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生物科学
Volume 59,No.3 2008

Apr.

目次

特集:希少樹種の現状と保全

●巻頭言:効率の追求と多様性の尊重(梅木清)……129

●金指あや子:日本における希少樹種の現状……130
 日本において,絶滅が危惧される木本植物の主な減少要因は,森林伐採と各種の土地開発,不法採取などである.とくに,直接的な生息地や更新サイトの消失・減少に加え,集団の分断・孤立化に伴って個体密度が低下するため,他家受粉の機会が減少し種子の生産性が低下する.さらに,近年の更新サイトの環境変化も更新不良をうながす.限られた地域に分布する希少樹種にとっては,これらの要因は絶滅の危機への悪循環をもたらす。

キーワード:希少樹種,絶滅危惧種,生物多様性,保全

●八坂通泰・脇田陽一・小久保亮・佐藤孝夫:北海道におけるクロミサンザシの生育実態と保全の取り組み……135
 クロミサンザシは,北海道,長野県,中国東北部,サハリンに分布するバラ科サンザシ属の落葉中高木で主に湿地や河畔に生育する.個体数減少の主な原因は生育場所の開発とされているが,その生育環境,繁殖特性などの詳細は不明である.クロミサンザシの保全対策を効果的に実施するために,北海道での生育実態や繁殖特性などを調査した.文献情報によると,クロミサンザシは北海道内に広く分布しているが,道央,道北,道東の15個体群において生育状況を調査した結果,個体群当たりの繁殖可能個体数は10個体未満の場所が多かった.各個体群の生育環境は,地形が平坦で土壌水分環境が比較的湿潤であった.種子生産は,花粉媒介昆虫や種子害虫の影響を受け,個体密度の低い個体群では健全な種子生産が行われていない場合もあった.果実は鳥により採餌され,種子分散は距離とともに減少する傾向があった.これらクロミサンザシの生育実態や繁殖特性を考慮した保全策について検討すると共に,北海道におけるクロミサンザシなど絶滅のおそれのある樹木の保全の取り組みについて紹介する。

●永光輝義:雑種に起源する固有種:アポイカンバと北海道アポイ岳の高山植生の衰退……143
  アポイカンバは,北海道アポイ岳に固有の矮性カバノキの4倍体種である.核DNAの塩基配列から,本種は,ダケカンバと北海道の2か所の湿原だけに分布するヤチカンバとの雑種に起源すると考えられる.アポイカンバが生育する山頂付近にはダケカンバも生育し,両種間の生殖隔離は完全ではない.また,アポイカンバの種子の充実率と発芽率は近傍の同種他個体数の減少とともに低下した.近年,アポイ岳の高山植生が森林へ遷移しつつあり,ダケカンバの個体数の増加による種間交雑率の上昇と,アポイカンバの個体数と生育面積の減少による種子生産数と実生更新数の低下が危惧される。

●勝木俊雄・逢沢峰昭・杉田久志・吉丸博志:本州・四国・九州におけるトウヒ属樹木Picea spp.の分布の現状と保全……149
 本州・四国・九州にはマツ科トウヒ属の樹木が6種分布する.このうち絶滅危惧種に指定されているヤツガタケトウヒとヒメバラモミ,及び本州に唯一残された早池峰山のアカエゾマツは極めて個体数が少なく,保全を目的とした詳細な分布状態や遺伝的多様性・更新環境などの研究が進みつつある.また,トウヒ・ハリモミ・イラモミも衰退しつつあり,山中湖のハリモミや大台ヶ原のトウヒのように集団を保全するための取り組みが始められている.

キーワード:トウヒ属,絶滅危惧種,保全

●谷尚樹・吉丸博志・河原孝行・星善男・延島冬生・安井隆弥:小笠原諸島における絶滅危惧種オガサワラグワMorus boninensis Koidz.の保全遺伝学と保全計画の立案……157
 オガサワラグワは戦前の入植時に多くが伐採され,現在ではその個体数は約170本以下であり,実生更新も確認されず絶滅の危機に瀕している.また,移入種であるシマグワとの交雑という問題もあり,母島における増殖計画において弟島産の実生が使用されるなど,その遺伝的な背景は増殖計画に考慮されてこなかった.そこで,シマグワとの雑種形成の実態を明らかにするとともに,遺伝マーカーを用いてオガサワラグワのほぼ全成木の遺伝子型を明らかにし,遺伝的観点から見たオガサワラグワの保全ユニットを明らかにした.今後は,このユニット毎にオガサワラグワの生態的・遺伝的状態,周辺の環境などを考慮しつつ保全計画を立案し,実行していくことが望まれる.

キーワード:オガサワラグワ,絶滅危惧種,保全遺伝学,遺伝構造

●河野昭一:日本における植物遺存種について……164

●伊藤嘉昭:周期ゼミ研究の最近の活発化―最新の研究紹介と望まれる今後の研究課題いくつか―……166
  周期ゼミ(17年ゼミと13年ゼミ)の研究が2000年代に入ってとても活発になってきた.そのなかで新種1種が記載され,両型の総種数は7種となった.またその過程で(a)13年型が先に生じ,それから生活史4年の延長で17年型がわかれ,さらに4年の短縮で他の13年型が生じたらしいこと,(b)最初の13年型は生活史9年(昆虫で知られた最長の生活史)のセミから1回の4年増加で生じた可能性があること,(c)60年代から言われていたことだが,天敵からのエスケープ(限られた年だけの超大発生のため捕食の圧力からのがれてしまうこと)こそ各型の全種の同時大発生の主要因であろうこと,(d)アメリカ産の大型の非周期のセミに比して周期ゼミは体サイズの割合に飛ぶ速度がおそく,これが捕食による死亡がわずかなためであろうこと,などが推測されるようになった.今後やってほしい問題として,(1)日本の小型のセミの飛翔の研究が欲しいこと,(2)なぜアジアで生活史9年のアカエゾゼミなどから周期ゼミが生じなかったかの検討,(3)上のaは種名にdecimのつくグループでやられただけだが,他のグループ(cassiniとつく2種とdeculaのつく2種)でもあてはまるか否かの検討,(4)吉村説(Yoshimura 1997)の再検討などをあげた。

キーワード:周期ゼミ,17年ゼミ,生活史進化,超大発生,エスケープ

●立田晴記・吉尾政信・浅田正彦・落合啓二・宮下直:景観遺伝学的解析に基づく野生生物集団における遺伝的不連続性の検出手法……174
  個体が持つ固有の遺伝子型情報に基づく集団遺伝学的解析と個体の地理的分布情報を合わせて解析することで,野生生物の遺伝的不連続性を検出する景観遺伝学という分野が近年誕生した.この解析手法を利用することにより遺伝的に固有な個体の空間上の位置を容易に確認できることから,個体の生息域に存在する景観構造との関係を効果的に探ることができる.ここでは景観遺伝学で取り扱われる遺伝マーカーおよび解析手法について解説すると共に,房総半島において近年急速に個体数および分布を拡大させているニホンジカ個体群に対して景観遺伝学的解析をおこなった実例を紹介する.

キーワード:景観遺伝学,ニホンジカ,ミトコンドリアDNA, D - loop

●エッセイ:矢島道子:日本に創造説が?……182

●書評
『図説 快楽植物大全』
『農業と雑草の生態学』
『森林の生態学 長期大規模研究からみえるもの』
『幹細胞の謎を解く』
『ウィルト発生生物学』
『トンボ博物学 行動と生態の多様性』
『図説 哺乳動物百科 1』
『蘇るコウノトリ』


English_conents

Special feature : Conservation of rare tree species in Japan

Umeki Kiyoshi:Introduction (129)
Kanazashi Ayako : The present status of rare tree species in Japan(130)
Yasaka Michiyasu, Wakita Yoichi, Kokubo Akira & Sato Takao :The ecology and conservation of the endangered tree, Crataegus chlorosarca Maxim. in Hokkaido, Northern Japan(135)
Nagamitsu Teruyoshi : An endemic species originating from hybridization : Betula apoiensis and deterioration of alpine vegetation on Mt. Apoi in Hokkaido(143)
Katsuki Toshio, Aizawa Mineaki, Sugita Hisashi & Yoshimaru Hiroshi : The present distribution and conservation of spruces(Picea spp.)in Honshu, Shikoku and Kyushu, Japan(149)
Tani Naoki, Yoshimaru Hiroshi, Kawahara Takayuki, Hoshi Yoshio, Nobushima Fuyuo & Yasui Takaya : Conservation genetics for endangered plant species Morus boninensis in Bonin Islands and establishment of its conservation plan(157)
Kawano Shoichi : Relic plant species in Japan(164)
Ito Yosiaki : Recent activation in studies on periodical cicadas : Review of new papers and suggestion of desirable subjects for further research(166)
Tatsuta Haruki, Yoshio Masanobu, Asada Masahiko, Ochiai Keiji & Miyashita Tadashi:Detection of genetic discontinuity in wildlife animals based on landscape genetic tools(174)
Yajima Michiko:Creationism in Japan?(182)
Book reviews(184)


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