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生物科学
Volume 61,No.2 2010

Feb.

目次

特集:カニの求愛行動と配偶者選択

●巻頭言:男と女の生き方の違い(朝倉彰)……65

●古賀庸憲:特集にあたって……66

●古賀庸憲:捕食回避か配偶闘争か:オスの配偶生存戦略の謎を解く……67
 動物間に見られる闘争は実質的にそのすべてが配偶者か生存に影響する資源を巡るものである.闘争の勝敗を決める要因についての研究は,古くから現在まで資源保持能力に関連したものが大半であったが,最近,資源の価値に関するものが増えてきた.縄張り行動は様々な分類群で見られ,複数の資源が防衛されることもあるが,複数の資源の価値が闘争行動とその勝敗に与える影響については不明である.本稿では多機能な資源である干潟のカニの巣穴を巡る闘争について,現在進行中の研究を紹介する.
キーワード:闘争,資源の価値,動機付け,捕食の脅威,配偶者獲得

●佐藤琢・五嶋聖治:配偶相手の時間的変化を見込んだ賢明なオスの精子配分戦略……76
 保有精子量にかぎりがあるオスは自身の繁殖成功を最大化するため,繁殖期を通して効率よく精子を配分すべきである.オスの繁殖成功は配偶者の数とその質によってきまるため,オスにとっての最適な精子配分パターンは,質の高い配偶者との交尾機会がどの時期に多く期待できるかに影響されるだろう.保有精子量がかぎられているイボトゲガニを用いて調べた結果,質の高いメスとの交接機会の時間的分布は精子配分戦略に大きく影響していることがわかった.
キーワード:精子の有限性,精子配分戦略,射精精子数,精子回復速度,配偶者選択

●松政正俊:性淘汰:求愛コストを実測する……85
 シオマネキ類(Uca属)は潮が引いた干潟で活動する陸棲カニ類の1グループであり,オスの左右いずれかの鋏脚が大型化する.大型鋏脚はメスを誘うダンス(ウェービング)および闘争や威嚇などの攻撃行動に使われ,異性間または同性間,あるいは両方の性淘汰の産物と考えられる.求愛に伴うエネルギーコストが野外で測定された例は極めて少ないが,オキナワハクセンシオマネキにおいては血糖および血中乳酸値の変動による推定が野外でなされ,ウェービングと攻撃行動の両方に相応のコストが伴うことが明らかとなった.
キーワード:エネルギーコスト,視覚的シグナル,装飾と武器,配偶者選択,陸棲カニ類

●Leeann T. Reaney:シオマネキ類のセクシーな世界:Uca mjoebergiにおける配偶者選択,捕食,シグナルの同調性……94
 干潟に生息するカニ類は,社会行動が非常に発達しており,また比較的観察しやすいことから,野外実験に適した動物であるといえる.筆者は,オーストラリアに生息するシオマネキ類の一種Uca mjoebergiにおいて,配偶者選択に関する研究を行ってきた.本稿では,(1)大潮の満潮時に幼生を放出しなければならないという時間的制約が,雌の配偶者選択にどのように影響を与えるか,(2)捕食者回避行動における雄の大胆さは繁殖成功に影響しているか,また,(3)求愛行動である‘waving display’の同調性は,どのような理由で進化してきたのか,という3点について野外実験により検討した一連の研究を紹介する.
キーワード:Uca mjoebergi, 配偶者選択,捕食回避,シグナルの同調性,ロボット実験

●村井実:シオマネキのウエービングで上げるはさみの高さに対する雌選択……105
 交尾相手を探索中のオキナワハクセンシオマネキ雌は求愛ウェービングをする雄にアプローチすると,体サイズ相対的にはさみを高く上げるウェービングをした雄の穴を訪れた.その高さに上げず途中ではさみを下ろした雄に対しては,雌はその穴を訪れないでパスした.ウェービングのスタイルに関する形質で雌選択が起こったが,ウェービングの時間あたり頻度,体サイズ,ディスプレイの長さの諸形質は雌選択で使われなかった.
キーワード:ウェービング,雌選択,ハクセンシオマネキ

●三上修:スズメを日本版レッドリストに掲載すべきか否か……108
 近年,日本においてスズメPasser montanusの数が減少していることがわかってきた.その減少率は高く,ここ20年足らずのうちに,個体数が,低めに見積もっても半分に,高めに見積もると5分の1になったと推定されているほどである.この減少率を根拠に,スズメが日本版鳥類レッドリストに入るかどうかを判断すると,スズメは絶滅危惧IB類または絶滅危惧II類に該当することになる.しかし減少しているとはいえ,スズメは身のまわりでもっともよく見かける鳥種である.実際その個体数は数千万の桁と考えられていて,絶滅が危惧されるとは考えにくい.そのため,レッドリストに掲載すべきかどうかを,減少率だけから判断するのは早計かもしれない.そこで,過去の減少率が将来も持続すると仮定して,スズメの絶滅確率を推定した.結果,100年後の絶滅確率は十分に低く,絶滅確率から判断すれば,絶滅危惧IB類にも,絶滅危惧II類にも該当しないことが明らかになった.
キーワード:普通種,IUCN,レッドリスト,絶滅確率,絶滅リスク

●湯本貴和:日本列島はなぜ生物多様性ホットスポットなのか……117
 Conservation Internationalは,生物多様性が高いにもかかわらず破壊の危機に瀕していて緊急かつ戦略的に保全すべき地域として世界34ヶ所の「生物多様性ホットスポット」を見出した.日本列島でこれまで記載されている生物種数は,維管束植物で5629種(固有種率35%),哺乳類で91種(51%),鳥類で368種(4%),爬虫類で64種(44%),両生類で58種(76%),淡水魚で214種(24%)であり,約3800万haという狭い国土面積にもかかわらず豊かな生物相を有していることから,日本列島地域も生物多様性ホットスポットの一つとなっている.日本列島における生物多様性の危機の構造は3つに分けられ,第1に乱獲や生息地の破壊と悪化などを通じて直接的にもたらされる危機,第2に社会経済などの変化に伴って人間活動が縮小することによって引き起こされる危機,第3に人為的に生態系に持ち込まれた外来生物や化学物質などによる危機であり,加えて近年の地球温暖化の進行は深刻な問題となりつつある.
 日本列島に多様な生物が現在まで残っているのには,3つの要因が考えられる.第1に日本列島は水平的・垂直的な環境の広がりや,数千の島嶼からなり自然環境が多様で豊かである.第2に生物相が形成されるにあたって過去の気候変動と地形形成などの地史が豊かな生物多様性を涵養した.第3に日本列島は生物多様性を脅かす森林の大規模攪乱を古代と中世に経験しながらも,近世においては世界的に見て独自の森林管理を発展させたなど,近代以前の日本における人間―自然相互関係には生物資源を枯渇させないような伝統的な知恵があり,人間が自然を持続的かつ「賢明に」利用してきた.しかし,近年の森林利用のあり方は近代以前とは大きく異なり,これまで人間社会と森林生態系を持続させてきた人間―自然相互関係が大きく変化したと考えられる.生物資源を持続可能に利用するためには人間と自然の関係が重要であるということを議論してきた研究例はあるものの,これらは直感的記述であって生物多様性の危機への対処に必要な分野横断的な取り組みは十分に進展していない.このことは,3つの危機への対処を間違ったものにする可能性がある.日本列島では人間と自然との調和的な関係が長く維持されてきた,という感覚的・思弁的な言説を超えて,証拠をもとに今後の人間―自然相互関係がいかにあるべきかを考えることが現在求められている.
キーワード:生物多様性の危機・生物資源・賢明な利用・分野横断的研究・人間―自然相互関係

●書評―『ネズミの分類学―生物地理学の視点』/『バイオディバーシティ・シリーズ 節足動物の多様性と系統』/『子育てする魚たち―性役割の起源を探る―』


English_conents

Asakura Akira:Difference in life between men and women(65)
Special feature:Courtship behavior and mate choice in crabs
Koga Tsunenori:Introduction(66)
Koga Tsunenori:Fighting for avoidance of predation or acquisition of mate:male strategies for survival and mating(67)
Sato Taku & Goshima Seiji:Prudent sperm allocation in response to a temporal variation of the female reproductive quality(76)
Matsumasa Masatoshi:Sexual Selection:Can we measure costs for courtship display?(85)
Leeann T. Reaney(Translation by Ohata Mari):The sexy world of fiddler crabs:mate choice, predation, and synchrony in Uca mjoebergi(94)
Murai Minoru: Female choice for wave height in the fiddler crab Uca perplexa(105)
Mikami Osamu K.:Should the tree sparrow Passer montanus be included in the Red List of
Japan?(108)
Yumoto Takakazu:Why is the Japanese Archipelago a biodiversity hotspot?(117)
Book reviews(126)


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