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食品企業の経営・販売戦略に
   今、食品企業で“地産地消”の時代

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今、食品企業も“地産地消”の時代

手まり麩づくり

不況、デフレの中で、安売り競争ではなく、個性的な地域食品によって経営を守ろうとする食品メーカーやスーパーなど小売業の動きが、いよいよ活発になってきた。その動きをみながら、今、食品産業・食品流通業に何が求めてられているかを、考えてみよう。

イオングループのフードアルチザン認定販売

最大手のスーパーチェーンであるイオングループ(ジャスコなど)は、昨年、フードアルチザン(「食の匠」)運動を立ちあげた。アルチザンとはフランス語で職人の意味。イオングループでは、近年、食に関する客の声は大きく変化し、「食の安全性」への関心が高まる中、“地域独自の味”や“昔なつかしい味”へのニーズが増しているとみる。こうした声に応えるために、全国各地で郷土の味を守り続けている多くの生産者からフードアルチザンを公募し、店頭展開しようという取組みだ。公募産品の条件は次のとおり。

細工麩。手まり、ひさご、梅
長野県松本市で開かれた「食の匠展」のポスター

地域の風土、文化、伝統等の郷土色が明確な商品であり、日々の生活の中に取り入れられており、その地域以外では味わえないもの(土産品は対象外)。産品の素材・原料について、地域の特性・伝承にこだわったもの。産品の生産・製造方法について、地域の伝統技術にこだわったもの、である。全国から応募を集め、認定したうえで、イオングループで販売するしくみだ。生産量など規模の大小は問わない。全国展開でなく、地域のものを地域で流通させるという考えだ。

売先きがなくなった中小メーカーが大いに助かる

このフードアルチザン事業の第一弾として、昨年11月、長野県松本市のジャスコ南松本店で、「ながの食の匠展」が開かれた。飯田市産のリンゴ、鬼無里村のおやき、松本市産の「二年味噌」、東筑摩郡明科町産のニジマスを丸い形に揚げた「ニジマス円(つぶら)揚げ」などが並び、大変好評だった。この取組みに参加し「二年味噌」と「漬物たまり」を出品した株・丸正醸造(松本市)の林利親社長は次のように話す。

「地方の小さな食品メーカーはどこも売先きがなくて困っています。地元の酒屋、八百屋、食料品店がどんどん消え、大手スーパーがナショナルブランドの特売で攻めてきますから。そんななかで、イオンさんのフードアルチザンは、私たちのような中小メーカーにとっても画期的な取組みだと思っています。商品の個性が明確で、衛生管理もしっかりしているなど、認定にはきびしさもありますが、個性的で質のいい製品をつくり続けているメーカーには大きな励ましになると思います。私どもの『二年味噌』は以前からジャスコで扱ってもらっていましたが、『食の匠展』以降、ずいぶん売れるようになりました」。

丸正醸造の「二年味噌」は、地元長野産のダイズと米を使い、2年間熟成させる。

「近年の味噌は糀歩合が多くなり、甘くなる傾向にあります。しかし、ほのかな甘味のある淡白な味のごはんには、甘味を控えたコクのあるみそ汁が合うと私どもでは考えております」と、林社長。独自な製法と食文化にこだわる。

大量生産、大量消費のシステムを流通の側から担い、日本人の食の画一化に大いに貢献してきた大手スーパーが、地産地消に本腰で取組む時代なのである。

流通業界も注目「地域特産品認証事業」(Eマーク)

図:地域特産品の認可票

各県でも、地元産の原料を使った地域食品を育成しようという動きが広がっている。その一つが「地域特産品認証事業」である。地域で生産され、原材料や製法など素性が明らかな「地産地消タイプ」の特産品について、各都道府県で基準を設けて認証し、共通の認証マークをつけるというしくみだ。認証された地域特産品は、その優れた品質と信頼の証として「Eマーク」が表示され、消費者が商品を選ぶときの目安になるというものである。

国の立場からこの事業を推進している(財)食品産業センターの漆原英彦氏(環境・普及部長)は、このねらいについて、次のように話す。

「生産量が少なく、知名度もないが、地域の原料を使っていいものを生産している、そんな地方の中小食品メーカーが力をつけるよう、支援したい。Eマークでどんどん販売しようというより、食品メーカーの拠り所になればいいと思っています」

中小メーカーが経営を拡大するためではなく、地場産業として誇りをもって生きていくための支援策といえよう。この事業は平成三年から始まり、現在、青森県の約220商品を筆頭に、23県で2000近い商品が認定されている。ここへきて応募する食品が増え、西友やジャスコなどから説明を求められるなど、流通業界の関心も強まってきたという。

こうした地域食品の流通の手助けをしようと、食品産業センターではインターネットで「ふるさと食品電子マーケット」を立ちあげている。地域食品メーカーが自分の製品を登録し、流通業等のバイヤーがみれる登録制の無料サイトである。距離や時間の制約を受けずに、いつでも、どこでもビジネス情報の発信と収集ができる、というわけだ。現在、メーカーが350社、バイヤーが1100社、登録されているという。さらに、平成14年度から「地域食品製法認証事業」がスタートした。Eマークは地域産・県産の原料を使ったものだが、こちらは、たとえば大阪の昆布や東京の江戸味噌など、原料は地元産でなくても、地域の食文化を活かし、特色ある製法でつくられた食品を認証しようというものだ。

このように食品企業に新たな動きが生まれているが、課題も多い。先に紹介した食品産業センターの漆原さんは、次のようにいう。

「中小メーカーは一般に人材不足で、これまでの製品を維持するのに精一杯で、新しい製品を開発し販売するのが難しい状況です。かつては、食品工業試験場と地元メーカーが一緒になって地域の特色をいかした製品開発をすることが多かったが、最近では、そうした取組みも弱まっています。販売方法も含め商品提案するコーディネーターとか、農業に農業改良普及員がいるように、食品改良普及員がいればと思いますね」

食品企業のコーディネーター「食品加工総覧」

そんな食品企業のコーディネーター役として、ぜひ活用したいのが農文協発行の「食品加工総覧」(全12巻)だ。本書の価値について、地元のサツマイモを生かした菓子製造に取組む鹿児島県・九面屋の鳥丸正勝社長は、仲間とともに立ちあげた産学官連携の「さつまいも研究会」の活動にふれながら、次のように述べている。

●地域に生きる企業として―九面屋・鳥丸正勝

研究会のテーマは「食は材にあり」「地域の技術の確立」「マーケティングと流通」の3つである。「食は材にあり」では、農家との契約栽培をはじめ用途別の品種選択、特に育種に心がけた研究をする。「地域の技術の確立」では従来の伝統技術をベースに先端技術との結合をはかる“中間技術”の開発と、異業種技術の食品技術への導入をめざし、さらに「マーケティングと流通」では「さつまいも館」など生活者との対話を重視している。このように研究会は、素材生産、加工技術、販売戦略の3分野をシステムとして結合し、21世紀のモノづくりをどうすればよいかを総合的に追求する集団である。

この私たちの課題に『食品加工総覧』は農村加工に焦点を当てているがゆえに、一般の食品加工の専門書では得られない情報がのっており、たいへん役立つものだ。「食は材にあり」―本書には農畜産物から山の幸、林産、水産まで400種におよぶ地域素材の特性と加工用途が網羅され、商品開発のヒントに富む「食材事典」として活用できる。各食品については、その歴史から機能性などの特性、加工方法、事例までを記述している。

農村加工を対象とするという本書の編集意図から、大規模生産やハイテク技術には触れていないが、伝統的な食品のよさを生かして商品化するための加工方法の記述、あるいは事例の中に伝統技術と先端技術を結合する「中間技術」の実践的なあらわれをみることができ、示唆に富んでいる。たとえば第5巻の干しいもの項目にある、天日乾燥の原理とそれを分析して得られた低温調湿乾燥法などは伝統技術の解析とその応用をしめすものである。

1989年JICA技術指導用に携行した太陽熱利用低温調湿乾燥装置と蒸し器および切断器

「マーケティングと流通」の課題では産直を進める農村のほうが、新しい流通を生み出す先進地域ともいえ、事例の「顔の見える販売方法」など、宝が眠っているといえそうである。

地域の連携の中に生きる企業として、産業を通じて地域の文化や政治まで巻きこんでいく新しい地方の時代の芽を伸ばしたい。中央のみに向き合ってきた地方が目覚め、新しい多様な地方の時代を演出する舞台づくりが始まっているのだ。

〈加除式〉で、本書の魅力はますます高まる

「食品加工総覧」には、この九面屋さんなど多数の食品企業の事例が紹介されている。会社案内や社長の抱負ではなく、企業のノウハウに農村が学ぶために、商品開発の経緯から原料の入手法、加工方法、そして販売方法までを記述。おいそれとは得られない情報だ。地域に根ざした企業戦略の先進事例としても学ぶことは多い。

今年度、第2巻「販売戦略・経営管理」をもって完結するが、本書は加除式出版物であり、「追録」として毎年、新しい情報が加わっていく。地域素材を生かした新商品開発や、ますます課題になる「中間技術」の創造。あるいは農工商の地域的な提携など、個性的な商品開発と流通改革という時代の大きなうねりのなかで生まれる実践的な情報が絶えず付加され、本書の魅力はますます高まっていくことだろう。

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