現代農業 特別号
21世紀に引き継ぐ農業の技術 自給の知恵

現代農業特別号
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Part5 暮らしいきいき 自給の知恵

伝統の秘法

うまいドブロクと焼酎の極意

■編集部
ドブロクは、どんな素人にもつくれる。一級酒の味を望みさえしなければ、蒸し米にコウジと水を加えておくだけでよい。それ以上の味を望む方には、その極意をお教えしましょう。ドブロクから焼酎までの全技術公開!
●1979年(昭和54年)8月号76頁 原題「伝統の秘法 うまいドブロクと焼酎の極意」

絶対安心なうす味ドブロク

 このうす味のドブロクは実に傑作です。これは、終戦直後の食糧事情が悪く、酒もなかなか手に入らない時代に、ある酒好きな人が発明した製法です。いくら酒好きな人でも、四六時中酒びたりでは酒のうまさもわからなくなるし、体もこわしてしまう。そんなときは、このうす味のドブロクならお茶がわりに飲めるし、酒仙生活を満足させてくれるというのだから、発明者は相当の酒好きです。それに、アルコールが1%以下だから、酒税法には絶対ふれず、公然とつくれるというものです。

 当時のそのつくり方を再現すると、1人1日2合の配給米を2つに分ける。1合はご飯として、昼飯に5勺、夕飯に5勺食べる。そして、残りの1合の米から5合のドブロクをつくり、昼に2合、夜に3合飲む。朝食はというと、そこは酒飲みのこと、番茶と漬け物でがまんするわけです。当時の食糧事情を考えると、実に涙ぐましくも、愉快な酒の飲み方です。

 まず1合の米を蒸し、冷めてきたらコウジ2勺(盃2〜3杯)を混ぜます。それをカメなどに入れ、熱湯を冷ました水4合5勺(1合5勺だと本格的ドブロク)を加えて仕込みます。蒸し米とコウジが水の中にふらふら浮いているという感じです。3〜4日もすれば、うす味のドブロクができているという寸法。

 1合ずつ蒸すのは大変だから、便法として、食事のときに炊いたご飯1合とコウジ2〜3勺をまぜ、4号5勺の水を加える、これに毎日ご飯とコウジと水を追加し、追加した分だけ飲みほしていくという方法が便利だということです。

3つのモトづくり

 うす味のドブロクではもの足りないという人のために、ドブロク王国秋田の老農から聞いたつくり方を紹介しましょう。

 その前に、酒つくりの原則を頭にたたき込んでおいてください。澱粉にコウジ菌を加えると、分解されて糖ができます。この糖に酵母菌を働かせると、発酵してアルコールができるのです。要するに酒つくりとは、コウジ菌と酵母菌の共同作業なのです。

 さて、ドブロクつくりは、まずモト(酒母)つくりから始まります。モトとはまさに酒の素で、酵母菌の培養液です。

 秋田県のAさんから聞いたところによると、モトにはくされモト花モトイーストの3つがあります。

 8升のドブロクを仕込むAさんのやり方を紹介すると、材料はうるち米3升、コウジ2升を用意します。

 ▼まず、くされモトのつくり方ですが、米3升を桶に入れ、水3升を加えて3日ほどうるかします。そのとき、茶碗で2杯ほどの残りご飯をきれいな布袋に入れて、一緒に浸けておきます。1日1回ほどかきまわし、布袋をもみしごきます。3日もすると、少し酒のにおいがしてきます。

 この酒のにおいがしてきた水が、くされモトなのです。空気中にあった酵母菌が、水の中で培養されたわけです。この水は捨てないで取っておき、米をザルに揚げて水を切ります。ご飯は搾って家畜にやるそうです。

 このうるかした米を、今度は少しかために蒸します。蒸し上がったら、ムシロの上に広げ、30〜35度の人肌くらいの温度に冷まします。冷めたら2升のコウジを加えて、よくかき混ぜます。

 これを7〜8升ほどの桶に入れ、さきほどのくされモトを加え、新聞紙でフタをしてゴミなどが入らないようにします。

 3日目くらいから湧き始めるので、かき回して水かげんを見ます。水が米の上に上がらないていどがよく、水が多すぎると早湧きして早く酸っぱくなってしまいます。10日もすれば、ドブロクが完成しています。

 ▼花モトは、山に生えている野生のホップを利用します。秋のキノコがとれるころにホップを摘んできて、カサカサに乾燥させておいて、必要に応じて使うわけです。

 まず、湯呑み茶碗1杯におし込んだ分量のホップを、5合の水でよく煮ます。これを人肌に冷ましたら、蒸した米とコウジをそれぞれ湯呑み茶碗1杯ずつ加え、全部で1升になるように水を足す。これを3〜4日保温(25度以上)すれば、花モトが1升分でき上がります。

 ▼イーストをモトとして使う場合は、米2升をよくふかして、人肌に冷まします。それにコウジ1升をよく混ぜ、イーストを5〜10g加えて容器に入れ、水を足します。水の分量は、かき混ぜたとき、手が重く感じない程度ということです。暖かいときなら1週間くらいで発酵して、飲めるようになるそうです。

酸っぱくさせないコツ

 ドブロクつくりでは、酸っぱくなって失敗したということがよくある。これは、雑菌が繁殖したからです。雑菌の繁殖をおさえれば、甘いドブロクができるわけです。そのコツは前述のようにモトつくりの温度にあります。

 コウジ菌が澱粉を糖化する適温は約50度、酵母菌の繁殖適温は25〜26度です。この温度では雑菌もよく繁殖するので、雑菌が混じると酸っぱいドブロクになります。

 乳酸菌には雑菌をおさえる力があるが、酵母菌の活動はおさえません。乳酸菌は4〜5度以下でも生育するが、雑菌は10度以下では繁殖できない。この性質を利用して、寒中に酒を仕込むのが寒づくりなのです。

 寒中に4〜5度以下でモトを仕込むと、まず乳酸菌だけが繁殖し、他の雑菌を殺してしまう。酵母菌は死なないまでも活動が停止しています。温度を徐々に上げていくと、乳酸菌が雑菌の繁殖をおさえる中を、酵母がどんどん繁殖する。モトが完成したときには、乳酸菌は自分のつくった乳酸で死滅してしまいます。

 このモトをつかって、低温で本仕込みをし、徐々に温度を上げていけば、甘味のあるドブロクができます。

 酸っぱいドブロクができた場合、酸味を消す方法もあります。コップ1杯ほどのドブロクに、茶サジ半杯の重ソウを入れると、シューッという音とともに酸味が消えます。欠点は、ドブロクのうま味も消えて、飲みすぎると頭が痛くなることです。

 ドブロクにトウフを1〜2丁入れると、酸味を吸収するという人もいます。

 また、モチ米を蒸して、潰さずに丸めてドブロクの中に入れると、甘味が出てきます。5升のドブロクに5合〜1升のモチ米を、酸味に応じて入れます。

ドブロクから清酒をつくるには

  図のようにドブロクを清酒にする には、容器の上にザルを置き、その上に紙を敷いてドブロク(モロミ)を置きます。一晩もおけば、容器には澄んだ清酒が溜まっています。モロミは、まだ水分があるから、サラシでしぼって、その液をもう一度この方法でろ過します。酒粕は、粕とり焼酎(後述)、粕漬け、味噌汁に使います。

 別な方法としては、サラシでドブロクをしぼります。この段階では小さなカスが入るので白酒になります。これを図のように容器に入れておくと、オリが下に沈みます。これをサイフォンの原理で、上澄液だけをとります。管は、子供のビニールの縄飛びの縄を使うといいでしょう。

イモ酒(イモドブロク)

【材料】サツマイモ、ジャガイモなど、澱粉質のイモ類10貫(37.5kg)

【つくり方】ドブロクで飲むなら、イモの不良箇所を削り取り、皮をむきます。焼酎をつくることを目的にするなら不要です。ジャガイモのドブロクの場合は、仕込みのときに砂糖を1割弱入れないと、糖分が少ないのでうまく発酵しません。また、半切りにした生のジャガイモを、灰汁に入れてアクを抜くと風味がよくなります。

 まず最初は、3貫目のイモの皮をむき、サイの目に切ります。量が多いときは細断だけでよろしい。これをサッと蒸しますが、びしょびしょにしないこと(蒸すときの原則)。芯が少し残るくらいです。

 蒸し終わったら容器に入れ、5升の水を入れます(水が温湯になる)。そこへコウジ2升を加えてかき回し、10度以下の室温で3日間そのままにしておくと、発酵してきます。寒いときほどうまくいくので、冬にやるとよいでしょう。これで乳酸のはたらく酒母(モト)が1斗できたわけです。

 3日後に残りのイモ7貫を同じように蒸し、それを容器に入れて、酒母1斗を加え、さらにコウジ3升、水適量を加え、かき回して静置しておきます。冬なら室温で7日くらいで発酵し、飲めるようになります。

 焼酎が目的で風味をかまわないなら、20日ほど発酵させると、アルコールが多くとれます。イモ10貫だと20度の焼酎が4〜7升ほどです。

 ジャガイモのように澱粉は多くても糖分の少ないものは、砂糖を入れると発酵がスムーズに進みます。酒つくりのコツは、ネコにはネズミ、赤子にはお乳、酒には砂糖と憶えてください。

 コウジを加えても、どうしてもうまく発酵しないときは、最後の手段としてイーストを加えてください。食料品店に行けば、パンつくり用のドライイースト(缶詰100g入り300円ほど)が手に入ります。

ムギドブロク

【材料】オオムギ(コムギでもよい)1升、コウジ4合、水1升5合

【つくり方】まず、ムギをフライパンではぜるていどに炒る。炒るかわりに蒸してもいい。この場合は少しかた目にさっと蒸さないと、発酵力が落ちます(蒸す場合の原則)。

 これにコウジと水を混ぜて仕込む。割合は、材料が1升なら、水も1升と憶えておけば、だいたいの材料で応用できます。1〜2週間もすれば、発酵して飲めるようになる。このままでは濃すぎて飲みにくい人は、水で割るのもいいし、前記の図の方法で清酒にするのもいいでしょう。

アワ、ヒエなどのドブロク

 何度も述べるように、澱粉を含む材料ならなんでも酒になるのです。アワでもヒエでもモロコシでもいい。その3〜4割のコウジを加え、材料全体(コウジも含めて)と同量の水を加えて発酵をまてばよいのです。

 米のドブロクつくりのように、モトをつくればいちばんいいが、材料とコウジと水で仕込んで静置しておくだけでも発酵します。しかし、モトを使う場合よりも多少は発酵に時間がかかり、アルコールの度も低くなります。

 発酵までの時間は、温度の高い季節ほど早いが、雑菌が入って酸っぱくなりやすい。モトを使わない場合は、寒仕込みで10度前後で徐々に発酵させるのが、いちばん成功率が高くなります。

焼酎のつくり方と蒸留装置

 さて、焼酎のつくり方ですが、酒やドブロクを熱してアルコールを蒸発させ、その蒸気を冷やして液体にすれば焼酎ができるわけで、原理は簡単です。問題は、蒸留装置をどうするかということです。でも、効率をそれほど問題にしなければ、身近な道具でつくれそうです。では、早速とりかかりましょう。

 少し本格的にやろうと思えば、図の(1)ような装置をつくることです。これは沖縄の泡盛焼酎の蒸留装置で、効率もいいようです。カマドの上に大ナベをのせ、酒やドブロクを入れます。その上に底を抜いたタルをのせます。このタルの胴には竹筒がさし込まれ、先端に漏斗をとりつけてあります。このタルの上に、さらに水を入れたナベをのせます。

 カマドで酒を熱すれば、アルコールが蒸発し、上のナベで冷やされて液体になり、雫が漏斗に落ちて、竹筒を通って外のカメに溜るという仕組みです。

 これを応用したのが、図の(2)の蒸し器の蒸留装置です。これだと、蒸留されたアルコールが器に溜まりますが、蒸し器の中にあるので、溜ったものの一部が再び気化するという循環をくり返し、ちょっと効率が悪いようです。

 そこで、図の(3)のようにヤカンを利用してはどうでしょうか。ブランデーなどの蒸留装置と同じ原理です。少量なら、これでうまくいきそうです。

 これらの蒸留装置で注意することは、スキ間をふさぐことです。スキ間があると、せっかく蒸気になったアルコールが逃げてしまいます。短時間の蒸留なら、セロテープで目張りしてもいいでしょう。

 焼酎は、その原料から、粕とり焼酎、酒とり焼酎、イモ焼酎の3つに分かれます。

 粕とり焼酎は、蒸し器に水を入れて、スノコの上に新鮮な酒粕を置き、図の(2)のようにすればできます。もっと効率よく焼酎をつくるには、酒粕をいったん桶に入れ、約2割の水を加えて目張りしておき、2〜3カ月貯蔵してから蒸留するのがよいでしょう。酒粕の中には7〜10%のアルコールのほかに糖分や澱粉や酵母が含まれているので、さらに再発酵させると蒸留歩合が高くなります。

 酒とり焼酎は、米の酒から蒸留したものです。昔は“密造”ということで税務署にとり上げられた農家のドブロクが、これに使われたようです。ドブロクが失敗したら、捨てないで酒とり焼酎をつくることです。

 イモ焼酎は、イモドブロクからつくったものです。農家なら、いろんな材料があるのですから、カボチャ焼酎とか、サトイモ焼酎とか、わが家特製の焼酎が楽しめるはずです。


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