝市に「嵌った」うどん屋さん岐阜市白木町の手打ちうどん屋「高松屋」のご主人、宇佐見俊二さん(44歳)の日曜日の楽しみは、県内の朝市めぐりだ。4時半から遅くとも6時には起き、4輪駆動の愛車で4〜6町村の朝市を回って昼過ぎに家に帰る。遠い朝市で家から片道1時間程度。かけ足ではなく、一つひとつの朝市をじっくり見て回る。北九州の炭坑町に生まれ、大阪での修業の後「水のいい」岐阜で店を開いた宇佐見さんが、以前は営業していた日曜日を休みにしてまで朝市めぐりをするようになってから、もう10年にもなる。宇佐見さんが「朝市に嵌った」(本人の表現)きっかけは、お店の彩りにと山野草を採集し、藤づるの籠に生けていたところ、それに関心をもったお客さんに名前を聞かれてわからなかったことだ。山野草を採りに行く村で、誰かに聞けばわかるかもしれないと思ったが、田畑で働いている人に声をかけて仕事の手を止めるのもためらわれた。しかし気がついてみたら、岐阜の村にはそこここに朝市があった。「朝市ならこちらに向かって門戸が開かれているような気がして、おばちゃんに『すみません、この花何というのか知りませんか?』と尋ねたら、驚くほどいろいろなことを教えてもらえたんです。とくに山里の人ほどその草が食べられるかとか、毒になるとか、多くのことを知っている。『そりゃあアセビというて、からだに毒な花やで、気いつけなあかんでえ』とか…」 そのうち宇佐見さんは朝市での会話が楽しみになり、ついでそこで売られているものの魅力に惹かれた。「朝市にあるのは暮らしに必要なものだけで、余計なものは何もない。食べること、健康とは何か考えさせられるんです」 そうして朝市をめぐること自体が楽しみになってきた。 たとえば揖斐郡春日村は、数枚の田んぼがある集落に「長者平」という地名がついているほど山峡の村だが、「97、8歳の人で上から100番目くらいの長寿の村」(宇佐見さん)。そこの朝市でのお気に入りは「元祖 伊吹薬草弁当」だ。 この弁当を製造・販売しているのは六人の農家のお母さんたちの「春日村ふれあい倶楽部」。弁当についているチラシには素材の薬草の種類と用途が書かれている。 ▼ご飯 黒米飯(古代米、健康増進に中国の皇帝が常食とした)▼てんぷら ツバキの花(止血作用)ユキノシタ(利尿作用、病的に軽いむくみのあるときに用いる)ヨモギ(体を温める作用、また解毒・止血剤)▼あえもの コンニャク(1400年も前に医薬用として中国から渡来、止血作用)▼煮物 アザミ(葉は利尿・強壮の作用、根は各種の止血に効き目)オオバコ(利尿作用、咳止め・消炎剤)クコ(枸杞子で強壮作用がある)春日豆(健康増進)▼香のもの 梅干し(食欲増進などの健胃整腸作用)ずいきの酢いり▼デザート 薬草寒天(伊吹百草「トウキ・センキュウ・ウツボグサ・イブキジャコウソウ・ゲンノショウコ・チャ」天然薬用色素も使用)…4月20日の弁当 さまざまな薬草が自生することから「薬草の宝庫」として名高い伊吹山(標高一三七七m)。その山懐の春日村、この「薬草弁当」の材料も、山のめぐみだ。 「自分たちが食べきれない自然のめぐみを『もったいないから』と、あるかないかの値段でわけてくれる。そのめぐみと、みんな根のきれいなおばちゃん、おっちゃんに会って、知らなかったことを教えてもらうのが、私の暮らしに欠かせない《癒し》になっているんです。つい買い過ぎて妻に叱られるのはいつものことですが、家の食卓は豊かになるし、店のお客さんとの会話の材料にもなるし…」 宇佐見さんは、朝市めぐりのたび、「自分と同じようなにおいがする」都会からの訪問客が増えているという。薬草弁当もそうした人たちに人気で、朝6時から200食の発売で、列に並んでも買えないことがあるという。 ◆行政も朝市マップや朝市サミットで応援いま、日本全国で朝市や直売所が急速に増えている。宇佐見さんや、彼が「自分と同じにおいがする」と感じる人たちのように、都会から訪れる客もまた増えている。そうした訪問客や「地元の農産物を買いたいがどこに行ったらよいのか」という問合せの増加に対して、「朝市マップ」を作製、配布する県も増えている。岐阜県では、95年に55カ所の朝市を収録した八頁の「ぎふの朝市」を作製、それが好評だったことから今年、42頁に増頁した改訂版「いこうよ! あさいち 岐阜県朝市ガイド」を3万部配布した。165カ所の朝市を地図付きで紹介したそのガイドは、宇佐見さんの朝市めぐりの強力な助っ人になっている。愛知県農政課も、「レッツ・ゴー(郷) あいちの産地直売所&農林水産業ふれあい施設マップ」を5000部発行、この九月の末にはインターネットでも案内を始めるという。 また奈良県農業試験場では、県内50カ所の朝市・直売所をネットワーク化する「食の歴史街道構想」を打ち出し、伝統食のレシピ付きドライブマップを近々発行の予定だ。これは県内8ロード(街道)を設定し、各ロードについて「茶がゆ」など地域の伝統食のつくり方と、その材料が手に入る朝市・直売所を掲載したものだ。 さらに山口県では、この11月15、16日「ルーラルフェスタ315・376」と「やまぐち朝市サミット」が開かれる。前者は県内の二つの国道315号線・376号線沿いの朝市・直売所を結び、関門海峡をはさんだ隣県の大都市・北九州市から「ふれあいバスツアー」の参加者を募り(新聞折り込みチラシなどで呼びかける)、郷土食の試食やイベントなどで迎えようというもの。昨年も開かれたこのフェスタの来客数はなんと七万人。また後者は、全国の朝市関係者、専門技術員、生活改良普及員などに呼びかけてルーラルフェスタを体験してもらい、また朝市についての情報交換、グリーンツーリズムについての講演会などをひらくもの。地域の生活に密着した「生活朝市」の全国サミットはこれが初めてだ。 農文協では、このような情勢を受けて増刊現代農業「朝市大発見 自然な暮らしがここにある」を発行する。 ◆朝市には、忘れられていた
朝市・直売所が元気だ。なかでも、すでに見た岐阜県、愛知県山間部、奈良県、山口県のような中山間地域の朝市が元気だ。これらの地域の農業は、地形が狭隘複雑で大規模化しようにもできなかった。男は早くから兼業に出、女性と高齢者が主体になって「多品目少量生産」の「自給農業」を守ってきたか、生活改善運動などによって「自給」を取り戻した地域だ。このような地域で元気な朝市・直売所が輩出していることについて、農村生活総合研究センター調査役の富田祥之亮さん(朝市増刊にも寄稿)は、次のように述べている。 |
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