現代農業 特別号
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現代農業特別号
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Part2 施肥・土つくり・防除

収穫後の元肥施用で連作障害なし

微生物の回転を整えてダイコン連作30年

■編集部

作物への肥料ではなく、畑の微生物の移り変わり、季節変化をイメージした新しい施肥の着想が生まれた。季節のリズムにあわせて作物も微生物も変化し育っていた伝統的農法のしくみを現代に生かす農家の鋭い観察眼に注目。
●1985年(昭和60年)12月号260頁 原題「意外 連作障害を防ぐ民間技術 収穫後の元肥施用でダイコン連作30年」

有機質肥料を収穫終了後に施す
――連作障害に悩まずだんだんつくりよくなる畑

 堆肥も使わなければ土壌消毒もやらない、それでダイコン連作30年、土壌病害もセンチュウ害もなく、良品多収を続けている。その工夫は肥料のやり方ひとつ。それは「元肥はダイコンの収穫終了後に施す」というもの。

 その肥料のやり方を実行しているのは、千葉県市川市の田島敏明さん(47歳)。

 地元はいまではすっかり宅地化しているが、もともとは江戸時代から続くダイコンの産地。田島さんの肥料のやり方は、地域に伝えられてきた昔ながらの肥料のやり方に、少しだけ工夫をくわえたものだという。

 そのやり方とは―作付け前にはほんの少しの化成肥料を施すだけで、収穫した後に菜種粕や骨粉、米ヌカなどの有機質肥料を施すというもの。

 田島さんは1枚の畑で、1月まきと7月まき、春秋2回のダイコンをつくるので、それぞれの収穫直後、5月と10月に「元肥」を施すことになる。それ以外には、堆肥はもちろん追肥もまったく施していない。

 それをあらわしたのがこの図です。実際には、作付けの前2カ月以上も間を空けて元肥を施すということなのだが、まるで元肥を収穫直後に施しているようにみえる。

 このやり方で田島さんは、30年間ダイコンを同じ畑に連作してきた。その間、土壌病害や生理障害、センチュウ害がまったく出なかったとはいえないが、畑は毎年だんだんつくりやすくなっているような感じがし、今年春の青首ダイコンも、反当500箱(5t)を出荷することができた。

収穫後施用雨が微生物の回転を整える

 田島さんのように同じ野菜の連作を30年も続ければ、誰でも気になるのは、土壌病害などの連作障害、pH、EC、養分バランスの悪化などによる品質、収量の悪化ではないだろうか。

 しかし田島さんは土壌消毒もおこなわず、土壌診断で施肥設計をたてるということもしない。

 というのも、つぎのような土に対する考えがあるからだ。

 「連作障害や養分バランスの悪化に対する対策もだいじだと思うんですが、私がそれよりだいじだと考えているのは、土の中の微生物のバランスです。

 土の中の微生物の世界には、節度というかすじ道のようなものがあって、それをこわさないことのほうがだいじだと思うんです。

 ごく大ざっぱなとらえ方ですが、畑の有機質肥料や残されたダイコンの葉、根は、まずカビによって分解されます。そのカビによる分解が終わってから細菌による分解がすすみ、有機質肥料や残葉、残根の養分がダイコンに吸収されるかたちになります。

 そしてその微生物の回転は、年2回のまとまった雨、6〜7月の梅雨と9〜10月の秋雨のはたらきで促進されると思います。このすじ道をできるだけだいじにする肥料のやり方なら、土壌病害をおこす菌だけが、土の中にはびこることはないと思いますし、有機質肥料は微生物のエサになると同時に、さまざまな微量要素もふくんでいますから、養分バランスの悪化などもさほど気になりません。

 反対に大量の堆肥をいっぺんに入れたり、肥料をまいていきなりタネをまいたりすると、このすじ道がうまくいかなくなり、ダイコンに病気が出たり、葉できでヒゲ根が太く、肝心の根が細いいじけたダイコンができるような気がします」

 以前、千葉県下ではダイコンに黒しんと呼ばれる病気が多発したことがある。外見は何ともないのに、中心部だけが黒く腐っている病気だ。この黒しんについて田島さんは、「未熟な有機物を入れすぎ、土の中で消化不良になって高温と雨とがかさなって急速にカビが発生しておきる病気。堆肥の量と入れる時期のまちがいによって、わざわざカビを敵にまわすようなもの」という。

「収穫後の元肥」は土中ボカシ

 田島さんは以上のような「土の中の微生物の回転をだいじにする」という考えで、5月と10月、ダイコンの収穫終了後の畑に、菜種粕や骨粉、米ヌカなど有機質肥料を全面散布する。

 そして散布した肥料を前作の残葉とともに10〜15cmの深さにうない込んでおくと、2〜3日から1週間後に土の中の肥料や残葉の層にまっ白いカビが生えてくる。このカビは、ボカシ肥に生えるカビと同じようなものだという。

 そして、梅雨や秋雨によってカビが細菌へ「1回転」したあと、低度化成(8―8―8)20kgから40kgを前作のできぐあいをみながら加減して施し、もう一度ロータリー耕をかけてタネをまく。

 じつは、この田島さんのやり方は、「灰肥」という肥料のやり方にヒントを得たものだ。

 灰肥とは、江戸時代から戦時中まで、地元に続いていたダイコンの肥料のやり方で、カマドの灰のような草木灰と米ヌカ、人糞尿をまぜあわせて発酵させて施す肥料のことである。

 この灰肥も、発酵のはじめのころは内部に白いカビがはびこっているが、施すときにはその白いカビが消えてポロポロの粒状になっていた。田島さんのいうカビから細菌への回転を、施す前にすませておく肥料のやり方である。この灰肥、千葉などのやせた火山灰土壌でも非常に大きな効果があったという。

 田島さんは、その灰肥の原理を生かし、土中で有機質肥料を発酵させるやり方を工夫したのである。


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