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生物科学
Volume 59,No.2 2007

Dec.

目次

特集:鳥のさえずり

●巻頭言:島唄に想う(石田健)……65

●藤原宏子:鳥のさえずり―特集にあたって……66
 鳥類の一部(オウム目,スズメ目鳴禽類,ハチドリ目)のオスは学習によってさえずりを発達させる.これらの鳥の大脳には,互いに良く似た構造が発達している.この脳構造は音声学習をしない鳥にはみられないので,音声学習の神経基盤であると考えられている.鳥類の中で,3つの分類グループだけがどのようにして音声学習能力を獲得したのか.本稿ではさえずり学習の,それを可能にする脳の系統発生について考察する.さらに,ヒトの言語遺伝子として知られるFOXP2の鳥類ホモログとさえずり学習との関係を検討する

キーワード:さえずり学習,歌制御系,FOXP2

●濱尾章二:さえずりの機能と進化:fertility announcement hypothesisを材料とした考察……68
 鳥のさえずりには,つがい相手の誘引となわばり防衛という機能があり,さえずることによって適応度上での利益が見込まれる一方,時間を消費するなどのコストも付随する.採食や配偶者防衛のような他の行動に割り当てる時間を犠牲にしてさえずることには,どのような機能的な解釈が可能なのか,fertility announcement hypothesisを材料に考察する.繁殖ステージの進行に伴うさえずり行動の変化は鳥種によって多様であり,社会的要因や生息場所の生態的要因が関わっていると考えられる。

キーワード : 鳥のさえずり,行動生態学,利益,コスト,fertility announcement hypothesis

●高橋美樹、西川淳、岡ノ谷一夫:鳥のさえずりとヒトの言語:共通性の生物学的基盤……77
 鳥のさえずりは,人々になじみ深いものであり,音声学習というヒトの言語との共通点を持つ.音声学習とは,社会環境と遺伝環境の中で学習が方向付けられ,それに従い発声練習を重ねていく過程である.これまで鳥とヒトで報告されてきた生得性と社会性の影響に加え,鳥の発声練習における神経メカニズムと学習モデルの研究を紹介する.学習の神経メカニズムの知見は,ヒトの言語獲得の理解に重要な役割を果たすであろう。

キーワード 音声学習,生得的制約,社会性,歌制御系,誤差修正

●藤田耕司:生成文法とヒト(およびトリ)における回帰的能力……85
 生成文法の知見では,言語の起源は,狭義言語機構(FLN)である回帰的シンタクスによって,広義言語機構(FLB)が連結し,インターフェイスを確立したことに集約される.言語の創造性を保証するのがこの回帰性であり,これのみが,ヒトおよび人間言語に固有の部分であるとされる.最近,ムクドリに回帰的埋め込み構造を認知・学習する能力があるという報告がなされ,言語の起源・進化の研究上,注目されている.言語の回帰性とは何かを生成文法の立場から解説し,この実験報告を批判的に検討する。

キーワード ミニマリスト・プログラム,回帰,狭義言語機構(FLN),併合,モジュール,外適応,言語の起源・進化

●藤原宏子:さえずり学習の系統発生:鳥脳の進化……95
 鳥類の一部(オウム目,スズメ目鳴禽類,ハチドリ目)のオスは学習によってさえずりを発達させる.これらの鳥の大脳には,互いに良く似た構造が発達している.この脳構造は音声学習をしない鳥にはみられないので,音声学習の神経基盤であると考えられている.鳥類の中で,3つの分類グループだけがどのようにして音声学習能力を獲得したのか.本稿ではさえずり学習の,それを可能にする脳の系統発生について考察する.さらに,ヒトの言語遺伝子として知られるFOXP2の鳥類ホモログとさえずり学習との関係を検討する。

キーワード:さえずり学習,歌制御系,FOXP2

●佐藤亮平:鳥のさえずりと神経細胞……101
 鳥のさえずりと神経細胞の新生に関する研究は,Cajalの100年来の呪縛を解く大発見となり,ヒト脳疾患に対する再生医療の扉を開くきっかけになった.また,鳥の聴知覚と転写因子に関する研究も分子神経行動学と呼ばれる神経科学の新しい潮流の端緒となった.「さえずり聴知覚」の研究は,神経科学の大きな謎の1つである「脳の情報表現」の問題と密接な関連性をもち,関心を呼び起こしている.本稿では,これらの「鳥のさえずりの研究」が,いかに神経科学に貢献してきたかを概説した.さらに,現代の神経科学研究の主柱になっている「要素還元的分析手法」の適用限界を検証し,近年注目を浴びている「複雑ネットワーク」の考え方や手法などを積極的に取り入れ,「要素還元的分析手法」の弱点を補完することによって,統合的な研究の枠組みを築いていくことが,将来の神経科学の発展には必要であることを提唱した。

キーワード:鳥のさえずりの研究,神経細胞新生,さえずり聴知覚,脳の情報表現,階層構造,要素還元的分析手法,複雑ネットワーク,神経科学研究の枠組み

●坂口博信:さえずり学習の脳内分子基盤―小鳥のさえずり学習能を分子で調べる―……110
 鳴禽類スズメ目の小鳥達は,われわれヒト以外に,音声学習能力を持つ数少ない動物種である.近年の分子生物学,神経科学の技術の急速な進歩,ヒトのことばや音楽と多くの類似点をもつ小鳥のさえずりについて,細胞レベル,分子レベルでの研究を可能にし,分子神経行動学という新しい領域の中での,さえずり学習の脳内機構の解明が行われようとしている.筆者は,この流れの中で,いくつかの分子マーカーと出会い,キンカチョウのさえずり学習能を調べてきた.さえずり学習時の小鳥の脳内に何が起こっているか,筆者の研究の足跡をたどりながら,行動学に始まり,神経行動学,分子神経行動学へと向かうこの分野の発展を紹介する。

キーワード:小鳥,さえずり学習,臨界期,可塑性,プロテインキナーゼC

●馬場稔:報道取材と野生生物および研究者の関係……120
 研究内容を一般にもわかりやすく紹介することは,研究者の責務の一つと考えられている.その意味で,野生生物の野外調査において報道関係者からの取材や撮影に協力することも必要で,有効な手段でもある.しかし,取材方法が不適切であった場合,対象生物のみならず,研究内容にまで障害を及ぼす可能性がある.対象生物への影響を最小限にするとともに,取材者と研究者相互に不利益が生じないよう調整する努力が必要である。

キーワード:マレーヒヨケザル,インドネシア,ジャワ,ココヤシ農園,取材による影響

●書評……126
『チョウの生物学』
『魚類寄生虫学』
『遺伝子の窓から見た動物たち』


English_conents

Special feature : Behavioral biology of birdsong

Ishida Ken : Bird songs and fork songs(65)

Eda-Fujiwara Hiroko : Introductionz(66)
Hamao Shoji : Function and evolution of birdsong : a critical reevaluation of fertility announcement hypothesis(68)
Takahasi Miki, Nishikawa Jun and Okanoya Kazuo : Biological comparisons of birdsong and human language(77)
Fujita Koji : Generative grammar and the recursive capacity in humans (and birds)(85)
Eda-Fujiwara Hiroko : Phylogeny of birdsong learning : evolution of bird brain(95)
Satoh Ryohei : Birdsong in neuroscience(101)
Sakaguchi Hironobu : The molecular basis of song learning in the bird brain : molecular markers enable us to understand neural mechanisms for song learning(110)
Baba Minoru : For the better relationship between filming activity and wildlife and/or wildlife study(120)
Book reviews(126)


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