日本生物科学者協会編集 農文協発売
生物 科学
 
バックナンバー
本書のねらい
投稿の手引き
編集委員
購入申込
定期購読申込
農文協のトップへ
 
生物科学
Volume 60,No.2 2009

Feb.

目次

特集:野生動物との共生 イノシシ被害を考える

巻頭言:生物学における分子情報とマクロ情報の統合(鈴木邦雄)……65

イノシシ被害とは何か(江口和洋)……66
 鳥獣類による森林や農作地への被害増加が問題となっている.2006年度(平成18年度)の全国の鳥獣による農作物被害は,被害金額が196億円,被害面積が106,000ha,被害量が401,000tと報告されている(農水省鳥獣被害対策コーナーウェブサイト参照).このうち,イノシシ,シカ,ニホンザルが被害額の9割を占め,特に本州以南ではイノシシによる被害が大半を占める(図1).これまで各自治体では主に捕獲と防御柵設置による被害防除の努力がなされてきた.捕獲個体数は1982年(昭和57年)の有害鳥獣駆除での8,913頭,狩猟による捕獲48,553頭から,2003年(平成15年)までの21年間で有害鳥獣駆除75,786頭,狩猟捕獲133,879頭と全体で3.6倍に増えている(中国四国農政局2006).しかし,被害額はこの10年近くは高止まりで推移しており,被害が減少する兆しはない(図1).被害が生じる農作物はイネをはじめとした穀類,サツマイモなどの根菜類,キャベツなどの葉菜類,トマトなど果菜類など多岐にわたり,また,タケノコの被害も大きい.被害をさらに大きくしているのは,水田中でのヌタ打ちによるイネの押し倒しやイモ類の掘り起こしである.

高橋春成:イノシシ被害対策の歴史(シシ垣)とGPSテレメトリーからみた近年の被害地におけるイノシシの動向……69
 イノシシは農作物を摂食する雑食性の動物で,かつスカベンジャー的な行動特性をもつ.そのため,イノシシの生息地周辺では農業被害が生じやすい.伝統的な被害防除方法であるシシ垣は,「里地」・「里山」・「奥山」といった圏構造が明瞭であった時代は前2者の間を物理的に画し,イノシシの侵入を阻止する有効な手段であった.近年は,耕作放棄地,放置竹林などの拡大により里地と里山が一体化し,その中でイノシシの侵入を受け,里地での農業被害が多発している.

キーワード:イノシシ,農業被害,シシ垣,圏構造,GPSテレメトリー

作野広和:中山間地域における集落の実態とイノシシ被害……78
 本研究は中山間地域を中心としたイノシシ被害に関して,集落の実態や集落属性との関係から社会科学的な解明を試みたものである.研究の結果,中山間地域集落では圃場整備の未実施地区や防護柵設置が不徹底な地区において被害が多発していることが明らかになった.また,過疎・高齢化が進行したことにより営農意欲が低下し,耕作放棄地が発生したことがイノシシ被害を誘発させていることも明らかになった.一方,過疎・高齢化が一層進展している山間地域においてはイノシシ被害の発生が減少していることが判明した.

キーワード:中山間地域,集落,イノシシ被害,耕作放棄地,島根県

佐藤宣子:中山間地域における農林業構造の変容と資源管理
〜九州の森林問題を中心として〜
……89
 本稿は,人間と野生動物との関係を議論するための前段作業として,中山間地域の農林業構造の変容を歴史的,地域的に概観し,九州を事例に地域資源の管理実態を紹介した.1960年代の高度経済成長期,1985年以降の円高,2000年代の新自由主義的な構造改革の三つのターニングポイントを経て,地域の空洞化が進行している.九州では手入れ不足による農林地の荒廃と同時に,低コスト化を目指す無秩序な林業生産によって野生動物の棲息環境の変化が予想される.

キーワード:中山間地域,森林・林業,高齢化,「限界集落」,再造林放棄

小寺祐二:イノシシ Sus scrofa による農作物被害への対策とその課題……94
 野生動物による農作物被害は,「同所条件」と「競争条件」の2つの必要条件が成立しないと発生しない.被害対策とは,これらの条件が成立しない状況を作り出すことである.本稿では,その方法について整理した上で,イノシシの生態学的特徴を考慮した被害対策を紹介した.さらに,同種による農作物被害に係わる社会的な仕組みとその問題点について解説し,その中で研究者が担うべき役割について意見を論じている.

キーワード:イノシシ,農作物被害対策,議会,自治体

仲谷淳:獣害対策の現状と今後の研究の方向性……99
 野生動物による農業被害が大きな問題となり,効果的な獣害対策のための研究が緊急課題となっている.最近では,加害獣の生態特性をふまえた柵や追い上げなど,現場に直結する実用的な技術開発が進んでいる.今後の獣害対策の推進方向としては,農山村の将来像を視野に入れた獣害対策の計画と実施など,人間の諸活動を扱う社会科学的アプローチの研究が重要となる.また,その後の実用的な技術開発をさらに発展させるためには,現段階でそれを支える基礎研究にも配慮することが大切である.

キーワード 獣害研究,野生動物,イノシシ,農業被害

森幸也:千代島雅著「温暖化のウソと真実」の議論を踏まえた,地球温暖化をめぐる5つの論点……105
 この書評は,上記の著作 晃洋書房,2008年2月出版,185p.ISBN:9784771019256,¥2,100(本体価格)に基づく地球温暖化をめぐる5つの論点を,紹介・検討したものである.
5つの論点とは,地球温暖化の〈事実〉問題,〈要因論〉,CO2温暖化説と未来予測の〈根拠〉,温暖化が進行した場合の〈メリット・デメリット〉,温暖化抑止〈対策〉,である.この著作の最大の功績は,地球温暖化をめぐる重要な論点が明確に区分け整理され,さらに個別的論点が網羅的に提示されている点にある.

キーワード:地球温暖化,要因論,根拠,メリット・デメリット,対策

山崎一夫:竜田姫はだれなのか? ―紅葉の適応的意義に関する仮説―……113
 近年,紅葉の適応的意義を説明しようとする仮説がさかんに提唱されている.W.D.ハミルトン博士らはその先駆けであり,彼らは紅葉の色彩は樹木がアブラムシなどの植食性昆虫に対し防御の強さを知らせる信号として機能するという共進化仮説を提唱した.本稿では今までに考案されている仮説を概観したうえで,著者が考えた一仮説を紹介する.この仮説では,紅葉は秋季に木の質的条件の良好さを好蟻性のスペシャリストアブラムシに知らせる信号として働き,次いでそのアブラムシに誘引されたアリが翌春に木を他のアブラムシや植食者から保護するのではないかと考える.紅葉は好蟻性スペシャリストアブラムシとアリを誘引し,樹木の被食とアブラムシ種間の競争を減少させる点で適応的な意味を持つ可能性がある.紅葉の意義を説明する理論はまだ未発達な状態にあり,複数の要因が関与している可能性が高く,私たちのイマジネーションを刺激する.

キーワード:アリーアブラムシ相互作用,共進化仮説,好蟻性アブラムシ,紅葉,相利共生

書評
『世界遺産をシカが喰う シカと森の生態学』
『オパーリン(人と思想183)』
『干潟の生きもの図鑑』
『熱帯雨林の自然史―東南アジアのフィールドから』
『日本の哺乳類学(全3巻)』
『共生という生き方 微生物がもたらす進化の潮流』
『東アジアモンスーン域の湖沼と流域―水源環境保全のために―』
『鳥学大全』
『自然再生のための生物多様性モニタリング』


English_conents

Suzuki Kunio : lntegration of molecular and macro - information in biology(65)
Special feature : Co-existence with wildlife: crop damage by wild boars
 Eguchi Kazuhiro : Crop damage by wild boars(66)
 Takahashi Shunjo : Traditional defence (Shishi-gaki) for wild boar damage on agricultural crops and wild boar’s habitat analysis using GPS telemetry in area damaged(69)
 Sakuno Hirokazu : Study on the relations between the structure of rural settlements and the damages by wild boar on farms in hilly-mountainous region(78)
 Sato Noriko : Changes of Agricultural and Forestry Structure and Resource Management -Focus on Forest issues in Kyushu-(89)
 Kodera Yuuji : Coutermeasure to the agricultural damage by wild boar Sus scrofa and its problem(94)
 Nakatani Jun : Present status of countermeasures for agricultural damage by wild mammals and the future research needed(99)
 Mori Yukiya : A Review of “Ondanka no Uso to Shinjitsu”-Five Points of Argument involving Global Warming-(105)
 Yamazaki Kazuo : Hypotheses explaining adaptive significance of autumn leaf colors(113)

Book reviews(119)


生物科学のトップへ農文協のトップへ

農文協の定期刊行物
農文協のトップへ
月刊 現代農業
季刊地域
別冊 現代農業
季刊 うかたま
隔月 食農教育
月刊 初等理科教育
月刊 技術教室
隔月 保健室
 
関連サイト
ルーラル電子図書館
有料・会員制の電子図書館。食・健康・農業・環境などの情報を検索・表示。
田舎の本屋さん
有料・会員制のインターネット本屋。本探しからお届けまで。会員は送料無料。