日本生物科学者協会編集 農文協発売
生物 科学
 
バックナンバー
本書のねらい
投稿の手引き
編集委員
購入申込
定期購読申込
農文協のトップへ
 
生物科学
Volume 64,No.2 2013

Feb.

目次

特集:霊長類野外研究の現在

巻頭言:コンゴの森から(湯本貴和)……65

松本晶子:特集にあたって……66

五百部裕:日本人研究者によるアフリカにおける野生霊長類研究の過去,現在,そして未来……67
 日本人霊長類学者による当初のアフリカでの調査は,「探検」の趣が強くまた類人猿を対象としたものであった.その後,単独行で広域調査を行い長期継続調査地を選定するという時代を経て,研究者が調査基地の運営をしつつ自らが資料を収集するという町工場的な運営手法により,類人猿を対象とした長期継続調査が行われるようになった.しかし1980年代後半以降,より生態学的資料の重要性が増し,かつ年間を通して継続して資料を収集する必要性が生じてきた.こうした中,調査地の運営方法も次第に大企業方式への変化を余儀なくされている.また類人猿だけでなく他の動植物の調査を行う必要性も生じている.そこで,こうした調査地の運営手法や対象の変化が,今後のアフリカにおける野生霊長類研究に与える影響を考察した.
キーワード:アフリカ,大型類人猿,野外研究,運営手法

保坂和彦:野生チンパンジーの長期研究から見えてくるもの―狩猟・肉食行動をめぐって―……76
 半世紀前に東アフリカで始まったチンパンジーの長期研究は,今や生息域全体に調査地が設置され,さまざまな研究テーマに関して地域間比較が可能な時代を迎えている.その変遷の過程において,野生チンパンジー研究の視点や手法はどのような変化を遂げたのだろうか? 本稿では,パイオニアワークの時代から注目度の高かった研究テーマとして狩猟・肉食行動を取り上げ,野生チンパンジー研究者の関心事や見解がどのように推移してきたのかを概観する.とくに過去20年,長期調査地の増加がきっかけとなり白熱した論争となった「集団狩猟」という話題を中心に紹介し,チンパンジーの長期研究の今後の展望を考える材料のひとつを示したい.
キーワード:チンパンジー,長期研究,単位集団,狩猟・肉食行動,地域間比較

鈴木滋:同所的に生息するゴリラとチンパンジーの種間関係を探る……85
 アフリカ熱帯林では,ゴリラとチンパンジーが同所的に広い範囲で生息しており,ほとんどのゴリラと半数近くのチンパンジーは同所的に分布すると推定される.両種の長期調査地は長らく2種が異所的に生息する地域であったため,共存域ではゴリラとチンパンジーの食性が大きく重複することは1980年代まで知られていなかった.共存域における研究では,両種の同所的共存の潜在的な競合関係に関心が集まり,新たな調査地がいくつも開かれた.また,1990年代以降のアフリカ熱帯林では国際NGOによる各地の保護区の生態学的な基礎データも収集され,同所的なゴリラとチンパンジーの種間関係の地域間比較が可能になってきた.そこで本稿では,ゴリラとチンパンジーの種間関係の研究経緯と近年の進展を概観し,今後の展開の可能性を検討してみたい.
キーワード:ゴリラ,チンパンジー,アフリカ,熱帯林,種間関係

松本晶子:サバンナに生息するヒヒの研究……95
 ヒヒはサバンナに適応した霊長類である.サバンナは熱帯草原ともいわれ,乾期と雨期が明確な熱帯地方のことをさす.他の霊長類と比較したヒヒの社会生態の重要な特徴として,山地から砂漠にいたる多様な環境に生息すること,種内の形態・社会・行動に多様性が大きいこと,「だまし」のような高度な知性を持つことなどをあげることができる.また,アフリカからアラビア半島の一部におよぶ広い地域に生息し個体数も多いことから,調査が比較的容易な種だということができる.ヒヒの調査は1960年代から欧米の研究者を中心に進められてきた歴史があり,日本人の研究者の間では,いまさら新しく研究に参入しても太刀打ちできないというイメージが先行していた.しかし,小規模の研究地の多くは研究発表も限られていて,多様な環境に生息する多様なヒヒの姿を示すという点で十分ではない.一人の研究者ができることには限りがあるので,むしろいろいろな地域からの研究は歓迎すべきであるといえる.
 ところで,サバンナで生息している最も大型の霊長類であるヒヒの社会生態は,サバンナに進出した人類の姿を再現するうえで重要な手がかりを与える資料を提供すると考えられる.人類史において,サバンナへの進出は一つの重要な出来事である.人類が直立二足歩行の完成,脳サイズの増加,道具使用を発達させた場所がサバンナである.これまで,日本人研究者は,ヒトに遺伝的・系統的に近い大型類人猿を人類進化のモデルとする研究に重点をおいてきた.しかし,現生の大型類人猿はどの種も森林を出てサバンナに進出しておらず,サバンナに生息する霊長類を研究する必要がある.
 本稿では,ヒヒを対象とした研究の中から,生物学一般のみならず人類学においてもいまだ問題の多い種分類,そして,いくつかの調査地から報告されてきた社会行動のなかから,ヒトにおいてとくによくみられる利他行動について,最近の成果を概説する.また,日本と欧米の両方のプロジェクトで調査をしてきた経験をもとに,日本と欧米の研究の相違点を示し,両者の良い点をふまえた野外研究のあり方についても検討する.
キーワード:ヒヒ,人類学としての霊長類研究,多様性,種分類,利他性

中川尚史:霊長類の社会構造の種内多様性……105
 霊長類の社会構造は実に多様である.霊長類学では早くからその多様性に着目し,環境への社会的適応を調べる社会生態学が盛んであったが,近年その精緻化が進んできた.本稿ではまず最近の社会生態学モデル,その検証研究,そこから浮かび上がったモデルの問題点を概説する.その後,霊長類社会構造研究の最近の展開の方向のひとつとして種内変異を取り上げ,ニホンザルの社会構造の種内変異研究について詳述する.
キーワード:霊長類,社会生態,種内変異,遺伝,文化

藤岡毅:低線量被曝の健康への影響をめぐる論争〜ECRRの歴史的背景〜……114
 欧州放射線リスク委員会(ECRR)は,放射線防護の国際的権威であるICRPの線量体系に徹底的な批判を行ない,内部被曝の影響を考慮した新しい線量体系を提出した.放射線専門家の一部はECRRをジャンク科学と呼ぶ.しかし,ECRRは低線量被曝の危険性を過小評価してきたICRPに対する科学者たちの長年にわたる批判活動を背景として生まれたものである.福島原発事故が起こってしまった今,その主張に真摯に向き合うべきであろう.
キーワード:国際放射線防護委員会,ICRP,欧州放射線リスク委員会,ECRR,低線量被曝,内部被曝,放射線生物学,福島原発事故

書評—『海のブラックバス サキグロタマツメタ』『動物の性』『利他学』『共生細菌の世界』


English_conents

Yumoto Takakazu : A letter from the tropical rain-forest at Congo(65)
Special feature : Recent advances of the primate studies in the fields
Matsumoto-Oda Akiko : Introduction(66)
Ihobe Hiroshi : The past, present and future of studies on African wild primates by Japanese researchers(67)
Hosaka Kazuhiko : What do we learn from long-term studies on wild chimpanzee predatory behavior?(76)
Suzuki Shigeru : In search of inter-species relationships between sympatric populations of gorillas and chimpanzees(85)
Matsumoto-Oda Akiko : Studies of baboons living in savanna(95)
Nakagawa Naofumi : Intraspecific diversities of social structures in non-human primates(105)
Fujioka Tsuyoshi : The Controversy about the health effects of low-dose ionizing radiation–the historical background of ECRR(114)
Book review(125)


生物科学のトップへ農文協のトップへ

農文協の定期刊行物
農文協のトップへ
月刊 現代農業
季刊地域
別冊 現代農業
季刊 うかたま
季刊 のらのら
月刊 初等理科教育
月刊 技術教室
隔月 保健室
 
関連サイト
食と農学習のひろば
「総合的な学習の時間」で食農教育をすすめる先生がたを支援するサイト。教材づくりに役立つデータベースや書籍やリンクを紹介。
ルーラル電子図書館
有料・会員制の電子図書館。食・健康・農業・環境などの情報を検索・表示。
田舎の本屋さん
有料・会員制のインターネット本屋。本探しからお届けまで。会員は送料無料。

ページのトップへ


お問い合わせは rural@mail.ruralnet.or.jp まで
事務局:社団法人 農山漁村文化協会
〒107-8668 東京都港区赤坂7-6-1

2013 Rural Culture Association (c)
All Rights Reserved