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2009年4月号
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農家が「先生役」の「教育ファーム」で地域が元気になる目次 食と農を結ぶさまざまな体験の場に子どもを置いて、子どもに、地域を誇りに思う心を育てたい。 農水省では、食育事業の柱として、農家が先生役で参加する継続的な体験の取り組みを「教育ファーム」と呼んで、推進・拡大のためのモデル事業を展開している(教育ファームには、農業のほか、水産・林産体験も含む)。 農文協はその事業の事務局として、平成20年度に、全国で139の協力団体とともにモデル事業をすすめ、体験活動の「効果」も検証している。 「教育ファーム」とはどんな取り組みで、どんな効果が上がっているのだろうか。 「教育ファーム」の成果「カレーライスパン」とは?まずは、子どもには、地域を変える力があると実感させてくれる兵庫県佐用町の生活研究グループ「ほほえみ会」の取り組みを紹介したい。 会員八名、平均年齢70歳をこえた「ほほえみ会」の代表、井口美子さんは、地元の小学生から「駅ばあちゃん」とよばれている。 佐用町は、兵庫県最西端の中山間地域。町の中央に、道の駅「宿場町ひらふく」がある。鳥取方面に抜けるバイパス国道が走り、昔の「平福」は因幡街道の宿場町としてにぎわった。 「ほほえみ会」は、その「道の駅」で直売所(因幡街道平成福の市)を運営しており、井口さんは道の駅のばあちゃんだから、「駅ばあちゃん」の愛称で親しまれているわけだ。 井口さんたち「ほほえみ会」の「教育ファーム」活動の対象は、地元の利神小学校3年生19名。地域の小学校4校が統合してできた小学校だが、児童数97名の小規模校だ。3年生の体験活動の舞台は、学校の近くの田畑と直売所、さらに廃校になった小学校の給食室を譲り受けた「ほほえみ会」の食品加工所。「ふれあい加工所」だ。 代表の井口さんは、平成10年から利神小学校3年生の「総合学習」のゲストティーチャーとして体験学習にかかわってきた。「学校の教室では先生から基本をしっかり勉強して、ばあちゃんのところにきたら、自分の力をどんどん発揮してや」と話しながら、井口さんは子どもたちを一人前に扱う。 体験させているのは、黒大豆や野菜つくり。そして直売所の商品開発にも3年生のアイデアを借りる。昨年登場して一躍人気をさらっているのはA君の開発した「カレーライスパン」だ。「ほほえみ会」では、平成17年に佐用産コシヒカリを使った米粉パンを開発し、きなこ米粉パンが定番商品になっているのだが、ここへ新たに仲間入りした格好だ。 2年前の夏休み、当時3年生の子どもたちへ、おいしいパンのアイデアを宿題にしたのがきっかけだ。A君は加工所での試作の当日、炊いたご飯とカレーをパンの具として持ち込んで、白いご飯に冷めたカレーをのせて米粉のパン生地で包んだのだ。井口さんもまさかと思ったアイデアだが、焼いてみるといい香りがして、うまい。試作品8個はたちまち子どもたちのおなかの中へ収まった。 カレーパンではない、カレーライスパン。A君が4年生になった昨年4月、満を持して直売所で発売を開始。1個130円、限定30個が、今は限定50個へ。「利神小のカレーライスパン」は10時には売り切れる人気商品になった。開発者のA君は、引っ込み思案で会話も苦手な子どもだったが、カレーライスパンがほめられて自信がついたのか、いまでは教室のリーダー格に変身したという。 平成20年度の栽培体験は、あえて子どもがきらいなピーマンを育てたが、とれた「ジャンボピーマン」を子どもたちはバリバリ食べる。こんなおいしいピーマンなら給食にも出してほしいと子どもたちから要望が出て、給食の食材になった。もちろん残食もない。 子どもたちが畑でかいた汗と、子ども自身のアイデアが、学校の給食を変え、直売所を元気にしている。 北海道の農業地帯でも、都市近郊でも「教育ファーム」の形は他にもいろいろある。 井口さんたち「ほほえみ会」の実践は、地元の学校支援型で、「総合学習」など学校の取り組みを応援するものだが、ほかにも地域内外に広く体験参加者を公募する公募型・土日開催型の「教育ファーム」もある。 札幌から車で1時間、北海道由仁町の水田地帯にある専業農家・三田村雅人さん(47歳)一家が運営する「由仁ふれあい農業小学校」も、土日開催型で親子の「生徒」を集める教育ファームだ。5月中旬の「入学式」から隔週12回の「授業」で、11月初めに「修了式」となる。 参加費は個人参加1万2000円、家族参加2万4000円。これで、オーナー畑として個人参加5坪、家族参加10坪が提供され、さまざまな野菜を育てることができる。課外授業もあり、地元の異業種農家と連携してリンゴ狩り、シイタケ狩り(ほかにアスパラ・タマネギなど)で交流し、旬の味を楽しむ。 栽培だけでなく、調理・加工体験もする。小麦で石窯パン、大豆で豆腐。農園の一角には新たにビオトープ(池)をつくり、水生昆虫採集やいかだ遊びができる。 農業小学校の参加者の中には、さまざまな特技を持つ人がいる。パン焼き名人、星の観察名人、自然遊びの指導者など。その人たちに手伝ってもらい、サマーキャンプを実施、ビニールハウスで就寝体験をしている。 20年度の生徒数は、大人・子ども合わせて68人。参加費は100万円に満たないが、札幌周辺から集まる「生徒」たちの「応援団」効果は大きい。お米の直販ルートが広がり、ジャガイモ・トマトなどの通販も広がる。「教育ファーム」が、「交流型農業」のお客さんを増やしているわけだ。 町場の「都市近郊農家」が指導者として参加する「教育ファーム」もある。名古屋市や金沢市などには、幼児とママさんが一緒に参加する「子育て支援型」農園がある。 いわゆる「公園デビュー」で先輩ママさんの仲間入りをするのでなく、「農園デビュー」で触れ合う。そんな都市型の「教育ファーム」が各地に生まれ、孤立しがちな若い子育てママさんを支援しながら、農業・農家の応援団を増やしている。 ほかにも、農協応援型、集落営農組織が地元の小学校の体験学習を支援するタイプなどもある。モデル事業に取り組む139団体の活動の詳細は、「教育ファームネット」で検索して、参考にしていただきたい。 「教育ファーム」は何をめざすのかこうして各地で取り組まれる「教育ファーム」は何をめざすのか。農文協の思いも含めて整理してみたい。 (1)教育ファームは「食育」の場である。 (2)教育ファームは「体験学習」の場である。 (3)教育ファームは「気付き」の場である。 (4)教育ファームは「変容・結びあい」の場である。 そしていま、小学校や中学校に、この教育ファームと志を共にする「追い風」が吹いている。 応援したい、小中学校の「体験型学習」全国の小中学校で、この4月から、これまで以上に「体験型学習」が重視される。文部科学省の「学習指導要領」が改訂され、4月から「移行期」として、どんどん進めなさいという指示が出ているからだ。 ◆「生活科」…継続的な飼育・栽培への改訂 まずは、小学校1〜2年生が、小学校入門期に学ぶ「生活科」の指導要領が改訂された。 もともと「生活科」では、まずは学校になじませ、基本的学習・生活習慣を身につけるねらいで、直接体験を重視した学習活動を行なっている。 栽培体験ではアサガオの鉢栽培などに取り組む学校が多いが、今度の改訂で、「継続的な飼育、栽培を行なうようにすること」の文言が新たに加えられた。生命に関する教育が重視されて、「生命の尊さを実感を通して学ぶ」観点から、短期的でなく、「継続的」な飼育・栽培体験をやりなさいという指導に変わったのである。 アサガオだけでなく野菜の栽培もやらせたいし、1年生から2年生まで継続するムギやタマネギの栽培も面白い。そうなると畑の確保や栽培指導の面で、地元の農家や農業関係者の応援が必要になる。 ◆「総合学習」…「地域学習」「生産活動」にシフト そして、3年生から始まる「総合的な学習の時間」。も「生きる力」を育むねらいで、平成10年の指導要領改訂で創設されたものだが、今回の改訂では、学習活動の内容として、「地域の人々の暮らし、伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題についての学習」が加わった。さらには「ものづくり、生産活動などの体験活動を積極的に取り入れること」にも配慮することが指導されている。 今回の改訂で、「総合学習」は時間数が週3時間から2時間に削減される。その分、5〜6年生で週1時間の「外国語活動」が新設された。「総合学習」の時間は減ったが、「地域学習」「生産活動」にシフトした取り組みが求められるから、ここでも地域に根ざした「教育ファーム」活動へ、農家・農業関係者の応援が歓迎されることになるだろう。 ◆「栄養教諭」の地域連携型食育の推進 さらなる「追い風」は、この四月から「学校給食法」が改定・施行されること。この改定のなかで、栄養教諭が中核となり学校・家庭・地域が連携して食育を推進すること、そのためにも「地場産給食」を推進すること、つまり、食材の地域自給と農業体験・食文化学習を結ぶことが求められているのである。今年4月からさらに増員される「栄養教諭」の応援も、農家・農業関係者の大事な課題である。 「生物育成」で困っている中学校「技術科」の先生実は、今回の学習指導要領の改訂で、農家・農業関係者の立場から一番注目したいのは、中学校の「技術・家庭科」の「技術分野」の指導内容の変更である。 これまでは、木工や金属加工、あるいはパソコンの基礎学習をやればよかったのだが、今回の改訂で「生物育成」、つまり「栽培」(または飼育)が必修になったのだ(もちろん男女とも)。 「栽培」という領域は、30年前までは必修だったのだが、その後はずっと「選択」領域、つまり「やってもやらなくてもよい授業」だった。だから、いま全国の中学校で「栽培」を選択し学んでいるのは、わずか5%にすぎないという。 それが今度の改訂で「必修」になる。全国どの中学校でも、必ずやらなければならない授業になる。 しかし、現実には、「栽培」が必修だといわれて、技術科の先生が困っている。教員養成の学生時代も含めて、栽培の経験がほとんどない。指導のノウハウもない。はたして教育効果があげられるものか、自信がない。 「栽培」は、この4月からどの中学校でも始めてよい。もし先生が躊躇していたら、地元の農家やJAなど農業関係者が後押ししたい。 さらにもう一つ、中学校技術・家庭科では、「家庭分野」の内容も改訂され、「地域の食材を生かした調理、地域食文化の理解」が、「選択」から「必修」に変わった。 「栽培」して「調理」へ、「地域食文化」へつなぐのも、郷土食に詳しい、農家など「地域の先生」の出番なのだ。 「深い学び」につながる工夫へ「現代農業」「食農教育」の活用を農家が応援する「教育ファーム」の栽培体験では、単にひとつのやり方を一方的に指導するのでなく、「実験たんぼ」や「ためし畑」をつくって子どもたちを「研究者」にする工夫も必要だ。 たとえば、田んぼの品種くらべ。北海道の品種(ほしのゆめ、など)を少し植えてみる。感温性の品種だから、関東以南の暖地では「超極早生」に育ち、7月初めには穂を出し、花が咲く。夏休み前にイネの開花を見せたいときは、こんな工夫をしたい。 「実験たんぼ」や「ためし畑」を楽しく、豊かにすすめるうえで、農家がさまざまに工夫していることや知恵が頼りになる。たとえば、本誌今月号の特集「ありっ竹、使いきる」も、子どもたちの「ためし畑」に提案したいアイデアの宝庫だ。農家の工夫が詰まった『現代農業』は、「教育ファーム」の最良の情報源なのだ。ぜひ、中学校の技術科の先生に会ったときは、購読をすすめていだだきたい。 一方、小学校の先生には、農文協発行の『食農教育』3月号・10周年特大号「学級園おもしろ栽培ハンドブック」がおすすめ。1学期からの栽培モデルと工夫を満載した1冊で、たとえばダイズの摘芯栽培でエダマメを多収する工夫や、乳酸菌パワーで野菜を元気に育てる小学校の取り組みも登場。これもためし畑で生育を比較すれば、子どもは畑に通いたくなる。トマトやサツマイモに始まってほとんどの作物や家畜を網羅した農文協の「そだててあそぼう」シリーズ(全85冊)も楽しい「教育ファーム」テキストだ。 「教育ファーム」推進にこめた農文協の思いは、子どもたち、先生たちに「農業・農家の応援団」になってもらい、ともに地域をつくること。読者諸氏も、ぜひ「教育ファーム推進」の国民運動に参加していただきたい。 (農文協論説委員会) 関連リンク |
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