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生物科学
Volume 65,No.2 2013

Nov.

目次

特集:生物音響学の最前線─生物ソナー,聴覚と工学的応用

巻頭言:社会的殺人としての自殺(上田恵介)……65

高梨琢磨・二橋亮:生物音響学の最前線─生物ソナー,聴覚と工学的応用……66

力丸裕:コウモリの生物ソナー機構……68
 本論文では,CF-FMコウモリとよばれる種類のコウモリの生物ソナー機構について仮説を論説する.具体的には,ワイヤレス小型軽量マイクロフォンを搭載した飛行中のコウモリから計測された生物ソナーのための放射パルスとエコーの特徴について述べ,戻ってくるエコーに載っている微弱な信号の抽出方法を考察する.CF-FMコウモリは,信号を載せた搬送波としてのエコーの周波数と振幅を安定させるために,それぞれドップラー・シフト補償とエコー振幅補償を施す.さらに,仲間のコウモリとの混信対策として,予想とは反して,搬送波の周波数(エコーの周波数)をあえて接近させる事実について説明する.
キーワード:テレマイク,ドップラー・シフト補償,エコー振幅補償,搬送波,エコー混信対策

小池卓二:哺乳類末梢聴覚器の振動挙動シミュレーション……75
 空気の疎密波である音は,鼓膜で機械的振動に変換され,耳小骨を経て,蝸牛内リンパ液へと伝達される.蝸牛内では,リンパ液を介して感覚細胞が刺激され,感覚細胞において機械的な刺激は電気信号へと変換され,聴神経を介して脳に伝達される.このような振動の伝達・変換プロセスを経て哺乳類は音を認識している.しかし,聴覚器は側頭骨と呼ばれる硬い骨に覆われた観測し難い位置に存在し,振幅も微細であるため,その振動挙動を生理的状態で計測することはきわめて困難である.また,測定可能部位も限定されるため,聴覚器における音受容のプロセスにはいまだに不明な点が多い.そこで本稿では,中耳および蝸牛の三次元有限要素モデルを作成し,空気中を伝播してきた音波が体内の振動に変換される過程を解析した.
キーワード:中耳,蝸牛,振動,有限要素法,モデル化

赤松友成:イルカのソナーと海洋生物の遠隔観測……82
 海洋生態系の頂点にたつイルカは,ハンターとして餌を見つけるソナー能力を進化させてきた.50マイクロ秒というきわめて短い広帯域音を用いて,対象の位置を正確に知ることができるだけでなく,反射音の音色から材質や形状までも判別する.この仕組みを再現することができれば,獲る前に価値のある魚かどうか判断したり,多様な海の生き物を遠隔的に見たりすることができるだろう.そこでイルカを真似た広帯域ソナーを製作し,現場で生物種判別を試みた.
キーワード:広帯域ソナー,エコーロケーション,収斂進化,魚群探知機

小田洋一:ゼブラフィッシュの発達過程における聴覚獲得の仕組み……90
 発達段階でどのような過程を経て聴覚を獲得するかを,我々はゼブラフィッシュを対象にして行動学的・生理学的・形態学的に調べた.ゼブラフィッシュは発生・発達が早く,発達初期は体が透明で,生体内でニューロンのイメージングが可能であるし,最近電気生理学的なアプローチも確立されてきた.また遺伝子操作が容易で変異体も豊富など分子基盤に至る研究標本としても優れた特徴を持っている.なんといっても音に敏感で音刺激に対する行動解析にも適していて,聴覚の研究対象として注目されている.我々はゼブラフィッシュの胚や仔魚を用いて,音刺激から素早く逃げる逃避運動やそれを駆動する後脳のマウスナー(M)細胞,さらにM細胞に音信号を入力する内耳の発達を調べ,いつどのように聴覚が獲得されるかを解析した.その結果,まず内耳からマウスナー細胞までの神経回路が形成され信号を伝えられるようになったあとで,内耳の有毛細胞が音感受性を獲得して初めてM細胞は聴覚刺激に応答することを見出した.このような過程は,ゼブラフィッシュだけでなく高感度の聴覚をもつ脊椎動物に共通する発達原理を示唆するであろう.
キーワード:内耳有毛細胞,マウスナー細胞,機械受容チャネル,耳石

上川内あづさ:ショウジョウバエの音響交信を支える神経基盤―求愛歌を受容する聴覚系のしくみ―……95
 私たちの生活に彩りを与える「音」は,昆虫においても外敵の検知や音響交信の手段として重要な役割を果たす.本稿では,ショウジョウバエが示す音響交信としての「求愛歌」を紹介し,その受容や情報処理に関わる神経機構に関する最新の知見を紹介する.さらに哺乳類のシステムとの類似性を考察し,ショウジョウバエを実験材料とすることで拓かれる,感覚情報処理研究の将来像を俯瞰する.
キーワード:ショウジョウバエ,求愛歌,ジョンストン器官,神経回路

高梨琢磨・深谷緑・小池卓二・西野浩史:昆虫における振動情報の機能解明と害虫防除への応用……102
 昆虫は,捕食者の検知や,性的な交信のために振動を利用することが明らかになってきている.本研究では,松の害虫であるマツノマダラカミキリにおいて,さまざまな行動をひきおこす振動の特性と機能を明らかにした.また,振動は肢に存在する受容器によって検知されることを発見した.現在,振動を樹木に与え,害虫の行動を制御する新しい防除法の開発を進めており,その実用化を目指している.
キーワード:昆虫,振動,行動,感覚

揚妻直樹:シカの異常増加を考える……108
 シカによる農業被害や自然植生の改変はシカの異常増加によるものであると認識されてきた.その異常増加の原因として地球温暖化・天敵絶滅・狩猟者減少などが挙げられている.ところが,時代を今から数十〜百数十年遡ると,日本各地のシカ生息数はかなり多かったことがわかってきた.そうなると,先に挙げられた原因の妥当性が怪しくなる.シカ個体群の消長には,農地周辺と山林で別々に起きた人間の土地利用の変化が大きく効いていると考えられた.
キーワード:異常,過去の個体群,機能の反応,生息地,被害

揚妻直樹:野生シカによる農業被害と生態系改変:異なる二つの問題の考え方……117
 野生シカに関して農作物被害と生態系への悪影響という二つの問題が起きている.どちらの問題に対しても,シカの個体数を駆除によって制御すれば問題が解決すると考えられており,実際そうした考えに基づく対策が長い間,継続されてきた.しかし,農作物を守ることと自然生態系を守ることは原理的に大きく異なる問題である.したがって,異なる視点からの対策が求められる.ここでは,それぞれの問題はどういう発想で対処すべきかを考える.
キーワード:健全な自然・個体数管理・自然作用による制御・人為的影響

書評—『動物の系統分類と進化(新・生命科学シリーズ)』『右利きのヘビ仮説』


English_conents

Keisuke Ueda:Why does a young man commit suicide?(65)
Special feature:Recent advances in bioacoustics-biosonar, hearing and their applications
Takanashi Takuma & Futahashi Ryo:Introduction(66)
Riquimaroux Hiroshi:Biosonar system in bats(68)
Koike Takuji:Simulation of vibration of mammalian auditory periphery(75)
Akamatsu Tomonari:Dolphin sonar and remotemonitoring of marine organisms(82)
Oda Yoichi:Neural bases for acquisition of auditory sensitivity during early development in zebrafish(90)
Kamikouchi Azusa:Neural basis underlying acoustic communication in fruit flies. -How does the fruit fly receive and process acoustic information?-(95)
Takanasi Takuma, Fukaya Midori, Koike Takuji & Nishino Hiroshi:Functions of vibration signals in insects and application to pest control(102)
Agetsuma Naoki:Are deer populations increasing abnormally?(108)
Agetsuma Naoki:Differences between measures for crop damage by deer and nature conservation(117)
Book review(127)


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