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農文協トップ主張 2010年1月号

業態革命元年

農家力(自給の思想)が「地域という業態」を創造する

目次
◆「地域という業態」を準備した農家の取り組み
◆直売所がおしすすめた4つの改革・創造
◆暮らしの原理からの「流通のとりもどし」
◆「農法の見直し」と「地域資源活用の広がり」
◆「担い手の多様化」―直売所は小さな農家を増やす
◆農協は、「地域という業態」の重要な担い手

 世界金融危機・同時不況に揺さぶられた2009年が終わり、新しい年を迎える。この新しい年2010年を、「業態革命元年」=「地域という業態」を創造し、「地域の再生」をすすめる出発の年にしたいと思う。

「地域の再生」には、人々のコミュニティとともに、これを支える仕事・地域産業興しが不可欠だが、従来の中央に依存した土建的公共事業や企業誘致の道に未来を託すことは難しい。新しい構想が求められている。そんな仕事・産業のありようを「地域という業態」という言葉をキーワードに考えてみたい。

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「地域という業態」を準備した農家の取り組み

「地域という業態」という見方を提起した『地域に生きる』(東北地域農政懇談会編著・農文協刊)では、次のように述べている。

「各業種ごとに業界団体が存在し、中央と地方とは、中央が企画を行い、地方はその実行のみを行うという中央集権的な関係で結ばれていた。その中で、地方は中央に頼らなければ生きられないという他律的な構造に陥ってしまった。さらに、各業種間には、『縦割り』という大きな壁が存在していた。同じ地域の中に暮らしていながら、農業団体と商工会、温泉組合などの間には、相互の交流関係は乏しかった。そして、それぞれに『我が業界をめぐる情勢は厳しい』と頭を抱えていた。『地域という業態』は、このような『対立』『他律』『悲観』という構造から脱却し、『共生』『自律』『楽観』という構造に切り替わろうという考えである。すなわち、これまでバラバラだった、農業、建設業、観光業などの地域の中のさまざまな業種がお見合いをし、相互に信頼関係で結びつき、それぞれ持っている知恵や情報、販路などを交換・共有することで、地域の内側から渦の広がっていく産業構造を作ろうという考えである」

 高度成長期以降、かつて地域に生業としてあった様々な仕事が専門化・産業化され、業種ごとの「専業化」と「業種の壁」のなかで、経済合理が追求されてきた。それが近代化であり、経済を拡大し豊かさを実現する道だとされてきた。だが、それぞれの頑張りにもかかわらず、いや頑張りのゆえに、かえって地域を暮らしにくいものにしてきた。業種縦割り中央集権構造によって地域は分断され、地域にあるもの、地域資源の価値が見失われてきたからである。そこを、地域を再生する立場から変えていこうとするのが「地域という業態」の考え方である。

 2009年、農家は作目の壁、業種の壁を越えて、歴史に残る大きな前進をした。09年1月号の「堆肥栽培元年」。畜産農家が処理に困っている家畜糞を筆頭に、高速道路の土手の刈り草、食品工場から出る野菜・果物の皮や芯などの廃棄物、ライスセンターから出るモミガラ、近隣の町の人の捨てる生ゴミなど、農家は、身近な地域の有機物資源を本気で肥料として位置づけるやり方をおしすすめた。経営状況がきびしいなかで、「自分でやる・工夫する・捨てないで利用する・買わないでつくる・みんなでやる」……、そんな農業のやり方は、この間一貫して指導されてきた、選択的拡大による専作的な「業種」として効率的な経営をめざすという発想とはちがい、「業態」的である。

 農家はもともと、食べものや資材の自給から兼業まで、多彩な仕事をこなす「業態」であった。その「業」は「生業」であり、それは暮らしと結びつき、あるいは暮らしそのものである。そして生産・生活の両面で支えあうむらの仕事のありようは、相互につながりあう「地域という業態」であった。つながりがなく単一的であるがゆえに他律と対立にならざるを得ない「業種」に対し、「業態」は結びつきを旨とするがゆえに自律と共生によって地域を形成する。それがむらという「業態」である。

 それを、他の業種と連携しながら現代に復活、創造する。その条件、大きな可能性をつくりだしているのが直売所である。直売所はいまや、「地域という業態」を創造する原動力となり、「地域の再生」の拠り所となっている。

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直売所がおしすすめた4つの改革・創造

 直売所がなぜ、「地域という業態」を創造する原動力であり、「地域の再生」の拠り所なのか。整理してみよう。

 今日の直売所の源流の大きな一つは、1970年代に展開された生活改善グループや農協女性部の女性たちによる「○○円自給運動」である。兼業化が進むなかで、女性たちは、子どもたちなど家族の健康や家計のことを考えて自給畑をとりもどし、あまった野菜やくだものを朝市、日曜市などで販売していった。80年代には、急激な円高による農産物輸入が急増するなかで、多くの農家が参加して野菜を中心とする直売所を増やし、93年の平成大凶作の時には、親戚、友人、知人に自家用米までおすそ分けし、そんな結びつきをいかして本格的な米プラスαの産直・直売を展開していった。

 食生活の自給運動を土台に展開した直売所、地産地商。暮らしの原理が息づく直売所は、農家をひたすら狭い意味での農業=原料生産を行なう産業の一業種に押し込もうとしてきた農業近代化路線から農家を解放し、それゆえ、以下のような大きな改革・創造をもたらすことになった。

 1、流通のとりもどし

 2、農法の見直し

 3、地域資源活用の広がり

 4、担い手の多様化

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暮らしの原理からの「流通のとりもどし」

 一の「流通のとりもどし」。中央市場を基点に集散する単品大量生産の流通システムが全国を覆うなかで、地元市場や引き売りなど、気軽に販売できる場が失われていった。そんな小さな流通を農家にとりもどし、多品目少量生産の地域流通システムをつくりだしたのが直売所である。流通マージンや出荷経費が市場流通と比べるとはるかに少なく、農家の手取り率は高く、代金決済も速い。またお金が地域で回り、今では地域経済を活性化する無視できない力になってきた。

 だが、直売所が進めたのは単なる流通合理化ではない。直売所は、農家と地域住民・都市民が交流する、つくる人と食べる人の共感関係づくりの場であり、そして「だれでも、いつでも、なんでも出荷できる」場である。直売所を支える暮らしの原理が直売所に、この2つの特質をもたらしている。この特質が軽視されれば、直売所はその生命力を失うことになろう。

 直売所を基点とする地域住民・都市民との交流は、料理教室、農村レストラン、学校給食、農業体験などへと輪を広げ、だれでもなんでも出荷できることは、加工品やクラフトなども含めて、個性・地域性があふれる魅力的な品ぞろえを可能にする。2つの特質を強めれば直売所はまだまだ伸びる。そして、直売所がもつ人々を結ぶ力が、「地域という業態」の原動力になる。

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「農法の見直し」と「地域資源活用の広がり」

 2つめの「農法の見直し」。本誌09年8月号の特集「ザ・直売所農法」では、ズラシ(早出し遅出し)、葉かき・わき芽収穫、密植・混植など、直売所ならではの工夫を紹介した。市場流通の規格から自由になるとさまざまな工夫が生まれる。この工夫もまだまだ伸びる。

 規格は自由だが、「安全でおいしい」ものを届けたい。そこで、土着菌利用のボカシ肥や竹肥料、マメ科利用、自然農薬、月のリズム防除など、多様な工夫が生まれる。金もかけたくないから、堆肥栽培や土ごと発酵方式で、家畜糞尿など身近な資材を生かし、間作・混植で病害虫が出にくい作付けの工夫もする。

 直売所では、自在な栽培法が展開している。直売所も市場出荷も売ることに変わりはないのだが、食べる人との直接的な交流・共感と、そして「なんでも・いつでも」という自由性が、作物や土への向き合い方に変化をもたらす。これまで蓄積してきた高品質・多収の技術を生かしつつも、作物の自然力や多様性、地域資源の活用へと発想が広がり、農業の近代化が断ち切ってきた、自然と人間の働きかけ働きかけ返される関係が回復する。

 こうして3つめの「地域資源活用の広がり」である。

 かつては山の下草や落ち葉が家畜のエサや作物の肥料になり暮らしに役立てられた。そうして管理された山からの水が川の魚を育て、農業や生活用水に役立てられ、豊かな海を育てることにもなった。近海の海藻や魚粕は田畑に施され、海のミネラルは田畑に還流された。そんな山・里山・川・田畑・海のつながりが、地域資源を生かす農法革命によって回復されていく。

 さらに直売所では、葉っぱビジネスや薬草利用、山菜とその加工品、蔓や竹を使った工芸・クラフトなど、野山の幸を生かす工夫も盛んで、最低限の手をかけながら里山を生かすすべも広がっていく。

 近代以降、生産・生活資材をことごとく都市・工業・無機資材に依存することで、山・里山・川・田畑・海をめぐる大循環が失われた。それが地域を疲弊させた大本であり、その現代的回復が直売所農法のもとで始まっている。

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「担い手の多様化」―直売所は小さな農家を増やす

 そして4つめの「担い手の多様化」。

 直売所の多くは、女性、高齢者の活躍に支えられている。そして最近では、兼業農家の定年退職者や新規就農者が、栽培を勉強しながら少しでも現金収入を得る場として、直売所は貴重な場になっている。

 専業的な農家はもちろん地域の中核だが、それだけが農業の担い手ではない。直売所によって、農業の担い手の見方はずいぶん多様化した。

 今、遊休地が増えるなかで、小さい農家を増やそうという試みも始まっている。

 今月号の小特集「小さい畑で農家になる」では、一般市民が最低300m2から農地を借りて農業をすることができるしくみをつくった、神奈川県南足柄市の事例を紹介した(334ページ)。名付けて「市民農業者制度」。10aに満たないような借り手のつかない農地と、市民農園よりはもう少し広い畑を耕したい定年帰農層を結びつけるのがそのねらい。農業で自立することまではめざさないが、販売はしてみたい。そういう層を市民農業者と名づけて、空いている農地の担い手になってもらうというわけだ。

 2009年6月に成立した農地法の改正では、これまでは原則50a(北海道は2ha)だった農地の権利取得の下限面積が引き下げられ、「10a以上」となっている。しかも、市町村の農業委員会が自らの判断でそれを定めることができ、「10a以上」に設定しても利用が進まないと見込まれる遊休農地が多い場合には、この規定にかかわらず「新規就農を促進するために適当と認められる面積とする」とある。

 直売所があれば、新しい「小さな農家」を呼び込みやすくなる。直売所を生かしてむらに住む人を増やし、「地域の再生」にも参加してもらう。そんな新米農家にはさまざまな業種の経験者がいて、その能力や技術をむらのために発揮してもらう。業種にしばられてきた会社のための労働とはちがう働き方に、生きがいを感じる人々も多い。

 以上の4つの改革・創造によって、直売所は「地域という業態」を創造する原動力になってきた。直売所が地域住民・都市民を呼び込むことによって農家レストラン・農家民宿・貸し農園など様々な関連産業を誘発し、地場産業の「業態革命」を促す。直売所がむらと農家を成り立たせてきた農家力=自給の思想の発現を助ける場となり、そこから、さまざまな地域的展開の可能性を生みだしている。

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農協は、「地域という業態」の重要な担い手

 地域には公的機関も含めてさまざまな業種があり、それぞれ難問を抱えている。そんな業種と農家・地域農業の連携が「業態革命」の出発点になる。

 学校での地場産給食、病院やデイサービスなど福祉施設での弁当や食事、耕作放棄地活用にむけた地元土建業との連携、観光施設での地元産郷土料理の提供など、すでにさまざまな取り組みが進んでいる。そんな取り組みをより豊かに、安定的にすすめるうえで、行政・自治体の役割も大きい。

 そして、農協である。農家と地域を離れては事業も経営もその理念も存在の意味も失う組織である農協こそ、「地域という業態」の重要な担い手である。

 その農協は2009年10月7日、第25回JA全国大会ではじめて、JAグループの最も将来性のある販売事業として直売事業(ファーマーズマーケット)を位置づけた。農家手取り最優先の原則を明確にし、農協が地域農業・直売所を基点とした総合的な仕事興しセンターの役割をもち、合わせて農協経営の再建を図るというものである。「新たな協同の創造」の重点取り組み事項として掲げられた3つの決定議案(農業の復権・地域の再生・JA経営の変革)は、地産地商型直売・直販事業を中軸に据えることでしか実現しないからである。

 大会の分科会での報告によると、直売所は市場出荷型に比べて、小売価格に占める農家手取りは30〜40%から70〜80%にアップ、農協手数料も平均値で2.5%から15%にアップするという。直売事業は農家手取りと農協の営農経済事業を同時に改善するというわけである。

 農協の直売事業はファーマーズマーケットに留まらない。生協や大手量販店等に地域を出前するインショップ販売、重点作物が中心の総合相対複合取引、特定仕向け市場ルート販売、そしてギフトなどの直販システムなど、地域にあるものをそれに相応しい消費者に届ける総体が、これからの農協の直販型販売事業である。多品目少量生産の地元農産物とその加工調理品を扱う総合パッケージセンターを核にした産地主導の流通システムを創造し、安売り競争に巻き込まれない新産地を形成していく。

「新しい協同の創造」では、組合員間の協同の再確立が謳われているが、「協同」のあり方も市場対応型とはちがってくる。市場対応型の部会組織では栽培技術も含め画一性が求められたのに対し、直売所では逆に、多様な農家技術が工夫され、それが直売所の活力と魅力になっている。多様性や差異を認め、農家が農家力=自給力を発揮し、個性を磨きあう。こうして、直売所という場が、自給と相互扶助の「新しい協同を創造」する基礎になる。

 集落営農や農地・水・環境保全向上対策事業などを契機に形成される集落組織や手づくり自治区に取り組む地域自治組織をバックアップし、積極的に連携することも、「新しい協同を創造」する一環である。大きな農家と小さな農家が相補う「新しい協同」と「共同の技術」を励まし、「むらの力」を強めることに農協が貢献する。

 直売・加工事業と連携したり、職員を集落営農の事務方として配置したり、連携の仕方はいろいろある。地域でオペレーターを確保し、外からの新規就農者や援農・体験農業の受け入れを集落や地域連携で行えるようにサポートする。農協にもある縦割り的仕組みを超え、地域の各業種と連携しながら地域貢献事業を推進していくことを、役職員全体の課題にしたい。

 アメリカから始まった金融危機は、近代化による地域と地域コミュニティの破壊が世界的に広がっていること、また、金融・経済及び市民社会と国民国家が三位一体的に劣化し危機に陥っていることを白日の下にさらした。近代を主導した資本主義的経済も個人主義的市民社会も、国民国家も、人類が抱えている人口、食料、資源・エネルギー、環境という四大矛盾を解決する主体ではありえないことが明白になった。

 近代を超える主体は「地域」にある。地域が主体になるために、地域のあらゆる経営体や組織が地域との再結合をすすめる。農家が準備した「業態革命」の条件を生かし、あらゆる経営体・組織が連携しあうことによって地域全体が有機的な業態になる。そんな「地域という業態」が都市に働きかけ、消費者を生活者に変革し、未来をひらく。「業態革命元年」という夢を読者の皆さんと共有し、その実現に向けて農文協も邁進したい。

(農文協論説委員会)

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「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2010年1月号
この記事の掲載号
現代農業 2010年1月号

こうじ菌バンザイ ほか。 [本を詳しく見る]

 地域に生きる』農林水産省東北農政局 企画 東北地域農政懇談会 編著

従来の縦割りの「業種」の壁を取り払い、新しい暮らしと産業づくり=「地域という業態」を創造する多様な営みが今、始まっている。ミクロな取材に基づく豊富な事例とその今日的意味、地域から再生する日本を考える。 [本を詳しく見る]

グリーン・ニューディール 増刊現代農業 農家発若者発 グリーン・ニューディール』地域創造の実践と提案

九〇年代農村生活革命と若者の進路創造/戦後開拓のむらに続々「戦後第二の入植」/若い夫婦の夢を育む直売所の包容力/おっちゃんたちの夢が若者の夢を実現させる/ほか。 [本を詳しく見る]

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