- 特集キーワード 森田和良
- インタビュー 内田伸子氏に聞く
/子どもの内面を洞察し,適切な手立てができる教師へ
- 理科で育てる「伝え合う力」 角谷詩織
- 相手を意識した「家族への説明活動」で,伝え合う力を育てる 森田和良
- 異なる集団との交流から伝え合う力を育てる
─2年生生活科「げんきに育ってね」の実践─ 甲斐百合子
- 音声言語で考えを伝え合い深め合う理科学習を成立させるために
─3学年の「光を当てよう」で「根拠にもとづいた討議」を実践するまで─
増田和明
- 「聞き手」が学びを深める 木梨朋幸
- 主題研究を読んで 主題研究から伝え合う力を考える 鏑木良夫
新学習指導要領では,改めて「生きる力」の育成が強調された。特に,その背景となった「キー・コンピテンシー」の考えにある「異質な集団で交流する力」の重要性には,注目が集まっている。
ところが,学校の授業は,その多くが同年齢の子ども集団のなかで実施されるので,なかなか「異質な集団」で交流活動を行う機会は少ない。それでも,いろいろな工夫をして交流活動を試行している授業も,生活科や総合学習のなかでは増えてきている。
ここでポイントになるのは,発表会やプレゼンテーションという形式(型)さえ用いれば,「交流する力」が育つと思いこまないことである。もちろん,このような形式や場の設定は必要なことであるが,そのような場面で子どもがどのような交流をしているのかという実態を,よく把握することが必要である。これまで実践されてきた生活科や総合学習でも,異質な集団を相手に交流活動が実施されていた。しかし,形骸化した実践もけっして少なくない。それは,形式(型)を真似するだけで終わっているからである。つまり,「型」を真似るだけでは「力」は育たないということだ。
例えば,発表会の場で,子どもは調べたことをもとに情報発信する。しかし,その多くは発表者が一方的に情報を発信し,聞き手にわかってもらおうという意識まで及ばない。また,聞き手も発表を聞いているだけで,発表内容の意味をわかろうとか,自分の知っている情報とのズレを解消したいという意識が乏しいので,質問も出てこない。これでは,異質な集団で交流する力は育たない。「型」はもちろん必要だが,そこで何を育てるのかというねらいと,それを具体化する方法,つまり,理念と方法の両面が必要なのである。
交流するのであれば,相手の意識や理解の仕方に関心を寄せるのは当然のことである。したがって,発表会やプレゼンテーションでは,聞き手を誰に想定するのかが重要となる。さらに,相手の理解を促進する“道具”も準備する。そのような入念な準備をしたうえで,相手との相互交流を図りながら,自分の伝えたい内容を示していく。理解を促す大きな役割を果たすのが言葉である。交流することで言葉の吟味も実行され,説明する本人の理解も深まる。このような高度なコミュニケーションを体験する場が求められる。
それでは,このようなコミュニケーションをする場が,従来の理科授業のなかで設定できるのか。なかなかイメージがつきにくい。でも,理科学習のなかでもこのようなコミュニケーションを体験する場は不可欠である。それは,「伝え合う力」「交流する力」などが含まれる「生きる力」は,すべての教育活動を通して育てるべきものだからである。
理科学習で実行可能な交流活動を模索し,「生きる力」の育成につながる「『伝え合う力』を育てる理科授業」について,本号では論じていきたい。(担当/森田和良)
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