特集:アカデミズムと動物園
●遠藤秀紀:動物園の未来像……129
●遠藤秀紀:学術の異様な変貌,そして動物園への期待……130
動物園の未来像を語るべく,アカデミズムと動物園のこれまでの関係を洗い出してみた.そこには,学者が動物園をどうとらえ,動物園をどう育てようとしてきたかという,生物学界が残してきた問題意識の足跡を見て取ることができる.そしてその足跡は,今日の学術の変貌に直接影響を受け,急速に変化しつつある.だが,いま学界で,動物園の幸福はどれほど真剣に問題意識をもたれて語られているだろうか.動物園の幸せは,当然動物園自らが獲得していくものであると同時に,学界もそこに計り知れない責任を背負っていることを自覚しなくてはならない.まず,動物園と生物学界に期待される建設的な間柄を提案することから始めたいと思う.
キーワード:アカデミズム,研究,社会教育,大学,動物園
●村田浩一:日本の動物園における研究―その過去・現在・未来―……137
近代における動物園の当初の目的は動物学の研究および教育であった.しかし,日本の動物園は歴史的経緯の中で「学」を見失ってしまったようだ.そのため社会的には単なる集客施設と見なされ,最近の経済不況で人気に陰りが見られると,安易に合理化や閉鎖の対象となり始めている.動物園が科学文化施設と今後も存在し続けるには,動物園技術者・研究者・市民が動物園本来の役割と義務を認識し,それを支えるシステムや文化基盤を構築する必要がある.
キーワード:動物園,科学文化,動物学,研究,教育
●高見一利:動物園の研究への取り組み……144
国内の動物園では,学術面が運営上軽視されてきた経緯があり,現在でもその研究活動が一般に認知されているとは言い難い状況である.しかし,動物園は古くから研究活動を重要な機能の一つと位置付けており,学術面の強化が現在の課題であることも認識している.このような現状をふまえ,動物園では,研究活動を促進するステップとして,外部機関との連携を加速させるための研究サポート体制づくりが行われている.貴重な野生動物資源を無駄にしないため,また野生生物保全を積極的に進めるために,多くの研究者の理解と積極的な関与が必要である.
キーワード:動物園,水族館,研究活動,人工繁殖,遺伝子収集保存,共同研究
●赤見理恵ほか:学術プロジェクト・大学と動物園―文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト―……149
文部科学省により2002年度からナショナルバイオリソースプロジェクトが開始された.この一貫であるチンパンジー フィージビリティースタディーは,既に研究資源としての地位を得ている他のプロジェクトと比べると,その戦略・戦術ともに異色の存在である.他のプロジェクト(イネやマウスなど)では,対象生物の繁殖母群を確立することで研究資源の安定供給を目指している.しかしチンパンジー
フィージビリティースタディーでは,非侵襲的研究に限定し,動物福祉に配慮し,そして現在チンパンジーを飼育している動物園等との連携の上でこそ成り立つプロジェクトだからである.2002年度の調査では,資源供給側である動物園及び研究施設と利用者側である研究者の双方から前向きな意見が聞かれた.今後の動物園,研究施設と研究者間の情報共有システム,資源配分システムの確立が強く望まれた.
キーワード:動物園,学術プロジェクト,チンパンジー,資源分配,動物福祉
●須田知佳子:動物園と学術研究の協力関係:ウォルフガング・ケーラー霊長類研究所……156
ウォルフガング・ケーラー霊長類研究所(WKPRC)は,マックス・プランク研究所進化人類学部門とライプツィヒ動物園による共同プロジェクトである.WKPRCでは4種すべての大型類人猿が飼育されており,大型類人猿の行動と認知が比較心理学と発達心理学の側面から総合的に研究されている.マックス・プランクの科学スタッフと動物園職員は互いに協力することで,研究活動,公共教育,飼育動物の福利において大きな成果を上げている.
キーワード:動物園と学術機関の協力,ウォルフガング・ケーラー霊長類研究所,大型類人猿
●福井大祐:動物園現場における研究の現状と動物園アカデミズムへの挑戦……164
日本の動物学は“学”を忘れてきた.動物の魅力的な展示,繁殖,教育,研究および広報のどれもバランスよく求められている.そこには豊富な研究対象と課題が埋まっている.飼育動物や傷病保護野生動物を各種研究に有効活用し,得た情報を積極的に広報することも社会貢献の一つである.動物園現場人の個性を活かした研究の一例を紹介しながら,その進め方,努力および展望について述べる.外部研究者との共同により,学術研究の場“動物学園”へと成熟する将来を期待する.
キーワード:動物現場,アカデミズム,動物学園,野生動物,外部研究者
●溝口元:動物園・水族館と動物学:その史的展開……171
今日「かつてない危機に直面している」と切実に訴えられている動物園・水族館の現状を動物学の動向と関連させ,歴史的に検討した.従来の動物園・水族館史は,収集,飼育,展示,公開,調査研究,娯楽性に着目し,それをどの程度満たしているかをもって近代的動物園・水族館の成立を論じていた.しかし,こうした現代モデルとの類似性に着目する限り,どこが最古の動物園・水族館なのかということは論者のとらえ方の問題に帰することを指摘した.ここでは,動物学において分類学,比較解剖学,進化要因論の萌芽がみられた時代の産物として近代的動物園・水族館が誕生したととらえた.また,動物園・水族館と動物学との研究レベルでの関係は,わが国においては実態的に臨海実験所や動物標本がその役割の大半を果たしていたことを明らかにした.
キーワード:動物園,水族館,動物学史,臨海実験所,日本科学史
●書評―
『トゲウオの自然史―多様性の謎とその保全―』『地生態学入門』/『保全遺伝学』/『甦るダーウィン:進化論という物語り』/『里のサルとつきあうには―野生動物の被害管理』
●三中信宏:“みなか”の書評ワールド
Special feature: Academism and the future of zoo
Endo Hideki : Zoo perspectives (129)
Endo Hideki : Destruction of academism in Japan and the future of
zoo (130)
Murata Koichi : Sciences at zoological gardens in Japan : its past,
present and future (137)
Takami Kazutoshi : Japanese zoos are tackling research (144)
Akami Rie, Ochiai - Ohira Tomomi, Kurashima Osamu, Hirai Momoki,
Yoshikawa Yasuhiro, Matsuzawa Tetsuro, Hasegawa Toshikazu &
Yoshihara Koichiro : Cooperative effort of academic projects and
zoos : The outline of chimpanzee feasibility study, national bio
- resource project (149)
Suda Chikako : Max Planck Institute for evolutionary anthropology
(156)
Fukui Daisuke : A current research and view of it towards the future
at zoological parks - Asahiyama zoo case study (164)
Mizoguchi Hajime : Zoo and zoology : A historical point of view
(171)
Book reviews (181)
Book reviews by Minaka (186)
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