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生物科学
Volume 60,No.4 2009

May.

目次

特集:生物哲学から見た進化と系統

巻頭言:科学と技術,ヒトの延長された表現型(石田健)……193

三中信宏:生物学哲学は生物学にとって探照灯たりえるか……194
 20世紀の科学哲学の中で,生物学哲学が確立されるにいたる現代史をふりかえり,生物学にとって生物学哲学がはたす役割とは何かを考察する.

キーワード:生物学哲学,体系学,科学哲学

森元良太:遺伝的浮動と情報理論……197
 遺伝的浮動は非決定論的な現象なのだろうか.この問題に対し,量子現象の非決定性に依拠する肯定的な解答が提示されている.本稿では,その議論を批判的に検討する.そして,浮動モデルが情報理論の手法を用いて導出できることを示し,そのことから,浮動モデルが非決定論の問題に答えられないことを論じる.ただし,この結論は悲観的なものではなく,むしろ浮動モデルの重要な特徴の帰結として理解すべきであることを強調する.

キーワード:遺伝的浮動,情報理論,非決定論,合理性

直海俊一郎:進化群,つまり自然界におけるリアルな種の認識……205
 進化群とは,共通の由来の歴史を共有し,共通の資源をめぐって競争するばかりでなく,有益な突然変異を共有している一団の個体のことである.その進化群,つまり自然界におけるリアルな種の理念についての議論が,近年盛んに行われている.なぜなら,分子データを処理する様々な手法が考案されたことによって,これまでは特定困難であった進化群やその候補が,保全生物学においてESU(「進化的に重要な単位」)として,また系統地理学において系統群として実質的に認識可能となったばかりでなく,実際,数多くの進化群やその候補が,それらの分野の研究においてESU・系統群として同定されてきたからである.本稿では,進化群やその候補が,ESU・系統群として認識・同定できることを紹介するとともに,進化群の認識をめぐる問題点をも指摘する.最後に,進化群リニージが,近未来の生物分類学において,公式名をもつ種として認められるのかどうかについて検討する.

キーワード:種,進化群,系統群,ESU,標徴種,分類の基本単位

中尾央:生物多様性と生物学の哲学……219
 『What is biodiversity?』(Maclaurin & Sterelny,2008)では,様々な側面からの情報を補ってやれば進化的種が一般的代用物として用いられることが論じられている.補われるべき情報として考察されるのは,形態の異質性,可塑性,群集の創発性などである.さらに,これらの情報を補ってやることで異なる種の重み付けも可能であり,多様性の評価に関してはオプション価値が有力だと議論される.上記考察は具体性に欠ける部分が少なくないものの,非常に価値のあるものである.

キーワード:生物多様性,生物学の哲学,生物多様性の代用物,生物多様性の測定

松本俊吉:遺伝子選択説をめぐる概念的問題……225
 本稿で私は,George C. WilliamsやRichard Dawkinsによって,自然選択の単位の問題における一つの有力な立場として人口に膾炙させられてきた遺伝子選択説の妥当性について,生物学の哲学の観点から考察を加える.そのために,Elliott SoberとRichard Lewontinによって遺伝子選択説に対する反例として挙げられた「ヘテロ接合子優越」(超優性)の事例(1982年)を取りあげ,彼らにElisabeth Lloydを加えた遺伝子選択説批判派と,Kim Sterelny, Philip Kitcher, Kenneth Waterといった遺伝子選択説擁護派との間で,この事例をめぐって現在に至るまで繰り広げられている論争を追跡し,評価する.その過程で明らかになったことは,真の問題の在りかは,遺伝子選択モデル自体の有用性とか論理的整合性にではなく,それが自然界で実際に進行している選択過程における因果的相互作用を適切に捉えられているかどうかという点にある,ということである.最終的に私が導く結論は,遺伝子選択説は,Dawkinsが主張しているようなあらゆる選択過程を記述しうる普遍性を有したものではない,というものとなる.

キーワード:遺伝子選択説,ドーキンス,ヘテロ接合子優越,ソーバー,文脈依存性,頻度依存型選択,多元論的遺伝子選択説,階層的一元論

若林香織:ヒトデの異種間交配で生じた幼生と稚ヒトデ
―発生観察とDNA解析―
……240
 棘皮動物の幼生形は,多様性に富み,従来多くの研究者がその進化に興味を持ってきた.最も中心的な存在はウニ類で,様々な発生生物学の分野で貢献している.しかし,幼生形の多様性は,ウニ類以外の棘皮動物においても認められる.本稿では,棘皮動物の発生生物学の歴史を振り返るとともに,他のグループ,特にヒトデ類に関する研究も不可欠であることを主張する.主として私が行ってきた発生様式の異なるモミジガイ属Astropecten 2種のヒトデにおける異種間交配実験の結果を概説し,棘皮動物幼生の進化に関する今後の研究への展望を述べたい.

キーワード:棘皮動物,ヒトデ,発生,幼生形の進化,異種間交配,雑種,DNA解析

書評
『温暖化と生物多様性』
『美ら島の自然史―サンゴ礁島嶼系の生物多様性』
『シカの生態誌』
『鯨類学(東海大学自然科学叢書)』


English_conents

Ishida Ken:Human extended phenotype, science and engineering, Darwin and Galilei in 2009(193)
Special feature : Philosophy of biology
Minaka Nobuhiro : Philosophy of biology for biologists ?(194)
Morimoto Ryota : Genetic drift and information theory(197)
Naomi Shun-Ichiro : Recognition of evolutionary groups, or real species in nature(205)
Nakao Hisashi:Biodiversity and philosophy of biology : review essay of Maclaurin & Sterelny 2008. What is biodiversity? The University of Chicago Press(219)
Matsumoto Shunkichi:Conceptual problems revolving around genic selectionism(225)
Wakabayashi Kaori:Larval development and DNA analysis of juveniles in the interspecific reciprocal cross-fertilizations between two Astropecten species with different modes of development(240)
Book reviews(250)


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